君の顔が思い出せない

二度目の訪問

どうやら味方だと思われる二人から、敵かどうかわからないから、会っても良いといわれた相手に会いに行く。

誰を信じたらいいのか既に分からなくなっているが、おそらく彼女は敵だと思う。

それが、アレックス側かクラウス側か、あらたな立場かははっきりしないが、立ち入り禁止の場所に、誘導された身としては、敵と繋がっていることは確実だと思う。

私は今がどう言う状況かを確認するのに忙しい。本来なら記憶喪失の人間は自分を取り戻すことに必死なんじゃないだろうか。エドワードという男の過去が知りたい。それも今まで会った人物じゃなくて、利害関係のない者の証言を聞きたい。でも誰に頼めば良いのだろう。私は暫定的にまだ信じられるリックを呼んで、お願いしてみた。すると、暫し考えたあと、連れてくると約束してくれた。

部屋の外で、人の気配がした。侍女が話を聞いていた。何らかの動きがあちらさんにもあるだろう。おそらく私の親兄弟に扮した誰かを手配してくるのだろう。

私は記憶もないのに、その人達が私についている嘘を見抜かなくではならない。真実がどれかもわからないまま。

私の妻を助けるにはそれしか方法がない。早く記憶を取り戻さなくちゃ。

私は待つ間、また温室を訪れた。彼女が敵だと認識するために。彼女は今日は植物に水をあげていた。魔法を使って、全体的に水を降らせている。綺麗に小さな虹があちらこちらに浮かんでいて、中々幻想的な雰囲気を醸し出している。

彼女が、自分の敵であると思うものの、私はこの空間が好きだった。彼女の雰囲気も含めて、一緒にいると安心する。今日は彼女の名前を教えて貰える日だ。

自分がどこか浮かれているのが、わかる。彼女としては、私を騙すのは赤子の手をひねるほど簡単なことだ。記憶をちらつかせ、思いのままに動かせる。記憶を取り戻すための魔法はあるのだろうか。それもリックに確認してみよう。

「あら、こんにちは。エドワード様。」

彼女は人にどう見られるかをよくわかっている厄介な人だ。私を見て嬉しそうに目を細める。いかん。私にはエリーと言う妻がいる。前の私も、色仕掛けには弱かったのだろうか。

「君の名前を教えてくれる？」
「宿題の提出が、先ですわよ？」
「侍女はどうやらアレックスの愛人か何かだ。本館に居座っている彼に私の情報を流している。それで、合っているか？」
「ええ、よくできましたわね。エドワード様。私の名前は、お教えしますわ。」

彼女の顔を見続けるのは危険だ。あまりに魅力的で、彼女が妻だったなら、と思ってしまったのだから。

「私の名前は、リディア・ボートウェルですわ。アレックスの正式な妻ですの。以後お見知りおきを。」

私は衝撃的な内容をちゃんと聞いていなかった。彼女の綺麗なカーテシーに見惚れていたからだ。