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兄の嘆き
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「正確にはシリル・タリーレ第一王子。タリーレ公国の王位継承権を持たない第一王子の仕組んだおふざけだな。目的は、多分王家の強奪、私を殺して、リリアを連れ帰ることだ。
よっぽど私がお気に召さないらしい。」
淡々と話すライモンドは、まるで、全てわかっているように、少しの動揺すら見せない。
「ライは面識があるの?」
「いや、会ったことはないはずだ。ただ、私を狙った彼らにフリードは襲われているし、彼が自分の生い立ちを呪って、王位に並々ならぬ執着があるのも知っている。
彼は考えたんだ。自国の王位が継げないのなら、他の国の王位に就けばよいと。
多分、リスルのような小さな国に、狙いを定めたのは、私のせいだ。すまない。」
「どう言うこと?」
「タリーレ公国には、帝国の人間は入っていない。そこそこ大きな国ではあるが、帝国にとっては取るに足らない、そんな国だ。
それなりに自負はあったのだろう。それが、帝国に相手にされない、と言うのは、プライドが傷つけられた。
元より、なぜこんな小さな国に、帝国が注意を払うのかと潜伏し、リリア及びアーレン公爵家を見つけた、といったところか。全ては私がこの国に留まったからだ。」
「タリーレ公国には抗議する方が良いかしら。」
「……何もかも終わってからでも、良い気はする。と言うか、知っているはずだ。少なくともあの男が、可愛がっている妹達から国王は、情報を得ているようだからな。」
悪い笑みをするライモンドを見ながら、リリアはため息をついた。厄介な男を好きになってしまった自覚はある。
「あちら側から仕掛けてくるなら、帝国が介在しても不自然にはならないし、この状況は願ったり叶ったりだな。」
セシリア嬢とカレン嬢は、別室で、尋問を受けている。罪を認めてからは、大した抵抗もなく、素直な様子だ。
ただ、彼らの素性については本当に知らなかったらしく、ライモンドによりもたらされた情報に目を白黒させていた。
彼女達が知っていた情報とは、子爵家と男爵家が、王妃の要望で、リリアを害すための薬を作ろうとしていたぐらいで、その事実を知ったあとは、恐ろしさに震えて暮らしていたとか。
大袈裟な表現だが、実際にはそれに近い。貴族令嬢なだけあって、淑女らしく、動じない姿勢を崩さなかったが、精神的に追い詰められていたらしく、知っていることは、しっかりと自白してくれた。
今回唯一謎の人物である、王妃宮の侍女、ララ・スミスに於いては、何の情報もないことが、逆に不気味ではあるが、楽しそうに唇を歪めて笑うライモンドを見ると大丈夫な気がしてくるから不思議だ。寧ろ相手方に同情する。
「王妃宮の侍女とは言っても、私このララと言う人に会ったことはないのよね。」
「フリードの報告によると、男爵家の出身で、ほんわかした可愛らしい人物らしい。仕事はできる方だが、そんな大それた計画を考えるようには見えないらしい。」
リリアは、王妃宮にいながら、その印象であり続ける人物がどれほど厄介か知っている。女の嫌な部分だけを凝縮したようなところが、王妃宮だと思っているので、その情報を聞いた時点で、ララが要注意人物であることを理解した。
リリアは同じ頃、パーニー子爵家に押し寄せているだろう、兄ジェイムズに思いを馳せていた。彼らは何度も、パーニー領を訪れていた。第二騎士団長サイラス卿と、一緒だから、あまり心配はしていないが、ダグラス卿に負けず劣らず脳筋の兄が暴走しないかが心配だった。
狩の間の兄には決して会いたくない。実の妹であっても、わからなくなるらしいから。根っからの戦闘狂を兄に持つなんて、ついているのかどうかがわからない。
「それはそうと、お前ら、いつまでひっついているつもりだ。」
リリアもライモンドもその声で、二人以外に人がいたことに気がついた。
「エリお兄様、いらしたのですね。」
「いや、最初からいたぞ。」
「いらっしゃるなら、教えてくださいよ。」
「いや、だから、最初から……」
今に始まったことではないが、リリアとライモンドはどうやらお互いしか目に入っていない時が多々ある。
王子と言う、邪魔がなくなったのだから、仕方ないにしても、兄からすると、将来のない男に近づくのはできたら、やめてほしい。帝国の王子といえど、一生光を浴びることが許されない存在の男が、リリアの望みなら仕方ないのだが、何とかしてあげることができたら、と。
政略結婚とはいえど、既に幸せな自分と違い、二人にはこれからも障害がつきまとう。エリオットや、ジェイムズより強い男が良いというリリアの理想通りの男が選ばれたとは言え、厄介だな、と将来の義兄として可愛くない男を眺めた。
「俺の妹は、あんなに完璧なのに、何で変な男ばかり呼び寄せるんだ。」
エリオットの呟きに真顔のフリードが返事をする。
「完璧だからこそ、目をつけられるんじゃないですか。王家に近くなればなるほど、人格破綻者は多くなりますからね。周りを見てごらんなさい。」
「ああ、そうだな。」
フリードとエリオットの話し声は、幸いにもリリアとライモンドには届かなかった。
よっぽど私がお気に召さないらしい。」
淡々と話すライモンドは、まるで、全てわかっているように、少しの動揺すら見せない。
「ライは面識があるの?」
「いや、会ったことはないはずだ。ただ、私を狙った彼らにフリードは襲われているし、彼が自分の生い立ちを呪って、王位に並々ならぬ執着があるのも知っている。
彼は考えたんだ。自国の王位が継げないのなら、他の国の王位に就けばよいと。
多分、リスルのような小さな国に、狙いを定めたのは、私のせいだ。すまない。」
「どう言うこと?」
「タリーレ公国には、帝国の人間は入っていない。そこそこ大きな国ではあるが、帝国にとっては取るに足らない、そんな国だ。
それなりに自負はあったのだろう。それが、帝国に相手にされない、と言うのは、プライドが傷つけられた。
元より、なぜこんな小さな国に、帝国が注意を払うのかと潜伏し、リリア及びアーレン公爵家を見つけた、といったところか。全ては私がこの国に留まったからだ。」
「タリーレ公国には抗議する方が良いかしら。」
「……何もかも終わってからでも、良い気はする。と言うか、知っているはずだ。少なくともあの男が、可愛がっている妹達から国王は、情報を得ているようだからな。」
悪い笑みをするライモンドを見ながら、リリアはため息をついた。厄介な男を好きになってしまった自覚はある。
「あちら側から仕掛けてくるなら、帝国が介在しても不自然にはならないし、この状況は願ったり叶ったりだな。」
セシリア嬢とカレン嬢は、別室で、尋問を受けている。罪を認めてからは、大した抵抗もなく、素直な様子だ。
ただ、彼らの素性については本当に知らなかったらしく、ライモンドによりもたらされた情報に目を白黒させていた。
彼女達が知っていた情報とは、子爵家と男爵家が、王妃の要望で、リリアを害すための薬を作ろうとしていたぐらいで、その事実を知ったあとは、恐ろしさに震えて暮らしていたとか。
大袈裟な表現だが、実際にはそれに近い。貴族令嬢なだけあって、淑女らしく、動じない姿勢を崩さなかったが、精神的に追い詰められていたらしく、知っていることは、しっかりと自白してくれた。
今回唯一謎の人物である、王妃宮の侍女、ララ・スミスに於いては、何の情報もないことが、逆に不気味ではあるが、楽しそうに唇を歪めて笑うライモンドを見ると大丈夫な気がしてくるから不思議だ。寧ろ相手方に同情する。
「王妃宮の侍女とは言っても、私このララと言う人に会ったことはないのよね。」
「フリードの報告によると、男爵家の出身で、ほんわかした可愛らしい人物らしい。仕事はできる方だが、そんな大それた計画を考えるようには見えないらしい。」
リリアは、王妃宮にいながら、その印象であり続ける人物がどれほど厄介か知っている。女の嫌な部分だけを凝縮したようなところが、王妃宮だと思っているので、その情報を聞いた時点で、ララが要注意人物であることを理解した。
リリアは同じ頃、パーニー子爵家に押し寄せているだろう、兄ジェイムズに思いを馳せていた。彼らは何度も、パーニー領を訪れていた。第二騎士団長サイラス卿と、一緒だから、あまり心配はしていないが、ダグラス卿に負けず劣らず脳筋の兄が暴走しないかが心配だった。
狩の間の兄には決して会いたくない。実の妹であっても、わからなくなるらしいから。根っからの戦闘狂を兄に持つなんて、ついているのかどうかがわからない。
「それはそうと、お前ら、いつまでひっついているつもりだ。」
リリアもライモンドもその声で、二人以外に人がいたことに気がついた。
「エリお兄様、いらしたのですね。」
「いや、最初からいたぞ。」
「いらっしゃるなら、教えてくださいよ。」
「いや、だから、最初から……」
今に始まったことではないが、リリアとライモンドはどうやらお互いしか目に入っていない時が多々ある。
王子と言う、邪魔がなくなったのだから、仕方ないにしても、兄からすると、将来のない男に近づくのはできたら、やめてほしい。帝国の王子といえど、一生光を浴びることが許されない存在の男が、リリアの望みなら仕方ないのだが、何とかしてあげることができたら、と。
政略結婚とはいえど、既に幸せな自分と違い、二人にはこれからも障害がつきまとう。エリオットや、ジェイムズより強い男が良いというリリアの理想通りの男が選ばれたとは言え、厄介だな、と将来の義兄として可愛くない男を眺めた。
「俺の妹は、あんなに完璧なのに、何で変な男ばかり呼び寄せるんだ。」
エリオットの呟きに真顔のフリードが返事をする。
「完璧だからこそ、目をつけられるんじゃないですか。王家に近くなればなるほど、人格破綻者は多くなりますからね。周りを見てごらんなさい。」
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フリードとエリオットの話し声は、幸いにもリリアとライモンドには届かなかった。
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