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死神とポールの一日
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ポールはその日、死神を見た。死神は、恐ろしく整った顔をしていた。第六皇女を襲った時も、リスルの王妃に近づいた時も感じたことのない恐怖がこの場を支配した。
男達は、あっという間に、場を制圧していく。腕に覚えあり、と話していた輩が恥ずかしくなるぐらいの手際で倒されていく。近くまできて、ようやく死神の正体がわかった。
「お前がポールだな。」
こちらの返事などは待たずにテキパキと捌いていく。私は待機していた馬車に詰め込まれ、移送された。
当たり前だが、拘束されたままだ。御者が待機していて、どこかに運ばれているが、十中八九、タリーレの王子が執着していたライモンドと言う男のところだろう。
しかし、私の目論見は、外れた。リスルの王宮の地下に連れてこられたからだ。周りには知った顔がチラホラ。王妃や、王子、王弟までがいる。てっきり捕まるや否や拷問が始まると思っていたから、気が抜ける。
意外と甘い御仁なのかもしれないな。と、呑気に考えていた。
違和感はあった。ポールが気の所為と思い、スルーしたことが、よく考えたらおかしいと気がつくべきだった。
丸一日、牢にいて、食事は一日二回。栄養バランスに優れた食事をして、紅茶にお菓子まで出る。仮にも王族を牢に入れているからそうなのかと、思ったが、違う。何故かと言うと、同じ時期に入っただろう王妃が、既に歩けなくなるほど衰弱しているからだ。
何かがおかしい。だが、何がかはわからない。向こうから提供されるものといえば、食事。食事の中に、毒が入っているのか?もしかしたら、この事件で使われた薬草が関係しているのかもしれない。
いや、でも……
ポールは思い出す。薬草は、味がしないからどんな料理に混ぜても美味しく食べることができる、と。そうだ。だから、私達の悪事が見つかるまで、ある程度の時間を稼ぐことができた。
と、言うことは、この差し入れの中に薬草が入っていて、健康を害している?
では、加工された物は食べなければ良い。牢にいる間は少しぐらい食べなくても大丈夫だ。ポールはライモンドが自分の利用価値がなくなるまでは生かす筈だと踏んでいた。だから、殺しはしないだろう。
そう思ったのだが、加工食品の提供が次から少なくなったことで、新たな疑問が浮かぶことになった。
見るからに王弟と王子の体力がない。王弟が入ってからは、牢番を置かないことになったのだが、牢番が中にいたとしたら、彼はからくりに気がついただろう。
彼ら、罪人にライモンドが与えた物は二つ。生活するスペースと食事だ。食事は確かに毒入りだったが、死に至る物ではない。少し調子が悪くなるだけのものだが、一人一人に仕込まねばならず、面倒だ。ところが、生活スペースに置いては、各牢ごとに仕切りはあるものの、陸続きで、一気に仕掛けられる。
利用しない手はない。
牢の中の酸素を吸い込めば吸い込むほど、吸い込めないと言う状態にした。人を一気に弱らせるには有効なやり方らしい。
酸素が絶えず足りない状態にすると、喚いたり暴れたりすればするほど疲れ、体力を奪われていく。そのうち、何も考えられなくなり、眠るように動けなくなっていった。
「ちょっと、また壊さないでくださいよ。扉、つけるの大変だったんですから。」
「悪かったって。あまりにも腹が立って、全力で開けたら壊れるんだから、あれは俺のせいじゃないとも言える。寿命だったんだよ。」
意識の混濁した先で、言い争いをしている男性の声が聞こえる。誰かを確認しようにも、頭が痛くて動けない。優しげな声も聞こえる。
「まだ目を開けなくて良いですよ。今起きると、しんどさがぶり返しますからね。」
誰の声かはわからないが、言葉に甘えさせて貰う。何せ、頭が割れるように痛い。ポールは自身を取り囲むメンバーを知らずにひたすら眠り続けた。
次に気がついたのはまた牢の中だ。だが、前いたところと明らかに違う。まず、地下ではないから明るい。そして、目の前にシリル・タリーレが転がされていた。
注意して周りを見渡すと、同じ顔の人間が二人。なるほど、あの二人がライモンド、とヴィオラだったか。
「この姿でははじめまして、ですね。フリードと申します。」
自分を一度襲った者の顔は、忘れない。
「ああ、君が。姉が世話になったようだね。」
隣の皇子から、嫌な空気が流れてくる。
「あの、そこの男は……」
「いや、君と彼のどちらかを助けてみるのも楽しいかな、と。君はどちらが良い?」
「逃がしてくださるのですか?」
「いや、助けるだけだよ。逃げれるものなら逃げたら良いけど、そうじゃない。私は助けるだけと言ったんだ。意味わかる?」
ポールは返事の代わりに顔を顰める。ライモンドは穏やかな笑みを浮かべこちらに耳打ちをする。
「君達を一度だけ助けてあげる。何があっても一度だけだから、考えて使うんだよ。それで、逃げおおせたなら、こちらは君を追わないよ。ただし、逃げられなくても、文句はうけつけないよ。いい?」
良いも何も既に決定事項だろうに。ため息をつきたくはなかったが、ようやく空気をたくさん吸えるのだから、深呼吸をゆっくり行う。頭の痛さは今はない。
タリーレの第一王子は、まだ意識がないようだが、どうやらこのまま進むようだ。ライモンドの言うには、これから私と、タリーレ第一王子はある者と戦うらしい。勝てば解放。負ければ処刑。命を助けるのは一度限り。戦闘中殺されることは有り。
「せいぜい、楽しませてね。」
ポールは不安に包まれた。
男達は、あっという間に、場を制圧していく。腕に覚えあり、と話していた輩が恥ずかしくなるぐらいの手際で倒されていく。近くまできて、ようやく死神の正体がわかった。
「お前がポールだな。」
こちらの返事などは待たずにテキパキと捌いていく。私は待機していた馬車に詰め込まれ、移送された。
当たり前だが、拘束されたままだ。御者が待機していて、どこかに運ばれているが、十中八九、タリーレの王子が執着していたライモンドと言う男のところだろう。
しかし、私の目論見は、外れた。リスルの王宮の地下に連れてこられたからだ。周りには知った顔がチラホラ。王妃や、王子、王弟までがいる。てっきり捕まるや否や拷問が始まると思っていたから、気が抜ける。
意外と甘い御仁なのかもしれないな。と、呑気に考えていた。
違和感はあった。ポールが気の所為と思い、スルーしたことが、よく考えたらおかしいと気がつくべきだった。
丸一日、牢にいて、食事は一日二回。栄養バランスに優れた食事をして、紅茶にお菓子まで出る。仮にも王族を牢に入れているからそうなのかと、思ったが、違う。何故かと言うと、同じ時期に入っただろう王妃が、既に歩けなくなるほど衰弱しているからだ。
何かがおかしい。だが、何がかはわからない。向こうから提供されるものといえば、食事。食事の中に、毒が入っているのか?もしかしたら、この事件で使われた薬草が関係しているのかもしれない。
いや、でも……
ポールは思い出す。薬草は、味がしないからどんな料理に混ぜても美味しく食べることができる、と。そうだ。だから、私達の悪事が見つかるまで、ある程度の時間を稼ぐことができた。
と、言うことは、この差し入れの中に薬草が入っていて、健康を害している?
では、加工された物は食べなければ良い。牢にいる間は少しぐらい食べなくても大丈夫だ。ポールはライモンドが自分の利用価値がなくなるまでは生かす筈だと踏んでいた。だから、殺しはしないだろう。
そう思ったのだが、加工食品の提供が次から少なくなったことで、新たな疑問が浮かぶことになった。
見るからに王弟と王子の体力がない。王弟が入ってからは、牢番を置かないことになったのだが、牢番が中にいたとしたら、彼はからくりに気がついただろう。
彼ら、罪人にライモンドが与えた物は二つ。生活するスペースと食事だ。食事は確かに毒入りだったが、死に至る物ではない。少し調子が悪くなるだけのものだが、一人一人に仕込まねばならず、面倒だ。ところが、生活スペースに置いては、各牢ごとに仕切りはあるものの、陸続きで、一気に仕掛けられる。
利用しない手はない。
牢の中の酸素を吸い込めば吸い込むほど、吸い込めないと言う状態にした。人を一気に弱らせるには有効なやり方らしい。
酸素が絶えず足りない状態にすると、喚いたり暴れたりすればするほど疲れ、体力を奪われていく。そのうち、何も考えられなくなり、眠るように動けなくなっていった。
「ちょっと、また壊さないでくださいよ。扉、つけるの大変だったんですから。」
「悪かったって。あまりにも腹が立って、全力で開けたら壊れるんだから、あれは俺のせいじゃないとも言える。寿命だったんだよ。」
意識の混濁した先で、言い争いをしている男性の声が聞こえる。誰かを確認しようにも、頭が痛くて動けない。優しげな声も聞こえる。
「まだ目を開けなくて良いですよ。今起きると、しんどさがぶり返しますからね。」
誰の声かはわからないが、言葉に甘えさせて貰う。何せ、頭が割れるように痛い。ポールは自身を取り囲むメンバーを知らずにひたすら眠り続けた。
次に気がついたのはまた牢の中だ。だが、前いたところと明らかに違う。まず、地下ではないから明るい。そして、目の前にシリル・タリーレが転がされていた。
注意して周りを見渡すと、同じ顔の人間が二人。なるほど、あの二人がライモンド、とヴィオラだったか。
「この姿でははじめまして、ですね。フリードと申します。」
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「ああ、君が。姉が世話になったようだね。」
隣の皇子から、嫌な空気が流れてくる。
「あの、そこの男は……」
「いや、君と彼のどちらかを助けてみるのも楽しいかな、と。君はどちらが良い?」
「逃がしてくださるのですか?」
「いや、助けるだけだよ。逃げれるものなら逃げたら良いけど、そうじゃない。私は助けるだけと言ったんだ。意味わかる?」
ポールは返事の代わりに顔を顰める。ライモンドは穏やかな笑みを浮かべこちらに耳打ちをする。
「君達を一度だけ助けてあげる。何があっても一度だけだから、考えて使うんだよ。それで、逃げおおせたなら、こちらは君を追わないよ。ただし、逃げられなくても、文句はうけつけないよ。いい?」
良いも何も既に決定事項だろうに。ため息をつきたくはなかったが、ようやく空気をたくさん吸えるのだから、深呼吸をゆっくり行う。頭の痛さは今はない。
タリーレの第一王子は、まだ意識がないようだが、どうやらこのまま進むようだ。ライモンドの言うには、これから私と、タリーレ第一王子はある者と戦うらしい。勝てば解放。負ければ処刑。命を助けるのは一度限り。戦闘中殺されることは有り。
「せいぜい、楽しませてね。」
ポールは不安に包まれた。
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