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お仕置きの範囲
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「そういえば、彼の拘束、頑張って少し力入れたら解けるんだよ。」
ライモンドによるシリル王子への暴力を横目にフリードが白状する。戦闘民族によるジョークは笑えない。
「それは、お前らだけが解ける感じでは……」
エリオットは信じがたい顔をしている。
「えー、本当だよ。ほら。」
通りすがりの少年をあっという間に拘束し、驚いて、全力で抵抗した少年にあっという間に逃げられて、ようやくエリオットは気がつく。
「それって……あいつが非力すぎるの?それとも……」
「あれだけ、ボッコボコにされてるのを見ると知らないんだろうね。あと、単に自分で考えて、生きたことがないんだろうね。」
「それもある意味、壮絶な人生だな。何が楽しくて生きてるのか。」
「彼に王位を剥奪した者が優秀なのか。だからこそ、なのかはわからないけれど、ライモンドは、生きてる価値はないと踏んだんじゃないかな。」
「悪ふざけで大切な人を殺されちゃ敵わないよな。それにしても……容赦ないね……君の弟。お仕置きの範疇を超えているけど。」
「いや、最初殺そうとしていたんだから、甘々でしょう?戦ってはじめて、殺す価値がないって気がつくなんて凄いよね。気の済むまで殴ればスッキリするんじゃない?」
フリードとエリオットのぼんやりとした会話を聞いていた騎士は、聞かなかったことにする。
それでなくても、ただの伯爵家出身の非力な文官だと思い込んでいた男が、タリーレ公国という大国の王子をボッコボコにしているのを見ているのだから。
情報が多すぎて、どこから受け入れていけば良いのか、困惑する。うん、考えるのをやめよう。
騎士は、情報の受け取りを拒否した。どうせ考えてもわからない。時間が勿体ない。騎士は己の処理能力を理解していた。
もう一人の罪人を確認する。ポールと言う男は瞬殺だった。相手はジェイムズだ。こちらは、言わずもがな。仕方ない。
「いやあ、それにしても、間に合ってよかった。」
ライモンドが一仕事終えて、戻ってくる。
「どちらから、来られたのですか。」
「アーレン公爵家です。」
「どこの?」
「え、王都の?」
他にあるのか、と言うようなふてぶてしい態度に自分がおかしいのかと、不思議な感覚に陥いる。
「え、王都のアーレン公爵家って遠いじゃないですか?」
「うん、だから、間に合ってよかったな、って。」
騎士は王都からの道のりを思い出す。まあまあ距離はあったのと、途中一泊したのを思い出して、更に困惑が増していく。
「いやいやいや、通常なら二日はかかりますよ。それを……」
「いや、四時間ぐらいはかかったよ。それぐらいは。」
「いや、単位がおかしいんですって……」
汗を拭きながら、爽やかにネタバラシをする姿は、やっぱりただの文官ではないことが窺い知れる。これのどこが、普通に見えたんだ?
「フフッ、ちょっとだけ助けて貰ったんだ。それだけだよ。」
うん、やっぱり考えたらダメだ。騎士は諦めた。
「あの、それで、あれはどうします?」
最後に現れたララ・スミスこと、タリー伯爵令嬢は、拘束されたまま、放置されていた。
「あれは王都に連れ帰る。今後の交渉次第だ。」
「あの、王都にはどうやって帰るんですか?」
「普通に帰るよ。急ぐ理由もないしね。」そう言って笑った彼を次に騎士が見たのは、二日かけて着いたアーレン公爵家の出迎えの中に、彼の姿を見た時だった。
「タリー伯爵家は、どうだった。」
彼に話しかける前に、ついたばかりのフリードに先を越された。
「思ったとおりだ。既に……、だから、本当に……かどうか、わからないが。多分……だろう。彼女とあの男の関係さえわかれば、落とせる。」
「愛人か、娘か。色ボケって苦手だ。孫ぐらいじゃない?歳を考えろよ。」
「まあまあ。ただの痴情のもつれに、リリアを巻き込んだのには、腹が立つが、自ら責任をとってくれるんだから、良いじゃないか。国を潰した愚王の汚名を未来永劫引き受けてくれるんだから。」
「まあ、そうか。」
騎士は話しかけるのを諦めた。済む世界が違うのだと。物騒な話は聞かない。聞いていない。きっと疲れているのだ、と休暇を申請した。
「……兄様に、助けていただいたから、何かお礼をしないとな。何が良いと思う?」
「兄様は、お前が選んだものなら何でも喜ぶんじゃないか。」
「だから、困るんだが。どうしたものか。」
ライモンドとフリードにとって、畏怖の対象であり、忠誠を誓った存在の兄上とは違うただ優しい癒しの存在である兄様とは、第二皇子のことだ。
彼は第一皇子のスペアと言う位置付けだが、とても大事に育てられ、ライモンドとフリードのことをとても可愛がっている。
そのため、本当に困ったことがあると、第一皇子ではなく、第二皇子に頼ることが必然的に多くなる。
第二皇子には独自の連絡網があって、ライモンドや、フリードが困るとすぐに、助けを送ってくるのだが、その仕組みはわかっていない。
ライモンドやフリードも、第二皇子についての謎に対しては、凄いな、と思うだけで、スルーしているので、わからないままだ。
怖くて、聞けない。とはまた違う。二人とも、第二皇子に対しては、何故だか、ただの弟妹となってしまうようで不思議だ。天然か故意かはわからない。帝国の謎は深まった。
ライモンドによるシリル王子への暴力を横目にフリードが白状する。戦闘民族によるジョークは笑えない。
「それは、お前らだけが解ける感じでは……」
エリオットは信じがたい顔をしている。
「えー、本当だよ。ほら。」
通りすがりの少年をあっという間に拘束し、驚いて、全力で抵抗した少年にあっという間に逃げられて、ようやくエリオットは気がつく。
「それって……あいつが非力すぎるの?それとも……」
「あれだけ、ボッコボコにされてるのを見ると知らないんだろうね。あと、単に自分で考えて、生きたことがないんだろうね。」
「それもある意味、壮絶な人生だな。何が楽しくて生きてるのか。」
「彼に王位を剥奪した者が優秀なのか。だからこそ、なのかはわからないけれど、ライモンドは、生きてる価値はないと踏んだんじゃないかな。」
「悪ふざけで大切な人を殺されちゃ敵わないよな。それにしても……容赦ないね……君の弟。お仕置きの範疇を超えているけど。」
「いや、最初殺そうとしていたんだから、甘々でしょう?戦ってはじめて、殺す価値がないって気がつくなんて凄いよね。気の済むまで殴ればスッキリするんじゃない?」
フリードとエリオットのぼんやりとした会話を聞いていた騎士は、聞かなかったことにする。
それでなくても、ただの伯爵家出身の非力な文官だと思い込んでいた男が、タリーレ公国という大国の王子をボッコボコにしているのを見ているのだから。
情報が多すぎて、どこから受け入れていけば良いのか、困惑する。うん、考えるのをやめよう。
騎士は、情報の受け取りを拒否した。どうせ考えてもわからない。時間が勿体ない。騎士は己の処理能力を理解していた。
もう一人の罪人を確認する。ポールと言う男は瞬殺だった。相手はジェイムズだ。こちらは、言わずもがな。仕方ない。
「いやあ、それにしても、間に合ってよかった。」
ライモンドが一仕事終えて、戻ってくる。
「どちらから、来られたのですか。」
「アーレン公爵家です。」
「どこの?」
「え、王都の?」
他にあるのか、と言うようなふてぶてしい態度に自分がおかしいのかと、不思議な感覚に陥いる。
「え、王都のアーレン公爵家って遠いじゃないですか?」
「うん、だから、間に合ってよかったな、って。」
騎士は王都からの道のりを思い出す。まあまあ距離はあったのと、途中一泊したのを思い出して、更に困惑が増していく。
「いやいやいや、通常なら二日はかかりますよ。それを……」
「いや、四時間ぐらいはかかったよ。それぐらいは。」
「いや、単位がおかしいんですって……」
汗を拭きながら、爽やかにネタバラシをする姿は、やっぱりただの文官ではないことが窺い知れる。これのどこが、普通に見えたんだ?
「フフッ、ちょっとだけ助けて貰ったんだ。それだけだよ。」
うん、やっぱり考えたらダメだ。騎士は諦めた。
「あの、それで、あれはどうします?」
最後に現れたララ・スミスこと、タリー伯爵令嬢は、拘束されたまま、放置されていた。
「あれは王都に連れ帰る。今後の交渉次第だ。」
「あの、王都にはどうやって帰るんですか?」
「普通に帰るよ。急ぐ理由もないしね。」そう言って笑った彼を次に騎士が見たのは、二日かけて着いたアーレン公爵家の出迎えの中に、彼の姿を見た時だった。
「タリー伯爵家は、どうだった。」
彼に話しかける前に、ついたばかりのフリードに先を越された。
「思ったとおりだ。既に……、だから、本当に……かどうか、わからないが。多分……だろう。彼女とあの男の関係さえわかれば、落とせる。」
「愛人か、娘か。色ボケって苦手だ。孫ぐらいじゃない?歳を考えろよ。」
「まあまあ。ただの痴情のもつれに、リリアを巻き込んだのには、腹が立つが、自ら責任をとってくれるんだから、良いじゃないか。国を潰した愚王の汚名を未来永劫引き受けてくれるんだから。」
「まあ、そうか。」
騎士は話しかけるのを諦めた。済む世界が違うのだと。物騒な話は聞かない。聞いていない。きっと疲れているのだ、と休暇を申請した。
「……兄様に、助けていただいたから、何かお礼をしないとな。何が良いと思う?」
「兄様は、お前が選んだものなら何でも喜ぶんじゃないか。」
「だから、困るんだが。どうしたものか。」
ライモンドとフリードにとって、畏怖の対象であり、忠誠を誓った存在の兄上とは違うただ優しい癒しの存在である兄様とは、第二皇子のことだ。
彼は第一皇子のスペアと言う位置付けだが、とても大事に育てられ、ライモンドとフリードのことをとても可愛がっている。
そのため、本当に困ったことがあると、第一皇子ではなく、第二皇子に頼ることが必然的に多くなる。
第二皇子には独自の連絡網があって、ライモンドや、フリードが困るとすぐに、助けを送ってくるのだが、その仕組みはわかっていない。
ライモンドやフリードも、第二皇子についての謎に対しては、凄いな、と思うだけで、スルーしているので、わからないままだ。
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