公爵令嬢は被害者です

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第二皇子②

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リリアを送り届けた後、レオナルドは表情を失くす。彼はライモンドと、ヴィオラ以外にはこの顔で、普段過ごしている。最初は少し揶揄ってやろう、と言うふざけた気持ちだったが、概ねリリアの態度は気に入った。

「それにしても、少し甘いところがあるのが、気にかかるね。」

手塩にかけて育てた大切な弟を一時的にでも預ける相手として、少し物足りないが我慢できないほどではない。

「うーん、ライに嫌われたくないなぁ。」
完全無欠の兄と違い、自分には多少ではあるが、感情がある。

「結局、甘いのは私も同じか。本当にそうだね。」

誰にともなく呟いて、更に上に飛び上がると、リスル国を一望する。

「あんな小さな国、無くしてもよかったのに。」

彼の呟きは、その後に吹いた風によって消え去って行った。




「リリア、兄様に何を言われた?」
ライモンドは心配そうに、リリアに問いかける。

「貴方を頼むと、言われたわ。私がどんな人間か会って見たかった、と。」

ほっとした顔のフリードと、顔を顰めるライモンド。

「兄様は、自由な人だからね。思いたったら、すぐに行動するから、周りが大変なんだよ。」

フリードはそう言って笑っていたけれど、ライモンドは腑に落ちない顔をしている。

「リリア、他にも何かあるよね。教えて。何があったの?」

リリアはライモンドに隠し事ができると思っていたわけではないが、ここで言って良いないようか分からず言わなかったのだが、それを不審に感じてしまったようだ。


リリアは、諦めて、暗殺のこと、ダニエルのことなどを話した。

驚いたことに、暗殺の件は知っていた。いつもそうなんだ、と言って、でも大丈夫、と笑った。

「兄様の強い知り合いにも、心あたりがあるよ。リリアにも、紹介するね。」

自分の命を狙う人物を紹介って意味がわからない。帝国ルールなの?

「ダニエルの件は、ちょっと心配だね。でも兄様が身柄を引き取ってくれたなら、大丈夫だと思うよ。」

リリアは不思議に思った。いつもはいろんな見方で自分にはない発想で意見をくれるライモンドなのに、兄が関係すると大丈夫、の一言で終わってしまう。

「ねえ、聞いても良い?兄様がするから大丈夫って言うのはどう言う意味なの?兄様がすることを信用してるから大丈夫ってこと?それか、口を出すのが怖いから大丈夫ってこと?」

「んー、どちらかというと、後者かな。多分、ダニエルは無事だと思う。リリアには言ってなかったけど、多分初めから、ダニエルは兄様の駒だ。多分俺の監視だったと思うんだ。その内途中からリリアの監視も兼ねていたんじゃないかな。」

「え?」

「ダニエルを襲ったのは兄様じゃないかな、と。」

「まさか、ライを殺しに来るのって、ダニエル?」

「いや、それは違うかな。ダニエル程度なら割といるよ。帝国には。まあ、でも殺される気はないから。……リリアは絶対に守るからね。」


「……ダグラス卿とどっちが強い?」
「そう言うところがリリアらしいね。でもダグラス卿は暗殺には向かないと思う。地の強さなら卿かな。うーん。」

「良い勝負ってことね?」

そんなに強い人がライモンドの命を狙いに来ると言う。ライモンドはそれでも平気な顔をしているから一体どんな生活を送っていたのか心配になる。

ライモンドは底が知れない。リリアに全てを見せてくれないし、今後も見せてくれる気もないだろう。彼がどれだけ過酷な人生を送って来たか知る由もないのだが。

リリアは、今まで、人のことを全て知りたいと思う欲はなかった。自分を含めて人には言えないことは誰にだってあるし、知る必要もないと思っていた。

ライモンドには、それこそたくさん、隠したいことがありそうだな、と思っていたし、それを追及するのも、野暮だと。

けれど、あの変わった兄様なる人物が現れてから急に不安になった。彼のことを何も知らないまま、一緒にいて良いのだろうか。肝心な時に何も知らないまま、彼から離れることになれば、後悔しそうだ。

我が身も公爵令嬢で王子の婚約者であれば、暗殺には気を使っていた。けれど、多分そんな半端なものではなく、帝国から暗殺者がくるなら、私など気がつくより早く殺されてしまうのだろう。

「ライ、私の身はダグラスに守ってもらうから、ライは自分に集中して。絶対に殺されないで。」

ライは少し笑って、リリアの手を取り、誓った。

「絶対に、リリアと幸せになる。死なない。約束するよ。」

ライがそう言うと、光が辺りを包んだ。眩しいと感じたのは、ほんの少しの間で、すぐに光はなくなった。

フリードが急いで近づいてくる。同時にライモンドの頭をはたく。

「やったなぁ。あー、どうすんの。あれだけ気をつけていたのに。戦線布告しちゃったの?」

「仕掛けて来たのは兄様だ。俺が回避できる訳ないだろ。」

「そうだけど。」

フリードはリリアに向き直り、跪いた。

「うちの愚弟がすみません。帝国ルールにより、兄様との決闘が決定しました。」

「帝国ルール?」

「ええ、私達皇女と第三位以降の皇子は、生殺与奪の権を自分に持っていないので、それに関する言葉を口にした途端に、謀反が適用されます。

勝てば、継承権を奪え、負ければ殺されます。」

リリアは開いた口が塞がらないでいた。口にしただけで謀反なら私はどれだけ戦わなくちゃいけないんだ。
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