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お尋ね者
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ライフィー男爵は、一代限りの男爵である。どうしてそうなったのかは書いていない。彼が帝国の貴族であったなら、隣国には、スパイとして行くことになったか、帝国で不祥事を起こしたか、事件に巻き込まれたのか、様々なことが考えられる。一番それっぽいのは、ライと同じくスパイの線だが、ハッキリわからない以上、他の選択肢も頭に入れておく必要がある。
マルタは、リリアに申し訳なさそうに、言った。
「ごめんね、これだけしかわからなくて。でもね、関係ないかもしれないんだけど、この間、面白いことを聞いたの。トリダール国って知ってる?従姉のライラが政略結婚で、嫁いだ国なんだけど、そこにも、ライフィーと言う貴族が昔いたらしいの。三代か四代続いた後に後継者不足で爵位は返上されているらしいのよ。それでね、その爵位は伯爵家だったらしいわ。」
トリダールの地図を頭の中で思い浮かべる。なるほど、帝国とリスルを線でつないで、通った国の中に、隣国とトリダールが入っている。トリダールと帝国の間にリスルと良い勝負の小さい国があるが、そこにもライフィーと言う貴族の目撃証言があるような気がしてならない。
同じことをマルタも考えたのだろう。
「ライフィーと言う貴族はいなかったのだけれど、この国では面白い人物の話が伝承として残っていたわ。
勿論、伝承だから、全て真実ではない、と思うのだけれど。竜使いの男、と言うのが出てくる話なの。」
「竜って、そんな、夢物語じゃない。」
「そうよ、竜だとか、魔法だとか、実際には御伽噺でしかない話なんだけど。面白いのが、その竜使いの人相が、実際のライフィー家の人の特徴にマッチしているの。
そこで、私思ったの。彼がスパイなら、明らかに目立ちすぎじゃない?」
「そうね。スパイは本来目立たないのが一番だから。竜使いなんて目立ってしまうわ。」
「でしょ?あ、この竜使いって言うのはその言葉の通り、竜を使役する一族のことで、竜よりも強いと言う意味ではないらしいの。竜と契約して、守ってもらう為の手段を持っていると言うことよ。それで竜使いって言うんですって。」
「彼がスパイじゃないとしたら、帝国からどうして、離れたのかしら。」
「多分、帝国を離れたのではなくて、追い出されたのかもね。何かをやらかして、公爵家はなくなり、平民になった、とか。」
「じゃあ、国を変わるたびに良い行いをして、爵位を手に入れたの?下がるのは簡単だけど上がるのは殊更難しいのが、爵位よ。定員だってあるし。」
「そうよねー。……反対かもしれないわ。悪いことをする度に爵位が下がっていたのだとしたら、向かった順番がわかるのではない?」
リリアと何やら盛り上がって話しているマルタをエリオットが珍しい様子で眺めている。兄には悪いが、頼りになる義姉に甘え倒す所存だ。
「マルタお義姉様、ありがとうございます。助かりました。」
マルタはお義姉様呼びが嬉しかったらしく、顔を赤くしながら、微笑んでいる。
竜使いの伝承の男が、その男爵だとして、隣国で追放されたとしたら、今は平民になっている、と言うことだろうか。
マルタから差し入れられた膨大な資料は、少し前までの、王子の公務を押し付けられたトラウマを呼び起こし、少しの間、呆然とした。
第二皇子が、意味のないようなことは言わないと思う。だとしたら、これには意味があることなんだ。
マルタをエリオットに返して、ライとフリードが近くにきたので、竜使いについて、聞いてみると、意外にも食いついてきたのはフリードだった。
「懐かしい歌ね。」
「歌なの?」
「多分元々はその伝承みたいなものだったんだろうね。けど、伝わっていくうちに歌になったみたいな。」
「ああ、そう言う。」
「私も内容は分かりかねますが、あまり良い内容ではなかったような……国が滅びた後の何もなくなった更地に竜が降り立つ、みたいに、国が無くなる予兆として竜が現れる、といった。」
「竜使いは、国を滅ぼす存在と言うこと?」
「直接的に手を下すと言うよりは、そう言う時に現れる存在だと思われている、感じですね。まあ、何の根拠もないですが。だって竜使いどころか竜だって見たことないのに。」
「そこはファンタジーなのね……じゃあ、昔は竜使いと思われていたけど、今で言うなら何かしら。多分伝承から真実を読みとけってことじゃない?竜使い、国の滅亡、予兆と考えて、ファンタジー世界ではない今の世界に置き換えると、何になるんだろう。」
リリアとフリード二人の会話をぼうっと聞いていたライモンドは、何かを思い出したみたいで、帝国の歴史について書かれた本を何冊か猛スピードで、読み始めた。
さっきまでのボンヤリした感じからは、もはや別人のよう。
「リリア、俺、わかるかもしれない。ありがとう。」
それだけ言って、また本に向かう。今更ながら凄い集中力だ。
「やっぱり貴方達の言うように、貴方達の兄様は優しいのかもしれないわね。」
難しい問題を出しながらも随所にヒントをちりばめてくれているような気がする。もう少し、分かりやすければもっと嬉しいのだけれど。
マルタは、リリアに申し訳なさそうに、言った。
「ごめんね、これだけしかわからなくて。でもね、関係ないかもしれないんだけど、この間、面白いことを聞いたの。トリダール国って知ってる?従姉のライラが政略結婚で、嫁いだ国なんだけど、そこにも、ライフィーと言う貴族が昔いたらしいの。三代か四代続いた後に後継者不足で爵位は返上されているらしいのよ。それでね、その爵位は伯爵家だったらしいわ。」
トリダールの地図を頭の中で思い浮かべる。なるほど、帝国とリスルを線でつないで、通った国の中に、隣国とトリダールが入っている。トリダールと帝国の間にリスルと良い勝負の小さい国があるが、そこにもライフィーと言う貴族の目撃証言があるような気がしてならない。
同じことをマルタも考えたのだろう。
「ライフィーと言う貴族はいなかったのだけれど、この国では面白い人物の話が伝承として残っていたわ。
勿論、伝承だから、全て真実ではない、と思うのだけれど。竜使いの男、と言うのが出てくる話なの。」
「竜って、そんな、夢物語じゃない。」
「そうよ、竜だとか、魔法だとか、実際には御伽噺でしかない話なんだけど。面白いのが、その竜使いの人相が、実際のライフィー家の人の特徴にマッチしているの。
そこで、私思ったの。彼がスパイなら、明らかに目立ちすぎじゃない?」
「そうね。スパイは本来目立たないのが一番だから。竜使いなんて目立ってしまうわ。」
「でしょ?あ、この竜使いって言うのはその言葉の通り、竜を使役する一族のことで、竜よりも強いと言う意味ではないらしいの。竜と契約して、守ってもらう為の手段を持っていると言うことよ。それで竜使いって言うんですって。」
「彼がスパイじゃないとしたら、帝国からどうして、離れたのかしら。」
「多分、帝国を離れたのではなくて、追い出されたのかもね。何かをやらかして、公爵家はなくなり、平民になった、とか。」
「じゃあ、国を変わるたびに良い行いをして、爵位を手に入れたの?下がるのは簡単だけど上がるのは殊更難しいのが、爵位よ。定員だってあるし。」
「そうよねー。……反対かもしれないわ。悪いことをする度に爵位が下がっていたのだとしたら、向かった順番がわかるのではない?」
リリアと何やら盛り上がって話しているマルタをエリオットが珍しい様子で眺めている。兄には悪いが、頼りになる義姉に甘え倒す所存だ。
「マルタお義姉様、ありがとうございます。助かりました。」
マルタはお義姉様呼びが嬉しかったらしく、顔を赤くしながら、微笑んでいる。
竜使いの伝承の男が、その男爵だとして、隣国で追放されたとしたら、今は平民になっている、と言うことだろうか。
マルタから差し入れられた膨大な資料は、少し前までの、王子の公務を押し付けられたトラウマを呼び起こし、少しの間、呆然とした。
第二皇子が、意味のないようなことは言わないと思う。だとしたら、これには意味があることなんだ。
マルタをエリオットに返して、ライとフリードが近くにきたので、竜使いについて、聞いてみると、意外にも食いついてきたのはフリードだった。
「懐かしい歌ね。」
「歌なの?」
「多分元々はその伝承みたいなものだったんだろうね。けど、伝わっていくうちに歌になったみたいな。」
「ああ、そう言う。」
「私も内容は分かりかねますが、あまり良い内容ではなかったような……国が滅びた後の何もなくなった更地に竜が降り立つ、みたいに、国が無くなる予兆として竜が現れる、といった。」
「竜使いは、国を滅ぼす存在と言うこと?」
「直接的に手を下すと言うよりは、そう言う時に現れる存在だと思われている、感じですね。まあ、何の根拠もないですが。だって竜使いどころか竜だって見たことないのに。」
「そこはファンタジーなのね……じゃあ、昔は竜使いと思われていたけど、今で言うなら何かしら。多分伝承から真実を読みとけってことじゃない?竜使い、国の滅亡、予兆と考えて、ファンタジー世界ではない今の世界に置き換えると、何になるんだろう。」
リリアとフリード二人の会話をぼうっと聞いていたライモンドは、何かを思い出したみたいで、帝国の歴史について書かれた本を何冊か猛スピードで、読み始めた。
さっきまでのボンヤリした感じからは、もはや別人のよう。
「リリア、俺、わかるかもしれない。ありがとう。」
それだけ言って、また本に向かう。今更ながら凄い集中力だ。
「やっぱり貴方達の言うように、貴方達の兄様は優しいのかもしれないわね。」
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