公爵令嬢は被害者です

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帝国③元ダニエル

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「心配してました?リリア様。」

「驚いていた。顔が真っ白になって。よっぽどお前が強いと思い込んでいたみたいだ。」

「まあ、あの国では、強い方でしたね。だって俺とわかれば、逃げる奴ばかりなんですよ。あそこは悪質なのは、王族ばかりで。」

「本当に強いのは、あの公爵家だが、敵にはならなくて良かったな。」

「ええ、本当に。それで?次はどこへ行けば良いんですか?」

リスルでの生活は平和すぎた。とは言え、不穏な空気は少しあって、それは元々リスルにあったわけではなくて、誰かについてきたもの、みたいな感覚があった。

最初、それは自分が原因かと思っていたが、今ではわかる。あのライモンドという男を見張っているのだと。何かあれば、自分は簡単に殺される。見えない剣で喉元に刃を当てられているような感覚。

あれの正体を、レオナルドが調べているのを知り逃げ出したい思いはある。が、レオナルドに殺されるか、その黒い勢力に殺されるかのどちらかなら、結局は同じだ。弱い者から命を落とすのは自然の摂理だからだ。

「お前には第三皇子を探るか、ここに行くか、選ばせてやる。」

「ここって。何か気になることでも?」

「いや?なければ良いな、と思うだけだ。因みに、ここにはキリも潜入している。お前より早くに。そして、第三皇子のところには、ミナが行っている。どちらにしても、フォローできる奴がいるから安心していい。」

キリと言うのは、無口だが腕は確かな暗殺者で、ミナというのは、惚れやすく、少し話を聞かないきらいはあるが、腕は確かな諜報員だ。

「どちらにしても、地獄じゃないすか。」

「……じゃあ、これはどうだ。ここなら、リリア嬢にまた会えるかもしれない。会って話をするのは難しくとも、顔を見るぐらいは可能だと思うぞ。どうする?」

第二皇子は、ニヤニヤしてこちらの反応を見ている。こちらを選ばせたいのだろうが、残念なことに、ミナと仕事をするのは死んでも嫌だからこちらがいいなぁ、と思ってしまう。これは、彼の掌で、コロコロ転がされている。

「……じゃあ、こっちで。お願いします。」
「……ミナが中々会えないと愚痴っていたぞ。遊びはほどほどにな。」
「付き合ってません。」
「またミナは振られたか。」
「……」
「お前は、キリの方が好みか。」

黙っていると、嫌がらせのように、話を大きくしてくる。権力者はどれもタチが悪い。

「変なこと言わないでください。」

指令の内容を覚えて飛び出すと、彼の国に思いを馳せる。リリアのいるリスル改アーレンを目指して、その隣国の次期女王に会いに行く。

キリに会うのは、半年ぶりだ。ダニエルは、向かう前に自分の見た目を整える。ダニエルは既に死んだことになっているので、目立たないようにしなければならない。

ダニエルになるために、染めていた髪の染料を落として、真っ赤な髪を現すと、顔の作りを料理人から冒険者に変更する。元気だけが取り柄の馬鹿そうな冒険者。単細胞な少年に作り替えると、一安心する。

顔を毎回変えるのは魔法とかではなく、ある種の技だ。人の錯覚を利用して、今まで見ていたものを見えなくする。それはリスルで学んだ技だった。

皆、あれだけリリア嬢の恩恵を受けていたのに、普段は彼女を蔑ろにする。愚かな者が多すぎることに疑問を持つべきだった。

彼女は聡明だ。いつか、こうなる様に昔から仕掛けていた結果だ。

人は、自分が思っている以上に単純だ。それが故意に提示された物だとしても、見たもの全てを容易に信じてしまう。それが、一般的には隠したいと思えることならより簡単に。

いくつかの思い込みによってリリア嬢が逃げ延びたように、それしか生きる手段を持たない者は、その錯覚を利用するしかない。

帝国に蔓延る闇も、それを利用している。意外にも、その利用されるものが、意思を強く持ってしまった。極端な怯えや、頑固な心が、そこから動き出すことすら拒否をすることで、絶対なイメージを作り上げた。

人間ごとき存在が神を名乗るなんで、冒涜だが、人の生き死にを左右させてきた我々がそのことを指摘するのは、いかがなものか。

キリなら、つまらない話でも、ちゃんとつまらなさそうな顔で頷いてくれそうだ。あいつは無口だが、性格は悪くない。ふと、キリをリリアに会わせたいな、と思い首を振った。

リリア嬢に会ってから、ずっと彼女のことを考える。この執着は何だ?

元ダニエルは考えるのをやめた。一人で考えるより、キリに会ってから話を聞いて貰えば良い。自分がどれだけ姿形を変えようとわかる人にはわかる。だから、リリア嬢にはもしかしたら、わかっちゃうかもしれない。そうだったら、嬉しいな、と思う。

何だかんだ言って、王宮内で芋の皮むきをしながら、お喋りをするのは楽しかった。あの時間は忙しい最中の、少しの休憩みたいな物だ。

あのジャンと言う男はどうしただろう。リリア嬢に会えたら聞いてみよう。一緒にいた女性についても。確かあれは、どこかのご令嬢だったよな。
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