公爵令嬢は被害者です

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様変わりした王宮

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「あら、ここも随分と雰囲気が変わったのね。」
「君が前に来た時っていつだ?」
「貴方と婚約発表した時かしら?」
「ああ、随分昔みたいに思えるな。」

エリオットとマルタの後ろを歩くフリードは、ついこの間来たばかりの王宮を見て回る。王宮など、どこも同じだろうとは思ったが、今は新しく生まれ変わる最中だからなのか、割と面白いことになっていた。

国王と、王子が変わった影響は、騎士団により濃く現れた。今まで血によって、選ばれ、贔屓されていた第一騎士団を潰し、実力主義に変わったことは、実力がありながら、頭打ちになって燻っていた騎士達を奮起させ、実力のない者達を怯えさせた。

ジェイムズ王子は、前のボンクラ達とは違い、脳筋だが、スパルタだ。頭は悪くないが正義感は強く、元々第一騎士団については、懐疑的だった。それは、昔からの教育の賜物だが、少し極端に育ってしまった感はある。

第一騎士団の団員達は、高位貴族が多いので、勿論、抗議はあった。が、全て却下され、ど正論で返される。

「脳筋に話なんて通じるわけないのに。」ジェイムズが秒で要望を却下していくのをみて、誰かが呟いた言葉だ。

第一騎士団はあっという間に解体され、これまでの第二騎士団が第一に躍り出た。それに伴い、第三騎士団以降にも多少影響があった。

王宮で働く騎士の中には以前まで王妃宮を警護していた者がいたが、王妃宮を閉鎖したことにより、彼らの仕事がなくなってしまった。ジャンと言う騎士もそのうちの一人だ。ジェイムズはそのジャンと言う騎士についてはリリアを気にかけていてくれた人物だと言うことしか知らない。

妹が今まで王宮内でどんな酷い待遇を受けていたかは知っている。だから、彼とは一度会ってはみたいとは思っていた。彼が王妃のお気に入りであったことも含めて、彼とは話しがしたいと思っていた。

しかし、彼は出世欲があまりなく、新しい王子に自分を売り込んできたりはしなかった。護衛などは必要ないぐらい、強い王子だが、彼は護衛として、ジャンを採用することにした。その採用面接が初めて二人が会った日だった。脳筋の気持ちは脳筋にしかわからない。二人は、周りの予想通り、意気投合した。

王宮で働く侍女達は、以前とは違いのびのびと働けるようになった。以前はギスギスとした雰囲気と共に女好きの王子や、陛下に手を出されないように気をつけなくてはならなかった。最悪、出されてしまうと次は王妃からの虐めがあるのだから、わざわざ愛人を狙う者でなければ、近づきたくないと思うだろう。

陛下と王子は、紳士的で、仕事も早く、何より使用人の手を煩わすことがない。

「もう少し早くにこうなっていたらよかったのにね。」

そう言う声が王宮のあちらこちらから聞こえる。

「本当に全部一掃できたの?そんな訳ないわよね?」

マルタが、エリオットにピッタリくっつきながら囁く。

「何人かにはもう既にしかけている。ヘイワーズのもう一人誰だったか、あの娘も、隠れているらしいし。次で炙り出せば良いだろう。」

「その内、今の地位に居られる奴らはどれほどだと思う?」

王家が変わったといえども、大臣全てを清廉潔白な人間に変えることは難しく、またその気もなく、よっぽど酷い者でなければ、残しているのが、現状だ。


「私達に、できることがあれば、いくらでも言ってね?」

マルタは、わかっててこう言う。

「そちらはネズミ退治が大変でしょう?逃がしてこちらに来ないようにしてくださいよ。」

「あら、元はといえばそちらの不手際では?ネズミを飼って、増やしたのはそちらじゃない?」

マルタはフリードをチラリと見るが、フリードは顔色一つ変えないでいる。

「つまらないわ。」

マルタは、フリードを怒らせたいようでいつも絡むが、返り討ちにされている。

一度どうしてそんなにフリードに絡むか聞いてみると、「いくら政略結婚とは言っても婚約者の側に女性がいるなんて、嫌なの。」と言われて驚いた。フリードの男装は完璧で、彼の素性について知る者は限られている。なのに、フリードを女性だと見破ったのだから、ただ者ではない。

マルタにはしつこいぐらい愛情を可視化して、注いでいるつもりだが、まだ足りないらしい。だからといって有能な部下を手元に置いておくのは必須だ。しかも、フリードは帝国の第二王子に対しての有効な人質だ。エリオットはマルタの不興を買うことになっても、フリードを手元に置いた。

それが、マルタには嫌で仕方なかった。

「私が男性に懸想するとでも?」
言いたかったセリフをフリードに言われて憮然とする。

「私は女性としての人生を既に捨てていますので、ご心配なく。私は今後男性として女性を愛することはあっても、男性を愛することはありません。」

マルタに向けて淡々と話すフリードの顔には何の感情も見当たらない。

「私はそうしないと、生きていけないのですよ。」

エリオットが、フリードの言葉を真の意味で理解したのは、この後の話だった。
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