39 / 73
様変わりした王宮
しおりを挟む
「あら、ここも随分と雰囲気が変わったのね。」
「君が前に来た時っていつだ?」
「貴方と婚約発表した時かしら?」
「ああ、随分昔みたいに思えるな。」
エリオットとマルタの後ろを歩くフリードは、ついこの間来たばかりの王宮を見て回る。王宮など、どこも同じだろうとは思ったが、今は新しく生まれ変わる最中だからなのか、割と面白いことになっていた。
国王と、王子が変わった影響は、騎士団により濃く現れた。今まで血によって、選ばれ、贔屓されていた第一騎士団を潰し、実力主義に変わったことは、実力がありながら、頭打ちになって燻っていた騎士達を奮起させ、実力のない者達を怯えさせた。
ジェイムズ王子は、前のボンクラ達とは違い、脳筋だが、スパルタだ。頭は悪くないが正義感は強く、元々第一騎士団については、懐疑的だった。それは、昔からの教育の賜物だが、少し極端に育ってしまった感はある。
第一騎士団の団員達は、高位貴族が多いので、勿論、抗議はあった。が、全て却下され、ど正論で返される。
「脳筋に話なんて通じるわけないのに。」ジェイムズが秒で要望を却下していくのをみて、誰かが呟いた言葉だ。
第一騎士団はあっという間に解体され、これまでの第二騎士団が第一に躍り出た。それに伴い、第三騎士団以降にも多少影響があった。
王宮で働く騎士の中には以前まで王妃宮を警護していた者がいたが、王妃宮を閉鎖したことにより、彼らの仕事がなくなってしまった。ジャンと言う騎士もそのうちの一人だ。ジェイムズはそのジャンと言う騎士についてはリリアを気にかけていてくれた人物だと言うことしか知らない。
妹が今まで王宮内でどんな酷い待遇を受けていたかは知っている。だから、彼とは一度会ってはみたいとは思っていた。彼が王妃のお気に入りであったことも含めて、彼とは話しがしたいと思っていた。
しかし、彼は出世欲があまりなく、新しい王子に自分を売り込んできたりはしなかった。護衛などは必要ないぐらい、強い王子だが、彼は護衛として、ジャンを採用することにした。その採用面接が初めて二人が会った日だった。脳筋の気持ちは脳筋にしかわからない。二人は、周りの予想通り、意気投合した。
王宮で働く侍女達は、以前とは違いのびのびと働けるようになった。以前はギスギスとした雰囲気と共に女好きの王子や、陛下に手を出されないように気をつけなくてはならなかった。最悪、出されてしまうと次は王妃からの虐めがあるのだから、わざわざ愛人を狙う者でなければ、近づきたくないと思うだろう。
陛下と王子は、紳士的で、仕事も早く、何より使用人の手を煩わすことがない。
「もう少し早くにこうなっていたらよかったのにね。」
そう言う声が王宮のあちらこちらから聞こえる。
「本当に全部一掃できたの?そんな訳ないわよね?」
マルタが、エリオットにピッタリくっつきながら囁く。
「何人かにはもう既にしかけている。ヘイワーズのもう一人誰だったか、あの娘も、隠れているらしいし。次で炙り出せば良いだろう。」
「その内、今の地位に居られる奴らはどれほどだと思う?」
王家が変わったといえども、大臣全てを清廉潔白な人間に変えることは難しく、またその気もなく、よっぽど酷い者でなければ、残しているのが、現状だ。
「私達に、できることがあれば、いくらでも言ってね?」
マルタは、わかっててこう言う。
「そちらはネズミ退治が大変でしょう?逃がしてこちらに来ないようにしてくださいよ。」
「あら、元はといえばそちらの不手際では?ネズミを飼って、増やしたのはそちらじゃない?」
マルタはフリードをチラリと見るが、フリードは顔色一つ変えないでいる。
「つまらないわ。」
マルタは、フリードを怒らせたいようでいつも絡むが、返り討ちにされている。
一度どうしてそんなにフリードに絡むか聞いてみると、「いくら政略結婚とは言っても婚約者の側に女性がいるなんて、嫌なの。」と言われて驚いた。フリードの男装は完璧で、彼の素性について知る者は限られている。なのに、フリードを女性だと見破ったのだから、ただ者ではない。
マルタにはしつこいぐらい愛情を可視化して、注いでいるつもりだが、まだ足りないらしい。だからといって有能な部下を手元に置いておくのは必須だ。しかも、フリードは帝国の第二王子に対しての有効な人質だ。エリオットはマルタの不興を買うことになっても、フリードを手元に置いた。
それが、マルタには嫌で仕方なかった。
「私が男性に懸想するとでも?」
言いたかったセリフをフリードに言われて憮然とする。
「私は女性としての人生を既に捨てていますので、ご心配なく。私は今後男性として女性を愛することはあっても、男性を愛することはありません。」
マルタに向けて淡々と話すフリードの顔には何の感情も見当たらない。
「私はそうしないと、生きていけないのですよ。」
エリオットが、フリードの言葉を真の意味で理解したのは、この後の話だった。
「君が前に来た時っていつだ?」
「貴方と婚約発表した時かしら?」
「ああ、随分昔みたいに思えるな。」
エリオットとマルタの後ろを歩くフリードは、ついこの間来たばかりの王宮を見て回る。王宮など、どこも同じだろうとは思ったが、今は新しく生まれ変わる最中だからなのか、割と面白いことになっていた。
国王と、王子が変わった影響は、騎士団により濃く現れた。今まで血によって、選ばれ、贔屓されていた第一騎士団を潰し、実力主義に変わったことは、実力がありながら、頭打ちになって燻っていた騎士達を奮起させ、実力のない者達を怯えさせた。
ジェイムズ王子は、前のボンクラ達とは違い、脳筋だが、スパルタだ。頭は悪くないが正義感は強く、元々第一騎士団については、懐疑的だった。それは、昔からの教育の賜物だが、少し極端に育ってしまった感はある。
第一騎士団の団員達は、高位貴族が多いので、勿論、抗議はあった。が、全て却下され、ど正論で返される。
「脳筋に話なんて通じるわけないのに。」ジェイムズが秒で要望を却下していくのをみて、誰かが呟いた言葉だ。
第一騎士団はあっという間に解体され、これまでの第二騎士団が第一に躍り出た。それに伴い、第三騎士団以降にも多少影響があった。
王宮で働く騎士の中には以前まで王妃宮を警護していた者がいたが、王妃宮を閉鎖したことにより、彼らの仕事がなくなってしまった。ジャンと言う騎士もそのうちの一人だ。ジェイムズはそのジャンと言う騎士についてはリリアを気にかけていてくれた人物だと言うことしか知らない。
妹が今まで王宮内でどんな酷い待遇を受けていたかは知っている。だから、彼とは一度会ってはみたいとは思っていた。彼が王妃のお気に入りであったことも含めて、彼とは話しがしたいと思っていた。
しかし、彼は出世欲があまりなく、新しい王子に自分を売り込んできたりはしなかった。護衛などは必要ないぐらい、強い王子だが、彼は護衛として、ジャンを採用することにした。その採用面接が初めて二人が会った日だった。脳筋の気持ちは脳筋にしかわからない。二人は、周りの予想通り、意気投合した。
王宮で働く侍女達は、以前とは違いのびのびと働けるようになった。以前はギスギスとした雰囲気と共に女好きの王子や、陛下に手を出されないように気をつけなくてはならなかった。最悪、出されてしまうと次は王妃からの虐めがあるのだから、わざわざ愛人を狙う者でなければ、近づきたくないと思うだろう。
陛下と王子は、紳士的で、仕事も早く、何より使用人の手を煩わすことがない。
「もう少し早くにこうなっていたらよかったのにね。」
そう言う声が王宮のあちらこちらから聞こえる。
「本当に全部一掃できたの?そんな訳ないわよね?」
マルタが、エリオットにピッタリくっつきながら囁く。
「何人かにはもう既にしかけている。ヘイワーズのもう一人誰だったか、あの娘も、隠れているらしいし。次で炙り出せば良いだろう。」
「その内、今の地位に居られる奴らはどれほどだと思う?」
王家が変わったといえども、大臣全てを清廉潔白な人間に変えることは難しく、またその気もなく、よっぽど酷い者でなければ、残しているのが、現状だ。
「私達に、できることがあれば、いくらでも言ってね?」
マルタは、わかっててこう言う。
「そちらはネズミ退治が大変でしょう?逃がしてこちらに来ないようにしてくださいよ。」
「あら、元はといえばそちらの不手際では?ネズミを飼って、増やしたのはそちらじゃない?」
マルタはフリードをチラリと見るが、フリードは顔色一つ変えないでいる。
「つまらないわ。」
マルタは、フリードを怒らせたいようでいつも絡むが、返り討ちにされている。
一度どうしてそんなにフリードに絡むか聞いてみると、「いくら政略結婚とは言っても婚約者の側に女性がいるなんて、嫌なの。」と言われて驚いた。フリードの男装は完璧で、彼の素性について知る者は限られている。なのに、フリードを女性だと見破ったのだから、ただ者ではない。
マルタにはしつこいぐらい愛情を可視化して、注いでいるつもりだが、まだ足りないらしい。だからといって有能な部下を手元に置いておくのは必須だ。しかも、フリードは帝国の第二王子に対しての有効な人質だ。エリオットはマルタの不興を買うことになっても、フリードを手元に置いた。
それが、マルタには嫌で仕方なかった。
「私が男性に懸想するとでも?」
言いたかったセリフをフリードに言われて憮然とする。
「私は女性としての人生を既に捨てていますので、ご心配なく。私は今後男性として女性を愛することはあっても、男性を愛することはありません。」
マルタに向けて淡々と話すフリードの顔には何の感情も見当たらない。
「私はそうしないと、生きていけないのですよ。」
エリオットが、フリードの言葉を真の意味で理解したのは、この後の話だった。
1
あなたにおすすめの小説
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
オールディス侯爵家の娘ティファナは、王太子の婚約者となるべく厳しい教育を耐え抜いてきたが、残念ながら王太子は別の令嬢との婚約が決まってしまった。
その後ティファナは、ヘイワード公爵家のラウルと婚約する。
しかし幼い頃からの顔見知りであるにも関わらず、馬が合わずになかなか親しくなれない二人。いつまでもよそよそしいラウルではあったが、それでもティファナは努力し、どうにかラウルとの距離を縮めていった。
ようやく婚約者らしくなれたと思ったものの、結婚式当日のラウルの様子がおかしい。ティファナに対して突然冷たい態度をとるそっけない彼に疑問を抱きつつも、式は滞りなく終了。しかしその夜、初夜を迎えるはずの寝室で、ラウルはティファナを冷たい目で睨みつけ、こう言った。「この結婚は白い結婚だ。私が君と寝室を共にすることはない。互いの両親が他界するまでの辛抱だと思って、この表面上の結婚生活を乗り切るつもりでいる。時が来れば、離縁しよう」
一体なぜラウルが豹変してしまったのか分からず、悩み続けるティファナ。そんなティファナを心配するそぶりを見せる義妹のサリア。やがてティファナはサリアから衝撃的な事実を知らされることになる──────
※※腹立つ登場人物だらけになっております。溺愛ハッピーエンドを迎えますが、それまでがドロドロ愛憎劇風です。心に優しい物語では決してありませんので、苦手な方はご遠慮ください。
※※不貞行為の描写があります※※
※この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる