公爵令嬢は被害者です

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侯爵令嬢 シャルロット・バージ

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ずっと婚約していた相手から婚約破棄された傷物令嬢、と言うのが彼女の役回り。実際に婚約していた男性が他所の女性を好きになり、婚約が破談になった経験がある。今すぐではなく、そういった経験を再度思い出させるのは悪趣味としか言いようがない。ただ、悪戯に、されたことではないし、計画があってのことだから、今更協力できない、とはならないのだが。

修道院には初めて訪れた。問題を抱えた女性達が行き着く場所として、まず真っ先に思い出され、尚且つはみ出し者を収容する檻の役割も持っている。

普通の貴族令嬢なら、何が何でも行きたくない場所であり、入れられたが最後、どんな意味があろうと、遠巻きにされてしまう。

シャルロットは、ある計画のため、こちらに自ら入ることになった。所謂潜入捜査というものだ。捜査対象はこの修道院、若しくは隣接する教会に関わる者で、一番注意しておく人物はルーナという名の修道女だった。

彼女は元子爵家のご令嬢だが、子爵家では冷遇されていた。家族と離れ、仲の良い友人もでき、彼女は楽しそうに見える。

だが、それは彼女が記憶を失っている証明にもなる。彼女に記憶があるのなら、きっとこんなに笑顔ではいられない筈だ。彼女は生家を追い出され、この修道院に入った、と思われているが、実は違う。

この地域にはある噂があって、それはシャルロットが今まで生きてきた場所には、半ば常識として認識されているものだ。

この地域では生まれた子供は全て神の子であるとされる。十歳までは家で育て、その後は教会で引き取り育てる。そして、神の子として神に奉仕することで、街をより良いものにしていくのだと。

元々信仰心の厚い人々がこの地域を気に入ったこともあり、神の子になれば、貧しい人も教会では教育を受けられ、ご飯も食べられると、子を持つ親なら喜ぶ教育プログラムの一環だった。

そうして子供を集めた第一号が、ルーナである。他にも子供はいたのだが、この修道院に残っているのは彼女だけ。

シャルロットはこの神の子という制度について、ルーナの話を聞くために派遣された調査員だ。

街を見ていれば、発展していないとは言えないが、よく見る田舎の風景と、街を歩くのは老人と中年ばかり。子供や若い世代のいない街。若い人が中央に集まるとはいえ、幼い子らまでいないのは不自然だ。

ルーナ嬢を一号とした神の子プログラムは、そのあと何度か続いたが、帰ってくる者はいなかった。皆教会に吸い込まれたまま、戻ってこなかったのだが、子供が街にいないのに、神の子プログラムは未だに続いている。理由はこの街にいないだけで、教会にはいるからだ。教会で神の子となった者達が婚姻し、子供を手元におかず教会で育てる。そうして、このプログラムは続いていく。

問題は、神の子プログラムに、他国の貴族が関わっていることだ。成長した神の子は、プログラムの一環として、希望した国に、派遣される。それが、人身売買に当たると言うのが、雇い主の意見だ。神の子が奉仕するといえども、奉仕内容が曖昧で、それが法に触れる内容かどうかを確認する術がない。

また、最近この地域で不可解な行方不明事件が起きていて、それにもこの修道院が関与していると言う。

以前そのことを暴こうとした調査員は失敗したと聞いた。憎しみが強すぎてプロに徹することが出来なかったらしい。自分はそんな失敗はしないとは言えない。弱い立場の者を食い物にしようとするなんて不届き者を前にして冷静でいられるかは、わからない。

ただ、以前の調査員と違うのは、シャルロットにはルーナ嬢に関する事前情報がないと言う点だ。彼女に対して先入観がない分、あまりに辛くて思い出したくない記憶なら、そのままにしておいてあげたい気持ちもある。ただそれだと、調査員としては、失格なので、心を鬼にする。

侯爵令嬢として生まれて、心を鬼にしなければならないことはたくさんあった。だけれど、それは自分を守るためのものだ。

これは、意外と大変だわ。

シャルロットはいつも教えてくれようとする教育係の女性ともあまり仲良くなりすぎないようにしようと思う。入れ込みすぎてしまうと、罪悪感を感じるからだ。こういった仕事では一番邪魔な感情を持て余す。

気がつくと、ルーナはいつも一人でいる。誰かが近づくといつもハッとして、怯えたような仕草をするのは無意識だろう。

寝ている時に鐘が鳴ると、その鐘の音を聞いた人が消えると言う。シャルロットの耳には届かなかった音が、教育係の彼女には聞こえた。人が消える期間はまちまちだそうだが、シャルロットはその現場を見過ごすわけにはいかないと、気を引き締めた。

ただ不安はあった。誰もがその現場に居合わせていないのは、睡眠薬などを盛られたりして、意識を奪われるからなのか、彼女達が自主的に向かうのかが判断できないからだ。


今回自分が鐘の音を聞かなかったのは何か意味があるのだろうか。寝ている間に運ばれたりしないように、シャルロットはある仕掛けをして寝ることにした。願わくば、彼女の代わりに自分が狙われるように。最悪、ルーナ嬢の話を聞かなくとも、謎を解明すれば良いのだから。

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