美少年は男嫌い

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バイト(光)

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バイト初日。
隼人さんと一緒に向かい、一緒に着替え、一緒に部屋に入る。
支配人の男の人に、邪険にされながらでも、隼人さんは一緒に話を聞いてくれた。

「なんでお前までいるんだ。」
「いや、別に、支配人を信用してないとかじゃないんですけどー。」
フニャと笑って、緊張を和らげてくれる。

「友達なの?接点無さそうなのに。いじめられてない?殴るからね、言ってくれたら。」
矢継ぎ早に、喋りかけられて、あたふたしてると、隼人さんが間に入る。

「いや、そんなに一気に喋らないで。チワワなんだから。」

え。どこにチワワが。
キョロキョロした僕を生温かい目で皆が見てるうちに、隼人さんに手を引かれて、皿洗いの部屋に連れてかれた。

本当に、皿と水道しかない。
ここに二人きり。
僕は隼人さんが怖くはないが、もし怖かったとしたら、地獄だろう。僕も兄と二人、とか考えたら…考えたらダメだ。やめよう。

「今はあまりないけど、始まったら恐ろしい数くるから、あ、でも焦る必要はないから。予備の皿ありすぎだから、ここ。」

またフニャと笑う。
この笑顔が好きだ。

時間になると、たくさんの皿が、本当に恐ろしい数来たが、慌てなくて良い、といい聞かせ、自分に出来ることをしていく。

隼人さんがいる安心感からか、皿洗いのみに集中することができた。
結果的にお皿を一枚も割らなかったが、隼人さんは、驚きつつも、喜んでくれた。

「凄いな、お前。俺だって最初、割りまくりだったのに。」
すげー、とずっと褒めてくれた。

「あの、隼人さん。光です。お前じゃなくて。」
隼人さんは、笑顔で、謝った。
「おう、光。これからも、よろしくな。」
「よろしくお願いします。」
凄く今更だけど、握手して、互いをねぎらった。

「今日はどうする?家に泊まる?」
「いいですか?」
「いや、まぁ、うちはいれるだけいてくれていいよ。」
「ありがとうございます。」

隼人さんに甘えて、いつまで一緒に入れるのだろう。急に現実に引き戻される。家に帰れない理由をどうにかしないと、ずっと幸せは訪れない。

自分が思い込んでいるだけかもしれない。兄だって、父だって、昔より丸くなったかもしれない。
もう、今はまともな人間かもしれない。

でも、まだ怖い。
許す、許さないではない。そこまでまだいかない。
怖くて、体が竦む。隼人さんとは真逆な人達。

隼人さんは、不思議だ。僕が唯一自分から近付きたいと思えた人。驚きなのは、もし僕が隼人さんに酷いことされたとして、隼人さんのことを嫌いになることはない、と思えること。

それより、隼人さんを裏切らないようにしなければ、と思う。裏切る予定は当然ないが、僕にしてくれたように僕も隼人さんを守りたい。


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