美少年は男嫌い

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平和(隼人)

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俺は考えるのをやめた。
どうせ何もわからないのだから。
光の考えていることなんか、一つもわからない。

俺に練習台になれ、と言ったり、キスしたい、と言ったり、俺以外の人に怯えたり、切なそうにキスしてきたり。

どうするのが正解だ?

人間不信のノラネコが、必死に甘えてきているような感覚。振り解けるやつがいるなら、教えてほしい。

男とキスをして、気持ち悪いと思わなくなっている俺の心境の変化と、光のキスを平常心で受けるにはどうしたらいいか。

光を遠ざけたいわけじゃない。光を傷つけたくはない。でも、ただキスをするだけの関係っていうのも、そんな割り切れるものでもない。

触れるか触れないかのキスを光がした時、俺は確かにムラムラした。
力任せに、キスを返して、すぐに後悔した。後悔して、目を開けたそこに、光がまっすぐな目を向けてきた。俺は初めて光に欲情した。

光は欲情しない俺だから、懐いたのに、これは立派な裏切りだ。
平常心を持ち続ければ、一緒に居られる。絶対に気づかれてはいけない。
先に進んではいけない。

初めて一緒にバイトに行く。
傍目にはわからないけれど、光に対するバイト先の人たちの印象はいいみたい。
なんか家族に初めて友達を会わせたような気恥ずかしさはある。

一応知らない人と二人きり、というのが、光が怖いだろうと思って、支配人との面接を一緒にうける。
過保護すぎるかな。

支配人は、大丈夫、と言っても、光が、というより俺が心配だったから。
あ、これが過保護か。

バイト中は、平和だった。初めてみる量の皿に圧倒されていたものの、集中したらあっという間で。一枚も皿を割らなかった。俺でさえ、最初めちゃくちゃ割ったのに。

いろいろ考えることが多かった光が、一つのことに集中する時間って必要なんじゃないかな。それが、皿洗いって言うのがちょっとおかしいかも、だけど。

家に一緒に帰って、一緒に眠って、一緒に起きて、一緒にご飯を食べる。これだけ聞いたら、普通に兄弟みたいって思うけど。

他の兄弟と違うのは、俺たちがその間、ずっとキスをしているってこと。

朝から晩まで、顔を合わせたら、キスをする。学校ではさすがに、会わないけれど、行き帰りや、バイト中、二人きりの時は、練習台として、キスをした。

この気持ちはなんなのか。
俺はもう気付いてる。けれど、言うことは許されない。
言えば離れてしまうとわかってて言い出せない。

もう少し、もう少しだけ。
この平和を感じていたい、と思ってしまった。

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