美少年は男嫌い

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隼人さん(光)

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隼人さんが僕に知られないように色々やってくれていることを知ったのは偶然だった。

狭い町内、歩いていると、うっかり知り合いに会ってしまうことがある。会いたくない人にだって、簡単に。

兄に会ったのは、本当に偶然。あっちもこっちも気まずくなって、立ち止まった。けれど、前の兄なら、目を輝かせて有無を言わさず路地裏に引っ張っていくのに、片手をあげて、短く挨拶をして去って行った。

身構えてしまった自分が、恐怖を感じていないことに驚いた。前なら、怖くて会うなりすぐ逃げてしまったと思う。

不思議な感覚に包まれる。自分が知らない間に自分にとって良い状況に変わることがあるんだなあ、と一瞬思った。けど、冷静になって考えると、やっぱりそんなことない。

多分、隼人さんが何かしてくれたんだ。次にあったら、聞いてみよう。そう思えるようになったのは、隠れてばかりだった過去の自分にけじめをつけることのような、大切なことだ。隼人さんへの、気持ちを確かめる時と同じ。

兄とはそれからしばらく会わなかった。会いたいような会いたくないような、決意したにもかかわらず、気持ちが揺れていたから、あれは良い間だった。

兄に漸く、会えた時、兄は別人のようになっていた。俺に執着する気持ちが薄れたと言っていた。爽やかな笑顔ができる、事実に驚いた。兄はこんな顔もする人だったのだと。

兄は自分自身のためにも、僕とは離れるべきだった、と。隼人さんにも感謝していた。そこで、僕は本来の目的を思い出していた。やはり、隼人さんのおかげ。隼人さんへの愛がじんわりと、体を巡っていく。

兄に今度こそ別れを告げる。振り返らずに歩く。兄を怖がる気持ちも、じんわりと薄くなっていくのがわかった。

辛い気持ちを消すのは少し、まだ少し時間がかかる。日にち薬で、少しずつ。

辛いから、何も感じない、に変わるまで。

その間に一緒にいるなら、隼人さんがいい。そう思った。

隼人さんが帰ってくるまでに、今日は甘いものを補充しよう。

プリンはまだあるから、少し奮発してシュークリームを。

給料日頑張った分、余裕があるんだよね。

子供の頃から通っているケーキ屋さんに足を運ぶ。ここのシュークリームは、カスタードがいっぱい入っていて、安くて旨い。

隼人さんへの感謝に。今度は、僕の行きつけを紹介したいな。
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