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第三部
オルセー侯爵領
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オルセー侯爵領は、王都から馬車で一週間はかかる所謂田舎である。海が近く、山も近い、隣国からも近いが鉄壁の守りがあるため、おいそれと近づくことは叶わない、辺境の地。グレイス・オルヴィス公爵夫人は今でこそ淑女然としているが、侯爵領で生まれ育ったおかげで学園に通う時分になってもまだ猿みたいな野生児であった。辺境にも勿論マナー教師はいるが、彼女達も辺境の出身であった為に王都の常識からは大幅にズレていた。
グレイスの元婚約者は、王都で生まれ育った生粋のもやしっ子だった。彼は小さな虫一つとっても大騒ぎし、平気で捕まえては、愛でる彼女を奇異な目で見ていた。グレイスからすれば、辺境にはいない虫の名を知りたかっただけなのに。
「お前のような田舎者は私とは不釣り合いだ。」とは、今は亡き元婚約者の談。集団婚約破棄の現場でも、そんなことを言っていた……気がする。正直、眠たくて、聞いていなかったのと、会うたびに言われていた言葉だったので、またか、と言う気持ちが強く、呆れていた。
こちらだってモヤシは想定外だ。辺境には屈強な男しかいないのだから、モヤシは目立つ。彼は見た目でも、素行でも悪目立ちしていたから、彼女の相手として、不釣り合いではないか、の声は辺境でも上がっていた。
彼は厚顔にも、婚約破棄後、勝手にオルセー侯爵領に行き、グレイスとの復縁を願ったらしい。辺境侯爵家と、宰相家が手を結ぶ恐ろしさを漸く理解したようだが、既に婚姻届は受理された後。
彼は、知らずに立入禁止区域に入り、命を落とした……ことになっている。彼が辺境に来ることがなかった為に、禁止区域を知らなかったとして、作り上げられたでっち上げだが。
実際には婚姻を済ましたと知らない彼は既成事実さえ作って仕舞えばよいと、グレイスの寝室に忍び込んだのだが、それはグレイスの寝室ではなく、当時商談で訪れていた隣国からの高貴な客がいる部屋だった。護衛騎士にいとも簡単に斬られ、事なきを得たものの、高貴なお客様はこのことを隠したいとされ、彼の愚行は葬りさられた。
勿論、事の次第を説明すると、顔色を悪くした元婚約者の家からの抗議はある訳もない。
オルセー侯爵家から、オルヴィス公爵家へ嫁ぐ為に血の滲むような努力をして、漸く最近猿から人間になれたようなものだった。
母が猿でも子は真っ当に育った。
あの婚約破棄の場で、話を聞いていなかったグレイス以外にそこにいた令嬢の中で今も存命なのは王妃様だけ。後の三人のご令嬢は、パトリシアの妹、エリザベスを皮切りに相次いで命を落とした。
エリザベスは誰が見ても可憐な美しい令嬢だった。彼女は覚えのない罪によって断罪され、その場で騎士によって殺害された。
手を下した騎士は訳の分からない戯言をずっと喚いていたが、すぐさま捕らえられた。様子がおかしくなったのは、シャーロット・デズモンド公爵令嬢。エリザベスの殺された様子は、彼女が以前訴えていた悪夢に似ていた。
彼女は、悪夢の記憶を失っていたのだが、あの時、エリザベスの死を目の当たりにして、全て思い出したのだ。
それからのゴタゴタは全てデズモンド公爵家の采配により正しくされた。
グレイスの元婚約者は、王都で生まれ育った生粋のもやしっ子だった。彼は小さな虫一つとっても大騒ぎし、平気で捕まえては、愛でる彼女を奇異な目で見ていた。グレイスからすれば、辺境にはいない虫の名を知りたかっただけなのに。
「お前のような田舎者は私とは不釣り合いだ。」とは、今は亡き元婚約者の談。集団婚約破棄の現場でも、そんなことを言っていた……気がする。正直、眠たくて、聞いていなかったのと、会うたびに言われていた言葉だったので、またか、と言う気持ちが強く、呆れていた。
こちらだってモヤシは想定外だ。辺境には屈強な男しかいないのだから、モヤシは目立つ。彼は見た目でも、素行でも悪目立ちしていたから、彼女の相手として、不釣り合いではないか、の声は辺境でも上がっていた。
彼は厚顔にも、婚約破棄後、勝手にオルセー侯爵領に行き、グレイスとの復縁を願ったらしい。辺境侯爵家と、宰相家が手を結ぶ恐ろしさを漸く理解したようだが、既に婚姻届は受理された後。
彼は、知らずに立入禁止区域に入り、命を落とした……ことになっている。彼が辺境に来ることがなかった為に、禁止区域を知らなかったとして、作り上げられたでっち上げだが。
実際には婚姻を済ましたと知らない彼は既成事実さえ作って仕舞えばよいと、グレイスの寝室に忍び込んだのだが、それはグレイスの寝室ではなく、当時商談で訪れていた隣国からの高貴な客がいる部屋だった。護衛騎士にいとも簡単に斬られ、事なきを得たものの、高貴なお客様はこのことを隠したいとされ、彼の愚行は葬りさられた。
勿論、事の次第を説明すると、顔色を悪くした元婚約者の家からの抗議はある訳もない。
オルセー侯爵家から、オルヴィス公爵家へ嫁ぐ為に血の滲むような努力をして、漸く最近猿から人間になれたようなものだった。
母が猿でも子は真っ当に育った。
あの婚約破棄の場で、話を聞いていなかったグレイス以外にそこにいた令嬢の中で今も存命なのは王妃様だけ。後の三人のご令嬢は、パトリシアの妹、エリザベスを皮切りに相次いで命を落とした。
エリザベスは誰が見ても可憐な美しい令嬢だった。彼女は覚えのない罪によって断罪され、その場で騎士によって殺害された。
手を下した騎士は訳の分からない戯言をずっと喚いていたが、すぐさま捕らえられた。様子がおかしくなったのは、シャーロット・デズモンド公爵令嬢。エリザベスの殺された様子は、彼女が以前訴えていた悪夢に似ていた。
彼女は、悪夢の記憶を失っていたのだが、あの時、エリザベスの死を目の当たりにして、全て思い出したのだ。
それからのゴタゴタは全てデズモンド公爵家の采配により正しくされた。
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