友人は自力で選びますので

搾取される生き方

「ルーちゃんは、ここでずっと働いてくれるのかな？」

職場にいるグレイさんはいつも笑顔を絶やさない男性(既婚者)だ。どことなく、品があって、元貴族と言われても納得してしまうような人で、実はそう言った意味から、一番苦手な人物でもある。

「はい。一応そのつもりです。」

学園があるために、時間は限られているが、平民だって学園に通っている人達は皆同じように放課後に働いている。

貴族と平民の学園では時間帯が多少異なる(貴族の方が少しだけ早く終わる)為に、図書館で宿題を終わらせてから来るようにしている。

着いた早々、グレイさんに呼び止められ、少し話をする。彼は眉間に少し力を込め、「それならば覚えておいた方が良い。」と続けた。

「ルーちゃんが、有能であるから少し心配になって……覚えておいて欲しいんだ。貴族には平民のことをゴミのように扱う者がいるってこと。彼らにとっては同じ貴族でも自分の下に置いた者達には容赦なく、搾取する者がいるんだってことを。」

グレイさんは苦しげに、昔貴族に嫌なことでもされたのか、呻くように話を続ける。ルーナは「知っています」とは流石に言えずに話の続きを待つ。

「いいかい？平民の若い女性に言い寄ってくる貴族は男女問わず多い。彼らに取り立てられれば、確かに裕福にはなるかもしれないが、人権なんてものは無くなってしまうんだ。ルーちゃんは若いし、可愛いから見目麗しい貴公子から目をかけられるかもしれない。だが、声をかけられても舞い上がってはいけないよ。彼らは狡猾に君が持っている全てを効率よく奪っていきたいだけだからね？」

「貴族の方が私なんかに目をつける訳、ないじゃないですか？」

ルーナはそう言いながらも、もしかして全てをグレイさんに把握されているのかと内心ドキドキしていた。

「いや、用心に越したことはない。この店は平民しか来ないけれど、融資をしているのは貴族だからね。若い看板娘をおもちゃにして、本命の貴族令嬢と結婚し、平民は若い芽だけ摘めばあとは放り出す、なんて話はザラだよ。ルーちゃんはしっかりしている自覚もあるし、早々引っかかりはしないだろうけど、恋は人を狂わせるからね。」

引き留めて悪かったね、と挨拶をしてグレイさんは仕事に戻って行った。

平民しか来ない店だと思っていたが、貴族が融資しているとは、ルーナは全く知らなかった。情報を読み取る力はある方だと思っていたが、事実、やはり一人でやるには何もかも手が足りない。

ルーナは生まれて初めて貴族の友人(情報通)がいればな、と思ったが、その発想こそがグレイさんが毛嫌いしている貴族のそれで、何というか、複雑な気分になった。

追加で調べて見ると、この店は、ある子爵家の融資を受けているそうだ。ロイド子爵家って……ルーナは自分の迂闊さに呆れた。

まさに、あの侯爵令嬢の取巻きの一人のミシェル・ロイドの家だ。

折角、終の住処を見つけたと浮かれていたのに、奈落の底に突き落とされたかのような心持ちになった。