8 / 13
焦燥
しおりを挟む
ダリルは男爵令嬢には関わらないように、とお叱りを受けた。あの男爵令嬢からの伝手か、婚約者側からのリークかはわからないが、介入を拒否されたのだった。
侯爵令嬢や伯爵令嬢などに子爵令嬢が意見を言える訳もない。友人となっても、そこの人間関係は変わらないのだから、当然だ。
「男爵令嬢は貴族としての地位をのぞんでいない、か。」
確かに彼女のように誰かとつるまないでいられる人なら、平民になったとしても強い意志を持って生きていられるだろう。
ダリルは噂で聞いていた男爵令嬢と、自分の目で見て判断した彼女が、全く異なる性質を持っていたことで、噂は噂でしかないことと、自分が信じやすいタイプであることを知った。
「ダリル、悪いんだけど、君には少し危険な任務を手伝って貰いたいんだ。」
ダリルは手渡された書類に目を通すと、顔色を変えた。
「彼女が危ない目に遭うかもしれないと言うことですか?」
ダリルに与えられた任務は、婚約者ミシェル嬢の身辺調査。
「私が幸せな人生を送れるかどうかはお前にかかっている。これは決して言い過ぎなんかではない。」
普段は目の前には決して現れないディラン第二王子殿下までが、ダリルの両肩に手を置いて懇願するなどある意味特殊な状況においては、ダリルも了承の意を示す以外に出来ることはない。
ならば婚約者としてミシェルに会いに行けば、と思っても勘の良いミシェルに気づかれれば全てが台無しになってしまう恐れもある。
ダリルが婚約者との交流をこれまであまりしてこなかったのは、単に忙しかったこともあるが、自らが一番を公言してしまえば反対勢力がミシェルに危害を加えるかもしれないと考えていたからだ。
「今更お前がミシェル嬢の機嫌を取ろうとしたならば、とくに口に出さなくても、何かあると、皆勘づくだろう。」
失礼なことを言われている自覚はあるが、ダリルが今から婚約者の心を取り戻すことは難しいとちゃんと思っている。
婚約期間よりも長い時間を過ごす婚姻生活でいくらでも挽回したら良い、とあくまでも楽観的に考えていた。
「ミシェル嬢の監視をお前に任せるのはお前が彼女の婚約者であるからだが、失敗したら躊躇なく変えるから心してかかれよ。」
監視を始めてから気がついたことと言えば、ミシェル嬢は、淑女然としているがラナーリア嬢と、とある平民の男女の前ではよく笑うことがわかった。
平民の男女については、女性とは姉妹のように話をし、男性とはまるで……恋人同士のように話している。
ダリルより背の高いその男性は平民のように見えるが、実は貴族と言っても騙されるかもしれないと思う佇まいをしていた。平民でも貴族でも、何かしらの体術を習っていたような体つき。
ダリルは生まれて初めて、嫉妬と言う感情を覚える。これまでミシェルにも婚約者というものにも、何の関心も持っていなかったのに。
侯爵令嬢や伯爵令嬢などに子爵令嬢が意見を言える訳もない。友人となっても、そこの人間関係は変わらないのだから、当然だ。
「男爵令嬢は貴族としての地位をのぞんでいない、か。」
確かに彼女のように誰かとつるまないでいられる人なら、平民になったとしても強い意志を持って生きていられるだろう。
ダリルは噂で聞いていた男爵令嬢と、自分の目で見て判断した彼女が、全く異なる性質を持っていたことで、噂は噂でしかないことと、自分が信じやすいタイプであることを知った。
「ダリル、悪いんだけど、君には少し危険な任務を手伝って貰いたいんだ。」
ダリルは手渡された書類に目を通すと、顔色を変えた。
「彼女が危ない目に遭うかもしれないと言うことですか?」
ダリルに与えられた任務は、婚約者ミシェル嬢の身辺調査。
「私が幸せな人生を送れるかどうかはお前にかかっている。これは決して言い過ぎなんかではない。」
普段は目の前には決して現れないディラン第二王子殿下までが、ダリルの両肩に手を置いて懇願するなどある意味特殊な状況においては、ダリルも了承の意を示す以外に出来ることはない。
ならば婚約者としてミシェルに会いに行けば、と思っても勘の良いミシェルに気づかれれば全てが台無しになってしまう恐れもある。
ダリルが婚約者との交流をこれまであまりしてこなかったのは、単に忙しかったこともあるが、自らが一番を公言してしまえば反対勢力がミシェルに危害を加えるかもしれないと考えていたからだ。
「今更お前がミシェル嬢の機嫌を取ろうとしたならば、とくに口に出さなくても、何かあると、皆勘づくだろう。」
失礼なことを言われている自覚はあるが、ダリルが今から婚約者の心を取り戻すことは難しいとちゃんと思っている。
婚約期間よりも長い時間を過ごす婚姻生活でいくらでも挽回したら良い、とあくまでも楽観的に考えていた。
「ミシェル嬢の監視をお前に任せるのはお前が彼女の婚約者であるからだが、失敗したら躊躇なく変えるから心してかかれよ。」
監視を始めてから気がついたことと言えば、ミシェル嬢は、淑女然としているがラナーリア嬢と、とある平民の男女の前ではよく笑うことがわかった。
平民の男女については、女性とは姉妹のように話をし、男性とはまるで……恋人同士のように話している。
ダリルより背の高いその男性は平民のように見えるが、実は貴族と言っても騙されるかもしれないと思う佇まいをしていた。平民でも貴族でも、何かしらの体術を習っていたような体つき。
ダリルは生まれて初めて、嫉妬と言う感情を覚える。これまでミシェルにも婚約者というものにも、何の関心も持っていなかったのに。
138
あなたにおすすめの小説
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
さよなら初恋。私をふったあなたが、後悔するまで
ミカン♬
恋愛
2025.10.11ホットランキング1位になりました。夢のようでとても嬉しいです!
読んでくださって、本当にありがとうございました😊
前世の記憶を持つオーレリアは可愛いものが大好き。
婚約者(内定)のメルキオは子供の頃結婚を約束した相手。彼は可愛い男の子でオーレリアの初恋の人だった。
一方メルキオの初恋の相手はオーレリアの従姉妹であるティオラ。ずっとオーレリアを悩ませる種だったのだが1年前に侯爵家の令息と婚約を果たし、オーレリアは安心していたのだが……
ティオラは婚約を解消されて、再びオーレリア達の仲に割り込んできた。
★補足:ティオラは王都の学園に通うため、祖父が預かっている孫。養子ではありません。
★補足:全ての嫡出子が爵位を受け継ぎ、次男でも爵位を名乗れる、緩い世界です。
2万字程度。なろう様にも投稿しています。
オーレリア・マイケント 伯爵令嬢(ヒロイン)
レイン・ダーナン 男爵令嬢(親友)
ティオラ (ヒロインの従姉妹)
メルキオ・サーカズ 伯爵令息(ヒロインの恋人)
マーキス・ガルシオ 侯爵令息(ティオラの元婚約者)
ジークス・ガルシオ 侯爵令息(マーキスの兄)
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
平民ですが何か?私、貴族の令嬢ではありません…
クロユキ
恋愛
「イライザお前と婚約破棄をする」
学園の朝の登校時間にルーカス・ロアン子息子爵から婚約破棄を言われたイライザ。
彼の側には彼女のロザンヌ男爵令嬢がいた。
ルーカスから一方的に婚約破棄を言われたイライザ、彼とは婚約はしていないのに「先に言っておく」と婚約破棄を言われたイライザ、その理由がルーカスの母親が腹痛で動けない時イライザと出会いイライザは持っていた自分の薬をルーカスの母親に渡し名前も言わずにその場を離れた。
ルーカスの母親は、イライザの優しさに感動して息子のルーカスに婚約を考えていた。
誤字脱字があります更新が不定期です。
よろしくお願いします。
再会の約束の場所に彼は現れなかった
四折 柊
恋愛
ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。
そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる