友人は自力で選びますので

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焦燥

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ダリルは男爵令嬢には関わらないように、とお叱りを受けた。あの男爵令嬢からの伝手か、婚約者側からのリークかはわからないが、介入を拒否されたのだった。

侯爵令嬢や伯爵令嬢などに子爵令嬢が意見を言える訳もない。友人となっても、そこの人間関係は変わらないのだから、当然だ。

「男爵令嬢は貴族としての地位をのぞんでいない、か。」

確かに彼女のように誰かとつるまないでいられる人なら、平民になったとしても強い意志を持って生きていられるだろう。

ダリルは噂で聞いていた男爵令嬢と、自分の目で見て判断した彼女が、全く異なる性質を持っていたことで、噂は噂でしかないことと、自分が信じやすいタイプであることを知った。

「ダリル、悪いんだけど、君には少し危険な任務を手伝って貰いたいんだ。」

ダリルは手渡された書類に目を通すと、顔色を変えた。

「彼女が危ない目に遭うかもしれないと言うことですか?」

ダリルに与えられた任務は、婚約者ミシェル嬢の身辺調査。

「私が幸せな人生を送れるかどうかはお前にかかっている。これは決して言い過ぎなんかではない。」

普段は目の前には決して現れないディラン第二王子殿下までが、ダリルの両肩に手を置いて懇願するなどある意味特殊な状況においては、ダリルも了承の意を示す以外に出来ることはない。

ならば婚約者としてミシェルに会いに行けば、と思っても勘の良いミシェルに気づかれれば全てが台無しになってしまう恐れもある。

ダリルが婚約者との交流をこれまであまりしてこなかったのは、単に忙しかったこともあるが、自らが一番を公言してしまえば反対勢力がミシェルに危害を加えるかもしれないと考えていたからだ。

「今更お前がミシェル嬢の機嫌を取ろうとしたならば、とくに口に出さなくても、何かあると、皆勘づくだろう。」

失礼なことを言われている自覚はあるが、ダリルが今から婚約者の心を取り戻すことは難しいとちゃんと思っている。

婚約期間よりも長い時間を過ごす婚姻生活でいくらでも挽回したら良い、とあくまでも楽観的に考えていた。

「ミシェル嬢の監視をお前に任せるのはお前が彼女の婚約者であるからだが、失敗したら躊躇なく変えるから心してかかれよ。」

監視を始めてから気がついたことと言えば、ミシェル嬢は、淑女然としているがラナーリア嬢と、とある平民の男女の前ではよく笑うことがわかった。

平民の男女については、女性とは姉妹のように話をし、男性とはまるで……恋人同士のように話している。

ダリルより背の高いその男性は平民のように見えるが、実は貴族と言っても騙されるかもしれないと思う佇まいをしていた。平民でも貴族でも、何かしらの体術を習っていたような体つき。

ダリルは生まれて初めて、嫉妬と言う感情を覚える。これまでミシェルにも婚約者というものにも、何の関心も持っていなかったのに。


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