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王女は奇声を上げた(6歳)
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「ああああああああああ」
突如鳴り響いた誰かの悲鳴に、王宮内は騒然とした。誰の、と考えて全くわからなかったのは、これまで妹のエルフリーデが我儘も言わず、従順な大人しい王女であったからに他ならない。
悲鳴どころか、話し声すらもここ最近は聞いて居なかった妹が発した声に、周囲は勿論、兄であるジークフリートも目を見開いた。
「どうした!」
作法も何もなく、部屋に飛び込めば、そこには倒れてたんこぶを作り、泣いている妹と、教育係の姿。
「お兄様~~~」
手を差し伸べる妹を抱き止めると、教師は明らかに狼狽えた。彼女によると、エルフリーデは授業中に寝ぼけて、悲鳴をあげたらしい。見たところ、傷ついてはいないし、教師も嘘はついて居ないようだが、おとなしい妹が居眠りをしたこと自体が信じられなくて、何故か泣いている妹に問いかける。
「エルフリーデ、何があったか話せるかい?」
ジークフリートの服に小さな涙の染みを作るほど、泣いていた妹エルフリーデは、ジークフリートに縋るような目を向けた後小さな声で、人払いをするように告げた。
「それで?何があったか話せるかい?」
教師やら使用人やら、側近達まで下がらせて、ジークフリートは妹に向き直る。ついでに居合わせた幼馴染のリーゼロッテ・ヘスマン公爵令嬢も、エルフリーデの側にいて背中を撫でている。
「今から話すことは、とても信じられないことだと思います。だけど、神に誓って本当の話です。」
エルフリーデの話に、ジークフリートは困惑した。妹はエルフリーデとして生まれる前の、別人の人生の記憶があるという。
「所謂前世持ちは、珍しいですが、稀にあるそうです。」
リーゼロッテは、自分達の親世代に何人か生まれた前世持ちの話を知っていた。ジークフリートも、前世持ちのおかげで、国が発展し、名もない小国から、経済大国に躍り出た国の話を聞いたことがあった。
だが、いずれも遠い他国の話として、あまりちゃんと耳を傾けてはいなかった。それどころか、技術を盗まれないようにする為の詭弁だとしか思っていなかった。
エルフリーデは、確かに、少し前までの彼女とはまるで違う人間のように見える。こうして話を聞いていても、妹はここまでまっすぐに人の目を見ることはできなかった。
妹は、前世でこの世界を体験したことがある、と言った。よくわからないのだが、彼女はその体験で、ヒロインと言う人物を通してジークフリートやリーゼロッテに出会ったのだという。
乙女ゲームと呼ばれたその世界では、エルフリーデはヒロインに利用され、辺境の修道院に入れられるか、ヒロインに懸想した男のお飾りの妻として白い結婚を強いられるかという中々過酷な人生を送り、リーゼロッテに至っては、最悪死ぬこともあるらしい。
「そこで、私は何をしているんだ。」二人がそんな状況に追い込まれているというのに、自分が何もしていないとは思えない。
「お兄様はヒロインに骨抜きにされて、私たちを捨てるのです。」
突如鳴り響いた誰かの悲鳴に、王宮内は騒然とした。誰の、と考えて全くわからなかったのは、これまで妹のエルフリーデが我儘も言わず、従順な大人しい王女であったからに他ならない。
悲鳴どころか、話し声すらもここ最近は聞いて居なかった妹が発した声に、周囲は勿論、兄であるジークフリートも目を見開いた。
「どうした!」
作法も何もなく、部屋に飛び込めば、そこには倒れてたんこぶを作り、泣いている妹と、教育係の姿。
「お兄様~~~」
手を差し伸べる妹を抱き止めると、教師は明らかに狼狽えた。彼女によると、エルフリーデは授業中に寝ぼけて、悲鳴をあげたらしい。見たところ、傷ついてはいないし、教師も嘘はついて居ないようだが、おとなしい妹が居眠りをしたこと自体が信じられなくて、何故か泣いている妹に問いかける。
「エルフリーデ、何があったか話せるかい?」
ジークフリートの服に小さな涙の染みを作るほど、泣いていた妹エルフリーデは、ジークフリートに縋るような目を向けた後小さな声で、人払いをするように告げた。
「それで?何があったか話せるかい?」
教師やら使用人やら、側近達まで下がらせて、ジークフリートは妹に向き直る。ついでに居合わせた幼馴染のリーゼロッテ・ヘスマン公爵令嬢も、エルフリーデの側にいて背中を撫でている。
「今から話すことは、とても信じられないことだと思います。だけど、神に誓って本当の話です。」
エルフリーデの話に、ジークフリートは困惑した。妹はエルフリーデとして生まれる前の、別人の人生の記憶があるという。
「所謂前世持ちは、珍しいですが、稀にあるそうです。」
リーゼロッテは、自分達の親世代に何人か生まれた前世持ちの話を知っていた。ジークフリートも、前世持ちのおかげで、国が発展し、名もない小国から、経済大国に躍り出た国の話を聞いたことがあった。
だが、いずれも遠い他国の話として、あまりちゃんと耳を傾けてはいなかった。それどころか、技術を盗まれないようにする為の詭弁だとしか思っていなかった。
エルフリーデは、確かに、少し前までの彼女とはまるで違う人間のように見える。こうして話を聞いていても、妹はここまでまっすぐに人の目を見ることはできなかった。
妹は、前世でこの世界を体験したことがある、と言った。よくわからないのだが、彼女はその体験で、ヒロインと言う人物を通してジークフリートやリーゼロッテに出会ったのだという。
乙女ゲームと呼ばれたその世界では、エルフリーデはヒロインに利用され、辺境の修道院に入れられるか、ヒロインに懸想した男のお飾りの妻として白い結婚を強いられるかという中々過酷な人生を送り、リーゼロッテに至っては、最悪死ぬこともあるらしい。
「そこで、私は何をしているんだ。」二人がそんな状況に追い込まれているというのに、自分が何もしていないとは思えない。
「お兄様はヒロインに骨抜きにされて、私たちを捨てるのです。」
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