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本編
妹の記憶
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その日は朝から結構な寒さだった。伯爵家の領地ではなく、母の実家のある子爵家の近く。子爵家は領地を持っていない。何代か前の当主が資金繰りに困って投げ出してからずっと領地を持たないままになっていた。
子爵家の裏手には池があり、その日の前日に雪が降り池の表面にうっすらと氷が張っていた。
それを見たセシリアが池に氷を見に行きたい、と家令に強請ったのだ。寒さに弱いフレアは別に行きたくなかったが、セシリアに押し切られ、行くことになっていた。護衛を兼ねて家令も一緒に行くと、外はすっかり氷の世界だった。
伯爵領は田舎でも、氷の張る池を見たことはなく、浮き足だっていたセシリアとフレアは、セシリアが池に落ちそうにバランスを崩したことで、現実を目の当たりにさせられた。
「氷は薄く張ってあるだけなので、お嬢様方が上に立つことは出来ませんよ。」
当時の家令に言われ、最初からそんな気もなかったフレアは見るだけにとどめ、のんびりと景色を楽しんでいた。対してセシリアは氷を色々な角度から眺めていて、フレアは子供ながらに足元が危ないな、と思っていた。
セシリアは少しぼんやりした子で、悪気はなくともうっかりやらかしてしまうことはこれまでもあった。フレアは反対に危ないことはしなかったし、何なら失敗ばかりするセシリアを内心下に見ては、フォローすることで、憂さ晴らしをしていた。だけど、セシリアはあまり学習などはせずに天真爛漫に振る舞うし、あまり近づかないでおこうと、年々距離を置くようになっていった。
それは多分この池に落ちたことがきっかけだ。セシリアを助けようとした結果、体重の軽いフレアが見事に池に落ち、酷い風邪を引いたのである。
その時の思い出というと、池の水は冷たかったということぐらいだが、当然ながら両親にとても叱られた。
今思えば、大人の家令に任せていればよかったのだ。姉を助けるために、小さなフレアが落ちる必要はなかった。
フレアが池に落ちたことで、氷は割れて、日記の通り「台無しになってしまった」が、それは確かに誰のせいかというと、フレアが首を突っ込んだせい、と言えなくもない。
こういう風邪を引いた時や、怪我をした時などは全てフレアが犠牲になっていて、言い出したのはセシリア発信だったりするために、リリーや護衛達の発言になったのだろう。
でも、セシリアを擁護する訳でもないが、あの時は、最適解に辿り着くまでに反射神経で身体が動いてしまった為に、被害に遭ってしまったのだ。あれは正直仕方がない。あれを悪意を持ってセシリア側から見れば、あんな内容の日記になるのだ。
セシリアとフレアは三歳違い。学園にもし通っていたとしても、セシリアとは時期が重ならない。ましてやロバートとの差は、六歳も離れているのだから、学園に通えなくとも、フレアは構いはしなかった。
セシリアからすれば、三歳下の妹にやらかしをフォローされるのは嫌だったに違いない。結果、必ず妹の行動したことで、叱られることになる。図らずも、フレアはいつのまにか小説のように、姉を少しずつ追い詰めていた。
セシリアがロバートではなく、別の男性と幸せになれる未来を掴んだのに、それを投げ捨てなければならなかったのは、そうせざるを得ない状況に陥ったからではないか。
でも、あの姉がお願いされたぐらいで折角のチャンスを逃すかと言われると、堪え性のない姉らしくない、といったところだ。
やはり侍女を殺したのが、姉の不手際によるもので、それにより脅迫されて、そばに置かれているというのが一番しっくり来る。
または、姉が心変わりをして、王太子と結ばれる道を選んだか。
でも、貴族でなくて、平民になりたい、と言っていたことを考えると違う気もする。
前世を思い出したフレアは、前世と今の自分の性格に特に違和感は感じられないが、誰もがそうとは限らない。
もしも、の話ばかりになるが、セシリアの前世は、セシリアとは似ても似つかない強欲な野心家だったのかもしれない。
そうなると、結局フレアはザマァされて、鳥の餌になる。それだけは嫌だ。となると、姉がどうあれ、公爵令嬢達とは関わらなければならない。
ロバートが現れて、この件が役にたつ、と知った時、全て彼に任せてしまおう、と考えてしまった。そんなこと、できるはずないのに。
「あーあ、せめて彼方側の誰かをスパイとして使えたら良いのだけれど。」
フレアの独り言は、リリーや護衛ではなく、フレアの心に響いた。
「そうか。その手があったわ。」
フレアの侍女である誰かから、姉に手紙を書けば良い。彼方側にいる、話を小説通りに進めたい誰かが食いついてくれたら嬉しい。うまくいかなければ、その時はその時。伯爵家にいて、侯爵家には連れて行かなかった人物で、ちょうどいい人間は、と考えて、身近にいることに気がついた。
「リリーしかいないわよね。」
リリーには危険手当を弾むことにして、姉と文通を図って貰えたら。
「小説の中では何人かの侍女があちらに流れたのよね。」
フレアを散々持ち上げておいて、少なからず恩恵を受けておいて、裏切った彼女達の名前を今のフレアは全く覚えていない。
「向こうが覚えていたら、罠だと気づくかもしれないけど。一か八か。」
今のフレアに彼らとの接点はない。ロバート以外に色目を使うやり方も選びたくないフレアからすればこの案はとても良いものに思えた。
子爵家の裏手には池があり、その日の前日に雪が降り池の表面にうっすらと氷が張っていた。
それを見たセシリアが池に氷を見に行きたい、と家令に強請ったのだ。寒さに弱いフレアは別に行きたくなかったが、セシリアに押し切られ、行くことになっていた。護衛を兼ねて家令も一緒に行くと、外はすっかり氷の世界だった。
伯爵領は田舎でも、氷の張る池を見たことはなく、浮き足だっていたセシリアとフレアは、セシリアが池に落ちそうにバランスを崩したことで、現実を目の当たりにさせられた。
「氷は薄く張ってあるだけなので、お嬢様方が上に立つことは出来ませんよ。」
当時の家令に言われ、最初からそんな気もなかったフレアは見るだけにとどめ、のんびりと景色を楽しんでいた。対してセシリアは氷を色々な角度から眺めていて、フレアは子供ながらに足元が危ないな、と思っていた。
セシリアは少しぼんやりした子で、悪気はなくともうっかりやらかしてしまうことはこれまでもあった。フレアは反対に危ないことはしなかったし、何なら失敗ばかりするセシリアを内心下に見ては、フォローすることで、憂さ晴らしをしていた。だけど、セシリアはあまり学習などはせずに天真爛漫に振る舞うし、あまり近づかないでおこうと、年々距離を置くようになっていった。
それは多分この池に落ちたことがきっかけだ。セシリアを助けようとした結果、体重の軽いフレアが見事に池に落ち、酷い風邪を引いたのである。
その時の思い出というと、池の水は冷たかったということぐらいだが、当然ながら両親にとても叱られた。
今思えば、大人の家令に任せていればよかったのだ。姉を助けるために、小さなフレアが落ちる必要はなかった。
フレアが池に落ちたことで、氷は割れて、日記の通り「台無しになってしまった」が、それは確かに誰のせいかというと、フレアが首を突っ込んだせい、と言えなくもない。
こういう風邪を引いた時や、怪我をした時などは全てフレアが犠牲になっていて、言い出したのはセシリア発信だったりするために、リリーや護衛達の発言になったのだろう。
でも、セシリアを擁護する訳でもないが、あの時は、最適解に辿り着くまでに反射神経で身体が動いてしまった為に、被害に遭ってしまったのだ。あれは正直仕方がない。あれを悪意を持ってセシリア側から見れば、あんな内容の日記になるのだ。
セシリアとフレアは三歳違い。学園にもし通っていたとしても、セシリアとは時期が重ならない。ましてやロバートとの差は、六歳も離れているのだから、学園に通えなくとも、フレアは構いはしなかった。
セシリアからすれば、三歳下の妹にやらかしをフォローされるのは嫌だったに違いない。結果、必ず妹の行動したことで、叱られることになる。図らずも、フレアはいつのまにか小説のように、姉を少しずつ追い詰めていた。
セシリアがロバートではなく、別の男性と幸せになれる未来を掴んだのに、それを投げ捨てなければならなかったのは、そうせざるを得ない状況に陥ったからではないか。
でも、あの姉がお願いされたぐらいで折角のチャンスを逃すかと言われると、堪え性のない姉らしくない、といったところだ。
やはり侍女を殺したのが、姉の不手際によるもので、それにより脅迫されて、そばに置かれているというのが一番しっくり来る。
または、姉が心変わりをして、王太子と結ばれる道を選んだか。
でも、貴族でなくて、平民になりたい、と言っていたことを考えると違う気もする。
前世を思い出したフレアは、前世と今の自分の性格に特に違和感は感じられないが、誰もがそうとは限らない。
もしも、の話ばかりになるが、セシリアの前世は、セシリアとは似ても似つかない強欲な野心家だったのかもしれない。
そうなると、結局フレアはザマァされて、鳥の餌になる。それだけは嫌だ。となると、姉がどうあれ、公爵令嬢達とは関わらなければならない。
ロバートが現れて、この件が役にたつ、と知った時、全て彼に任せてしまおう、と考えてしまった。そんなこと、できるはずないのに。
「あーあ、せめて彼方側の誰かをスパイとして使えたら良いのだけれど。」
フレアの独り言は、リリーや護衛ではなく、フレアの心に響いた。
「そうか。その手があったわ。」
フレアの侍女である誰かから、姉に手紙を書けば良い。彼方側にいる、話を小説通りに進めたい誰かが食いついてくれたら嬉しい。うまくいかなければ、その時はその時。伯爵家にいて、侯爵家には連れて行かなかった人物で、ちょうどいい人間は、と考えて、身近にいることに気がついた。
「リリーしかいないわよね。」
リリーには危険手当を弾むことにして、姉と文通を図って貰えたら。
「小説の中では何人かの侍女があちらに流れたのよね。」
フレアを散々持ち上げておいて、少なからず恩恵を受けておいて、裏切った彼女達の名前を今のフレアは全く覚えていない。
「向こうが覚えていたら、罠だと気づくかもしれないけど。一か八か。」
今のフレアに彼らとの接点はない。ロバート以外に色目を使うやり方も選びたくないフレアからすればこの案はとても良いものに思えた。
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