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本編
舞台裏① カルロ視点
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アトス公爵家のカルロは、息を吐いた。苦節五年。元婚約者にしてやられたことを、やり返す為に費やした時間だ。
ハニートラップに引っかかって彼女を裏切ったと思っていた。だから、彼女を手放したと言うのに、実際は彼女があの王太子とくっつきたいが為にダシにされたなんて。
「リード公爵令嬢は貴方を嵌めたのですよ。貴方だけでなく、私の愛する人達をあの女は利用しようとしています。どうにかあの女に制裁を与えてくださいませんか。」
何の瑕疵もない婚約者を国外追放したことで周囲の風当たりは強くなり、周りにいた者からは見捨てられたあの時の自分に、敬愛するランド侯爵だけは、親身になってくれた。
ランド侯爵の実の娘が、今は平民になっているだなんて、全く知らなかった。聞けば、私と同じようにケイティに陥れられ、平民に落とされたと言う。
まさか、とは言えなかった。ランド侯爵の娘だった平民はそれはそれは美しい娘だった。普段の姿はこれでもかと地味に装っているが、確かにこの美しさなら、「いつも自分が一番であり続けたい」元婚約者なら目の敵にしてもおかしくはない。
彼女は全面的にこちらの言い分を肯定してくれた。誰一人として聞いてくれなかったカルロの話を丁寧に聞いてくれた。同情してくれた。彼女はこの一連の事件についてとても面白い話をしてくれた。
「これは人に聞いた話ですが、その人がいうには、この世界はケイティ嬢が主人公の恋愛小説によく似た世界なのだそうです。その中で、婚約者に裏切られたケイティ嬢は、国外追放の刑になり、国を出たところで盗賊に出会います。そこへ偶々通りがかった隣国の伯爵令嬢が来て、そこに偶々通りがかった王太子様が二人を助けてくれます。」
「偶々、が多いな。」
「所謂ご都合主義です。」
「成る程。」
「ここでいう偶々通りがかった伯爵令嬢、と言うのが、私の大切な人なのですが、今行方がわかりません。彼女が攫われたとされた現場には倒された盗賊達と、女性の遺体がありました。」
「遺体の身元はわかるのか?」
「リード公爵家に仕えていた侍女の一人です。他の侍女とは異なり、ケイティ嬢の悪事を諌めていた清廉な侍女です。」
「ああ、もしかしてその侍女というのは、ケイティより少し年上の眼鏡をかけた女性か。他の侍女よりもずっと彼女のことを考えているように見えた……」
「ええ、多分その方です。伯爵令嬢は、多分その死に関わってしまって、脅迫され連れ去られたのだと。私は彼女を取り戻したいのです。どうしても返したい恩があって、彼女には幸せになってもらわなくてはならないのです。
彼女、伯爵令嬢には帰る場所があります。彼の方は、殺された侍女の代わりに連れて行かれたのです。きっと、ケイティ嬢の望む展開になれば、用済みとして殺されてしまいます。期限は六年。五年後に貴方は、彼女に騙されたことを公表してください。」
「五年?すぐに公表してはいけないのか?」
「まだ証拠がないでしょう?潰すなら徹底的にやりたいのです。幸運なことに、此方にはケイティ嬢が望んだ王太子の悪事もたんまり証拠があるんですよ。だから、これを使って二人ともその地位から引き摺り下ろしてやりますわ。私に協力していただけますか?」
カルロは二つ返事で引き受けた。
「もしかして、貴女が平民になったのに王太子は関係しているのか?」
「いえ、私とは全く無関係です。どちらかというと、私の恩人が、王太子に悪意を持って追いやられた、と言いましょうか。」
その話でカルロは彼女のいう恩人が誰かわかってしまった。
わかってしまって、顔を僅かに顰めたカルロに彼女は苦笑した。
「やめますか?あまりにも気の長い話ですし。証拠はあるので、父の方から何とか手を回してもらいます。貴方は、知らないふりをしていただいて、そうすれば多分巻き込まれることは」
「いや、大丈夫。やるよ。彼の方には私だって恩がある。彼の方こそ、王太子に相応しい。それは私も貴女に同意する。」
「あ、いえ。王太子を引き摺り下ろしだからといって彼の方が帰ってくるかはわかりません。帰って来たいかもはっきりしません。これはあくまで私の自己満足です。父には呆れられました。でも、悪いことしかしないのに幸せになるなんて、許せます?私は許せない。人の幸せを壊しておいて、それを反省も後悔もしないでのうのうと、生きているのが。」
「もし、うまくいった暁には私に褒美をくれないか。」
「ええ、勿論です。いくらでも、父に強請るので何でも言ってください。」
それだと、彼女ではなく、侯爵との交渉になるな、と思いながらもどちらも変わりないか、と思い直した。
カルロはあの時、彼女の共犯者となった。
絶対に元婚約者の幸せを阻止すると。彼の方の名誉を回復させ、恩を返すと。
縛られる約束というもので、心地よく感じたことなど初めてだ。
カルロは共犯者との約束通りに、ケイティの悪事を公表した。肝心のケイティは、王太子と共に隣国の夜会にでている。
そこに共犯者は侍女として紛れ込むことができたらしい。
彼女の喜びようは凄まじく、「もう一人、協力者を得られるかもしれない」らしい。
「小説」の内容はよくわからないものの、カルロは共犯者の笑顔が見られたことに感謝した。
ハニートラップに引っかかって彼女を裏切ったと思っていた。だから、彼女を手放したと言うのに、実際は彼女があの王太子とくっつきたいが為にダシにされたなんて。
「リード公爵令嬢は貴方を嵌めたのですよ。貴方だけでなく、私の愛する人達をあの女は利用しようとしています。どうにかあの女に制裁を与えてくださいませんか。」
何の瑕疵もない婚約者を国外追放したことで周囲の風当たりは強くなり、周りにいた者からは見捨てられたあの時の自分に、敬愛するランド侯爵だけは、親身になってくれた。
ランド侯爵の実の娘が、今は平民になっているだなんて、全く知らなかった。聞けば、私と同じようにケイティに陥れられ、平民に落とされたと言う。
まさか、とは言えなかった。ランド侯爵の娘だった平民はそれはそれは美しい娘だった。普段の姿はこれでもかと地味に装っているが、確かにこの美しさなら、「いつも自分が一番であり続けたい」元婚約者なら目の敵にしてもおかしくはない。
彼女は全面的にこちらの言い分を肯定してくれた。誰一人として聞いてくれなかったカルロの話を丁寧に聞いてくれた。同情してくれた。彼女はこの一連の事件についてとても面白い話をしてくれた。
「これは人に聞いた話ですが、その人がいうには、この世界はケイティ嬢が主人公の恋愛小説によく似た世界なのだそうです。その中で、婚約者に裏切られたケイティ嬢は、国外追放の刑になり、国を出たところで盗賊に出会います。そこへ偶々通りがかった隣国の伯爵令嬢が来て、そこに偶々通りがかった王太子様が二人を助けてくれます。」
「偶々、が多いな。」
「所謂ご都合主義です。」
「成る程。」
「ここでいう偶々通りがかった伯爵令嬢、と言うのが、私の大切な人なのですが、今行方がわかりません。彼女が攫われたとされた現場には倒された盗賊達と、女性の遺体がありました。」
「遺体の身元はわかるのか?」
「リード公爵家に仕えていた侍女の一人です。他の侍女とは異なり、ケイティ嬢の悪事を諌めていた清廉な侍女です。」
「ああ、もしかしてその侍女というのは、ケイティより少し年上の眼鏡をかけた女性か。他の侍女よりもずっと彼女のことを考えているように見えた……」
「ええ、多分その方です。伯爵令嬢は、多分その死に関わってしまって、脅迫され連れ去られたのだと。私は彼女を取り戻したいのです。どうしても返したい恩があって、彼女には幸せになってもらわなくてはならないのです。
彼女、伯爵令嬢には帰る場所があります。彼の方は、殺された侍女の代わりに連れて行かれたのです。きっと、ケイティ嬢の望む展開になれば、用済みとして殺されてしまいます。期限は六年。五年後に貴方は、彼女に騙されたことを公表してください。」
「五年?すぐに公表してはいけないのか?」
「まだ証拠がないでしょう?潰すなら徹底的にやりたいのです。幸運なことに、此方にはケイティ嬢が望んだ王太子の悪事もたんまり証拠があるんですよ。だから、これを使って二人ともその地位から引き摺り下ろしてやりますわ。私に協力していただけますか?」
カルロは二つ返事で引き受けた。
「もしかして、貴女が平民になったのに王太子は関係しているのか?」
「いえ、私とは全く無関係です。どちらかというと、私の恩人が、王太子に悪意を持って追いやられた、と言いましょうか。」
その話でカルロは彼女のいう恩人が誰かわかってしまった。
わかってしまって、顔を僅かに顰めたカルロに彼女は苦笑した。
「やめますか?あまりにも気の長い話ですし。証拠はあるので、父の方から何とか手を回してもらいます。貴方は、知らないふりをしていただいて、そうすれば多分巻き込まれることは」
「いや、大丈夫。やるよ。彼の方には私だって恩がある。彼の方こそ、王太子に相応しい。それは私も貴女に同意する。」
「あ、いえ。王太子を引き摺り下ろしだからといって彼の方が帰ってくるかはわかりません。帰って来たいかもはっきりしません。これはあくまで私の自己満足です。父には呆れられました。でも、悪いことしかしないのに幸せになるなんて、許せます?私は許せない。人の幸せを壊しておいて、それを反省も後悔もしないでのうのうと、生きているのが。」
「もし、うまくいった暁には私に褒美をくれないか。」
「ええ、勿論です。いくらでも、父に強請るので何でも言ってください。」
それだと、彼女ではなく、侯爵との交渉になるな、と思いながらもどちらも変わりないか、と思い直した。
カルロはあの時、彼女の共犯者となった。
絶対に元婚約者の幸せを阻止すると。彼の方の名誉を回復させ、恩を返すと。
縛られる約束というもので、心地よく感じたことなど初めてだ。
カルロは共犯者との約束通りに、ケイティの悪事を公表した。肝心のケイティは、王太子と共に隣国の夜会にでている。
そこに共犯者は侍女として紛れ込むことができたらしい。
彼女の喜びようは凄まじく、「もう一人、協力者を得られるかもしれない」らしい。
「小説」の内容はよくわからないものの、カルロは共犯者の笑顔が見られたことに感謝した。
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