第二王子の初恋

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悪魔の囁き

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騙し討ちみたいで気が進まないが
既成事実をつくってしまえば、良いのでは?と言う悪魔の囁きが聞こえた。

口に出したのは僕でなければ目の前にいるご令嬢なのだが、いやいや、そんなはずないか。

僕の中の悪魔が、自分に都合良く現実を歪曲しているのだと、自分に言い聞かせていたと言うのに。

「だーかーらー、既成事実よ!既成事実!」
「エミリー、君、そんな人だったっけ。」
侯爵令嬢が、破廉恥な。

「だって、ソフィアって、貴方に輪をかけた鈍感なのよ?正攻法で好きになって貰うのを待ってたら、おじいちゃんになってしまうわよ?」

そんなに、無理そう?
この間のソフィアとの会話を思い出す。
なるほど、と思える。

「な、何をしたら、良いのかな?」
エミリーは悪い顔で笑った。

「簡単なことよ。キスをしたらいいの。でも、軽いのじゃなくて、しっかりしたのをね。」

顔が赤くなるのがわかる。

「そんなっ、引っ叩かれるよ。」
「だから、よ。抵抗する気もなくなるぐらい熱いのをするのよ。今までの気持ちを全て込めるの。」
「いや、無理だよ。ソフィアに嫌われたらどうするんだ。」

そうだ。それこそ僕は嫌われたら生きていけない。

「大丈夫よ、あの子ノアのこと、好きな筈だから。怖いなら、はじめは軽めにする?その場合、気づかれないかもしれないわよ?」

軽めか…それならできるかな?

僕が悪魔の囁きに屈した瞬間だった。



僕は、キスと言うのは、唇と唇を触れ合わせるだけの物だと思っていた。
だからエミリーに熱いの、とか、軽めの、とか言われても、違いをよくわかってなかった。


それに僕は、キスなんてしたことないのだから、わからないに決まってる。

みんな、どうしてるんだろう?


エミリーはしたことあるんだろうか?
軽めとか熱いとか違いがわかるぐらいだし?
侍女とかの入れ知恵だろうか?

「エミリーはしたことあるの?」
「あ、違うの。私もないわ。でも、そう言う本があるの。少し刺激的な内容なんだけど、サシャ様に教えていただいてから、すっかりハマってしまって。」
うふふ、と恥ずかしそうにしながら、慌てて訂正する。

「その本、見せてくれない?」
「あれ?ノアは持っているはずよ。デヴィンに貰わなかった?」

デヴィンの名を耳にして、あの日のことが思い出された。あの日、そういえばお土産をいただいて…あれかー!

僕は不本意ながら、あの恥ずかしい本をじっくり読み込むことになったのだった。

読みすすめることがこんなに苦痛な本は初めてで、こんなに精神を削られるのも、初めて。

すごい内容だ。


でもこの本を鵜呑みにして大丈夫なのだろうか?
だって性別も違うし。

この本によると、軽めのキスの後、かなりの確率で熱いのをしてるのだけど、これ両方出来るようにならないと駄目ってこと?

勝手に、難易度が上がっていく。

いや、でも初心者の僕には刺激的すぎて、ただただ困惑していた。


これから、僕はデートの申し込みをして、雰囲気のあるところでこれを実践しなければならない。

でもそれをしなければ、エミリーの言うように、おじいちゃんになってしまう。
婚約者として初めてのデートだからって、浮かれてると失敗してしまう。
苦痛でも、もう一度読んで、流れを叩きこもう。



3日後のデートまで、僕は男同士の恋愛本を堪能した。



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