怖い人だと知っていました

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第一部 ダリアとリュード

スタート地点

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ダリアの母には能力の発現はなかったというから、隔世遺伝というものだろう。幸いにもそれが伯爵に伝わったのは、すでにダリアが伯爵家を出てからだ。それがもし少しでも早かったならどうなっていたかはわからない。彼の愛するルチアの為にその力を利用されていただろう。

「夫人は、実父には会いたくないとお聞きしましたが、それは今でも変わってませんか。」

「ええ、必要がないので。多分一度目の私なら会いたいと願ったと思うんです。信じられる人が欲しくて、でも、もう居ますから。」

ダリアにはもうリュードという夫がいる。彼以外にも信じられる人はいる。その中に、実父という見知らぬ人を混ぜる気はない。

「色々な事情があって、私や母を助けられなかったことはわかってはいるのですが、だからといって全てを洗い流せるわけではないんです。そんなに自分は出来た人間ではないので。私ができるのは実父を恨まないようにいることかな、と。何もかも望んで何も手に入らなくて悲しかった一度目を二度も繰り返したくはありません。」

一度目でダリアの側にいたのは夫でなかったと判明しても、ダリアが今回側にいてほしい、と願ったのは夫だ。勘違いから始まったことでも、今の自分達は、仲良く過ごせている。

彼が悪になるのなら、自分も悪として生きようと思い立った決意はそのまま変わらない。

彼らとの話はそのまま終わり、帰る道すがら夫には自分の意思をちゃんと伝えた。このまま、公爵夫人としてリュードを支えたいというダリアをリュードはいつもの笑顔で受け入れた。

「貴女が決めたことに反対はしないけれど、もし意思が変わることがあれば教えてほしい。私も一緒に行って、ちゃんと貴女を幸せにすることを誓おう。」

「貴女ではなくて、ダリアです。」
「ダリア。では私のこともリュードと。」

結婚してもう結構経つというのに、今頃呼び名の話をしていることに、笑いが起こる。

リュードの整いすぎた迫力満載の顔が近づいてきて、ダリアを丸ごと食べてしまいそうな勢いで口付けされ、ダリアは初夜のようにフラフラになりながら、自分の持てる愛情を全て彼に返す。

互いに愛し合うってこういうことなのだと、ダリアは二度の人生を通して初めて実感した。

ダリアはいつも自分の体を通してどこか遠くを見るような感覚で生きてきた。どの生き方が最善で、その生き方を選ぶことでどこに辿り着くかを想定して生きてきた。結末を知っていても、本当にどうなるかはわからなかっただけに、慎重に動く必要があった。慎重に動くことは、精神的に大変で、だけど、自分の性には合っていた。

一番良かったことは、リュードがダリアを気に入ってくれたことだった。こればかりは賭けみたいなものだったが、それが一番の勝機だったと思う。

ダリアの今はリュードに与えられたものだ。リュードのおかげで幸せになれたのだから、彼に恩返ししたくなるのは、仕方のないことだ。

ダリアは二度目の人生で、やっとスタート地点に立った気がした。
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