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苦い思い出
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「転生」その言葉をはじめに聞いたのは実はデイビスが学園の頃の話だ。
自分が初恋に浮かれて、何でもない女の子に騙されて、周りから信頼されなくなったあの頃。
一生愛する相手だと信じた少女がふと、聞きなれない言葉を口にした。
「あの女が転生者ね、私の邪魔をして。私はヒロインなのよ。あの方に愛されるのはあの女じゃなくて、私なのに。」
彼女の視線の先には、レノー侯爵令嬢が、新しい婚約者と共に微笑みあっている。
「悪役令嬢でもない、ただのモブの癖に生意気よ。」
確かにそう言っていた。今になると、彼女自身にも前世の記憶があったのだな。
デイビスはその記憶を最後に彼女とは話さなくなった。だから、彼女がその後どのような人生を辿っているのかがわからない。
一般的に考えられる末路と言うと、修道院か、平民落ちか、もしくは金持ちの貴族の後妻になるかぐらいが挙げられる。
確か彼女に好かれる為にたくさん貢いでいたようだから借金の額も膨れ上がっていた男の方は、平民落ちの上、借金返済の為に過酷な労働環境へ送られたとか何とか。
自業自得と言うか、自分も借金はなかったが同じようなことをしていた訳だから、彼らの末路を聞くのは忍びなくて、聞かないようにしていたのだった。
デイビスは伯爵家を継ぐことは決まっていたものの、お金が有り余っていることはない。領民の納めたお金は、領民の為に使わなくてはならない。
だから、彼女がどれだけ愛しくても、プレゼントを強請っても、自分のポケットマネーしか使うことはなかった。だから、デイビスは彼女に選ばれずに、伯爵位を継げた。
彼女に生きているうちに話を聞くことはできなくても、レノー侯爵夫人には、キンバリー嬢から話を通して貰うことは出来ないか、考えてみた。
ふと気になって、マクホーン家にケイトが残した鍵を見せてみたが、皆どこの鍵かわからないと言う。諦めて鍵をしまおうとした際、一緒に入れていた栞が落ちてしまった。
子爵はその栞に見覚えがあったようで、何かを考えていたが、何やら思い立ち、ユリア嬢の部屋にある物を取りに行った。
少しして、戻ってきた彼の手には、ケイトの残したものと同じ栞が握られていた。押し花の種類も作り方も同じ。それぐらいならよくあるものだが、見比べて気がついた。小さな記号のようなものが描かれている。
それはとても小さな記号で、何を意味するかはわからないが、これが次の謎の手がかりのようにデイビスには思えた。ユリア嬢の栞に書かれたその記号を書き留めると、時間が随分と遅くなっていた。
ケイトの栞に描かれた記号は、どこかで見た気がする。一旦頭を空っぽにして、再度考えてみると、然程遠い昔でもないところで見たことがある、と思い至った。
アーサーに聞いてみると、自分の記憶力がまだいくらか役に立つことがわかった。
「これは確かこの辺りの地図を記号に表したものです。
伯爵家と屋敷を取り囲むこの部分を地図にすると、この形に。また、この形は……ああ、昔井戸があった辺り、地下の蔵に続く道の途中に当たりますね。」
それらの記号は、伯爵家の関係者以外には見たところで分かりようもない暗号だ。それは、ケイトからデイビスへの、メッセージと言うことだ。
だが、二つだけでは何もわからない。とりあえず、二つの記号が表す場所に行って見たのだが、何もない。ならば、やはりパーツが足りないのだろう。
それでも得られるものはあった。
ケイトはエミリア・エポックに関するノートを、伯爵家のどこかに隠している。探すことができるのは、デイビスだけ。
最後の妻からのメッセージを今度こそは取りこぼさないように、デイビスは気を引き締めた。
自分が初恋に浮かれて、何でもない女の子に騙されて、周りから信頼されなくなったあの頃。
一生愛する相手だと信じた少女がふと、聞きなれない言葉を口にした。
「あの女が転生者ね、私の邪魔をして。私はヒロインなのよ。あの方に愛されるのはあの女じゃなくて、私なのに。」
彼女の視線の先には、レノー侯爵令嬢が、新しい婚約者と共に微笑みあっている。
「悪役令嬢でもない、ただのモブの癖に生意気よ。」
確かにそう言っていた。今になると、彼女自身にも前世の記憶があったのだな。
デイビスはその記憶を最後に彼女とは話さなくなった。だから、彼女がその後どのような人生を辿っているのかがわからない。
一般的に考えられる末路と言うと、修道院か、平民落ちか、もしくは金持ちの貴族の後妻になるかぐらいが挙げられる。
確か彼女に好かれる為にたくさん貢いでいたようだから借金の額も膨れ上がっていた男の方は、平民落ちの上、借金返済の為に過酷な労働環境へ送られたとか何とか。
自業自得と言うか、自分も借金はなかったが同じようなことをしていた訳だから、彼らの末路を聞くのは忍びなくて、聞かないようにしていたのだった。
デイビスは伯爵家を継ぐことは決まっていたものの、お金が有り余っていることはない。領民の納めたお金は、領民の為に使わなくてはならない。
だから、彼女がどれだけ愛しくても、プレゼントを強請っても、自分のポケットマネーしか使うことはなかった。だから、デイビスは彼女に選ばれずに、伯爵位を継げた。
彼女に生きているうちに話を聞くことはできなくても、レノー侯爵夫人には、キンバリー嬢から話を通して貰うことは出来ないか、考えてみた。
ふと気になって、マクホーン家にケイトが残した鍵を見せてみたが、皆どこの鍵かわからないと言う。諦めて鍵をしまおうとした際、一緒に入れていた栞が落ちてしまった。
子爵はその栞に見覚えがあったようで、何かを考えていたが、何やら思い立ち、ユリア嬢の部屋にある物を取りに行った。
少しして、戻ってきた彼の手には、ケイトの残したものと同じ栞が握られていた。押し花の種類も作り方も同じ。それぐらいならよくあるものだが、見比べて気がついた。小さな記号のようなものが描かれている。
それはとても小さな記号で、何を意味するかはわからないが、これが次の謎の手がかりのようにデイビスには思えた。ユリア嬢の栞に書かれたその記号を書き留めると、時間が随分と遅くなっていた。
ケイトの栞に描かれた記号は、どこかで見た気がする。一旦頭を空っぽにして、再度考えてみると、然程遠い昔でもないところで見たことがある、と思い至った。
アーサーに聞いてみると、自分の記憶力がまだいくらか役に立つことがわかった。
「これは確かこの辺りの地図を記号に表したものです。
伯爵家と屋敷を取り囲むこの部分を地図にすると、この形に。また、この形は……ああ、昔井戸があった辺り、地下の蔵に続く道の途中に当たりますね。」
それらの記号は、伯爵家の関係者以外には見たところで分かりようもない暗号だ。それは、ケイトからデイビスへの、メッセージと言うことだ。
だが、二つだけでは何もわからない。とりあえず、二つの記号が表す場所に行って見たのだが、何もない。ならば、やはりパーツが足りないのだろう。
それでも得られるものはあった。
ケイトはエミリア・エポックに関するノートを、伯爵家のどこかに隠している。探すことができるのは、デイビスだけ。
最後の妻からのメッセージを今度こそは取りこぼさないように、デイビスは気を引き締めた。
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