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新たな箱
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最近巷を賑わせている、前世の記憶が急に戻って全くの別人のようになる、という行為は、元を辿れば一番最初に、村から虐げられていたある平民に訪れた奇跡だった。彼女は、前世は貴族令嬢でその土地を治めていた領主の娘だった。名をジュリエットと言い、確かにその名のご令嬢は記録に残っていた。他にもそのご令嬢しか知り得ないことを次々に言い当て、今では廃止になっている昔の法などを口にした。それだけで、前世を信じる者などは流石にいなかったが、ある日、彼女に、その貴族の関係者が現れ、彼女は間違いなく、ジュリエットだと証言したのだ。
彼女自身は平民で、貴族の血は入っていなかったが、それを機に貴族の養子になり、貴族令嬢としての再スタートを切った。
彼女は、真実はどうあれ、最初の転生者として認識された。後に、今度は記憶をなくした公爵令嬢が、この世界とは異なる記憶を持って生き返ったと言うことがあった。物騒な話だが、彼女は何者かに毒を盛られ、一旦生死を彷徨った後、目覚めた時には以前の記憶は消え、新しく前世の人物になっていた。
彼女に至っては、この世界にないものを発明したりすることで、最初の案件より遥かに信憑性を高めた。
彼女は二件目の転生者として、名を馳せた。
三件目は初めての男性で、王族だった。この男は先の二人とは違い、未来を一度経験した、と言った。彼は、彼自身の人生を一度経験したのではなく、彼の未来を第三者の視点で経験し、知っている、と言った。彼がその前世を思い出すきっかけは、湖での事故だ。彼はただ足を滑らせたのではなく、自身の兄に狙われて殺されそうになったと言う。次から次に彼は証拠を挙げていき、結局彼の兄は、幽閉となった。
三人目の転生者が現れてからは、転生者を題材にした読み物や、舞台などが流行りだし、転生者を探し出そうとする者や、危ない目に遭うことで自分の前世を思い出そうとする者が増えていった。
さて、ここまでの話には裏があって、転生者とされる三人にはある協力者がいた。
第一の転生者は、平民の女の子。彼女は平民として育てられてはいたが、両親は貴族だった。当時、貴族に双子がうまれると、不吉だとして一人を平民として育てることもあったらしい。
彼女は平民として生きて、もう一人は貴族として生きた。貴族として生きた方は、身体が弱く、早くに亡くなってしまう。
彼女をジュリエットだと証言した貴族は、そのような事情から、彼女を元の家に戻した。
二人目の転生者の公爵令嬢は、実は毒を飲んだのは自作自演だと言う説がある。当時、王子の婚約者だった彼女は、その立場から逃げる為に自ら毒を飲み、疑惑の目を婚約者の不貞相手に向けることに成功した。彼女は王家に入るより、研究をしていたかった生粋の研究者だったことから、王家の支配を嫌がり、逃げたと言う説がある。
今までは王家を嫌っていたために、発明などをすることがなかったが、自由になってから研究に打ち込めるようになったとなれば、周りからは別人にみえるかもしれない。彼女一人では決して逃げられなかった。協力者は、王家の目を他所に向け、彼女の逃げ道を見え難くした。
そして三人目。彼に至っては、冷静に考えて最高権力者の、国王が後ろについていたからに他ならない。兄は、権力争いに負けたのだ。彼がしたことは、協力者の言うように、陛下への対応を変えたことだけだ。
どの件も真実は闇の中。これをわざわざ闇の中から掬い上げるものはいなかった。
だが、ここに来て新たなビジネスが始まった。強制的に人の前世の記憶を呼び起こす、と言うもので、若い人を中心に人気のある遊びになっている。
「与えられた前世の記憶は、捏造で、一見、害はありません。ただそのやり方に問題があって、重大な健康被害が生じるのです。」
「ブラウン家の花の根の毒か?」
「これを見たことは?」
小さな箱のような物をこちらに寄越してデイビスの反応を確かめているが、見たことはない。
ケイトがメモを残したカラクリ箱に似ている。
「これは、こうして使うんだ。」
「痛っ!」
デイビスは指を針で刺されたような感覚になって、指を見るが、何ともなっていない。箱を見ても何も仕込まれてはいないようだ。
不思議に思って箱を眺めるが、それがカラクリなのだろう。少し見たぐらいでは何がどうなっているのかわからない。
「これは前世を思い出すための道具だよ。」
アントンはそう言ってカラクリ箱の解体作業を始めた。
彼女自身は平民で、貴族の血は入っていなかったが、それを機に貴族の養子になり、貴族令嬢としての再スタートを切った。
彼女は、真実はどうあれ、最初の転生者として認識された。後に、今度は記憶をなくした公爵令嬢が、この世界とは異なる記憶を持って生き返ったと言うことがあった。物騒な話だが、彼女は何者かに毒を盛られ、一旦生死を彷徨った後、目覚めた時には以前の記憶は消え、新しく前世の人物になっていた。
彼女に至っては、この世界にないものを発明したりすることで、最初の案件より遥かに信憑性を高めた。
彼女は二件目の転生者として、名を馳せた。
三件目は初めての男性で、王族だった。この男は先の二人とは違い、未来を一度経験した、と言った。彼は、彼自身の人生を一度経験したのではなく、彼の未来を第三者の視点で経験し、知っている、と言った。彼がその前世を思い出すきっかけは、湖での事故だ。彼はただ足を滑らせたのではなく、自身の兄に狙われて殺されそうになったと言う。次から次に彼は証拠を挙げていき、結局彼の兄は、幽閉となった。
三人目の転生者が現れてからは、転生者を題材にした読み物や、舞台などが流行りだし、転生者を探し出そうとする者や、危ない目に遭うことで自分の前世を思い出そうとする者が増えていった。
さて、ここまでの話には裏があって、転生者とされる三人にはある協力者がいた。
第一の転生者は、平民の女の子。彼女は平民として育てられてはいたが、両親は貴族だった。当時、貴族に双子がうまれると、不吉だとして一人を平民として育てることもあったらしい。
彼女は平民として生きて、もう一人は貴族として生きた。貴族として生きた方は、身体が弱く、早くに亡くなってしまう。
彼女をジュリエットだと証言した貴族は、そのような事情から、彼女を元の家に戻した。
二人目の転生者の公爵令嬢は、実は毒を飲んだのは自作自演だと言う説がある。当時、王子の婚約者だった彼女は、その立場から逃げる為に自ら毒を飲み、疑惑の目を婚約者の不貞相手に向けることに成功した。彼女は王家に入るより、研究をしていたかった生粋の研究者だったことから、王家の支配を嫌がり、逃げたと言う説がある。
今までは王家を嫌っていたために、発明などをすることがなかったが、自由になってから研究に打ち込めるようになったとなれば、周りからは別人にみえるかもしれない。彼女一人では決して逃げられなかった。協力者は、王家の目を他所に向け、彼女の逃げ道を見え難くした。
そして三人目。彼に至っては、冷静に考えて最高権力者の、国王が後ろについていたからに他ならない。兄は、権力争いに負けたのだ。彼がしたことは、協力者の言うように、陛下への対応を変えたことだけだ。
どの件も真実は闇の中。これをわざわざ闇の中から掬い上げるものはいなかった。
だが、ここに来て新たなビジネスが始まった。強制的に人の前世の記憶を呼び起こす、と言うもので、若い人を中心に人気のある遊びになっている。
「与えられた前世の記憶は、捏造で、一見、害はありません。ただそのやり方に問題があって、重大な健康被害が生じるのです。」
「ブラウン家の花の根の毒か?」
「これを見たことは?」
小さな箱のような物をこちらに寄越してデイビスの反応を確かめているが、見たことはない。
ケイトがメモを残したカラクリ箱に似ている。
「これは、こうして使うんだ。」
「痛っ!」
デイビスは指を針で刺されたような感覚になって、指を見るが、何ともなっていない。箱を見ても何も仕込まれてはいないようだ。
不思議に思って箱を眺めるが、それがカラクリなのだろう。少し見たぐらいでは何がどうなっているのかわからない。
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アントンはそう言ってカラクリ箱の解体作業を始めた。
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