伯爵夫人を殺したのは誰だ

mios

文字の大きさ
22 / 53

用途

しおりを挟む
箱をもう一度手に取ると、今度は痛みを感じることはなかった。

「一種の手品みたいなものだよ。つまりはタネも仕掛けもあるってこと。君がさっき感じた痛みは、チクリと刺すような痛みだっただろ?それは、ある花の根の毒に触れた時に感じる痛みなんだ。」

ハッとして、アントンの顔を見つめると、彼は首をゆっくりと横に振る。

「触っただけなら、問題ないよ。それにこれにはもう毒は入っていない。」

「前世の記憶は、毒に浮かされた幻覚症状だと?」

「それだけじゃないよ。毒による幻覚症状の発生している間に意思を持って他人の記憶を覚え込ませ、一種の洗脳状態を作り出したんだ。現状に不満があれば、今とは全く違った世界を見たがるだろう?

前世の記憶を望む者は少なからず今に不満のある人だ。だから、そう言う人に夢を売って、恩を売って、稼ごうとしているんだよ。」

「それと、エミリア・エポックの正体と何の関係があるんだ?」

アントンはまだ話したいことがあるようで、問いには答えてくれない。目の前のお茶が冷たくなっている。侍女を呼んで入れ直して貰うと甘い香りが部屋中に広がった。


「このカラクリ箱は、ブラウン家の領内にある工房で作られているのか?」

「いや、それは……確かデイビスが昔奥方と一緒に行ったことのある工房の作品だと聞いた。夫人の知り合いがその工房に縁があったとかで、……そうだよな?」


確かにデイビスのところに返ってきたケイトのカラクリ箱とにているだけはあったか。まさか、同じ工房だとは思わなかったけれど。

ここまでの話を聞いて、彼らがどこに着地したいかわからずにいる。ブラウン家の研究が違法かどうか、と、前世ビジネスが問題になりつつあることは理解できた。


「ブラウン家はこの事件には関係のない姿勢を貫いている。だが、あの花の根は医療以外の用途での使用は求められていない。ましてや、一時的とはいえ、幻覚を引き起こすほどの用量なのだから、罪に問われても仕方ない立ち位置だ。

ただブラウン家の当主は君が知る通り、そんなに頭が回る方ではない。と言うからには、入れ知恵をした者がいると言うことだ。」

ケイトの兄は、ただの駒だと言うことか。

デイビスは密かに妻に会ってから今までの記憶を呼び起こす。カラクリ箱の工房にはどんな手順で行くことになったのだったか。確かケイトが知り合いに聞いて、行ってみたいと言ったのか。

あの時の「知り合い」とは誰のことだ?深くを聞かなかったことを今頃になって後悔してしまう。



ふと、デイビスはある人物の立ち回りに違和感を覚える。




改めて見ると、おかしいと思う自分と、そうでもない、と思う自分が喧嘩をしている。これは幻覚などでは断じてない。

それでも、これをすることで、彼に何の意味があるのかがわからない。いや、そんなのはわからないものかもしれない。だからこそ、余計に気になり、デイビスは彼の行動を頭の中で追いかけてみることにした。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

[きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと2

吉田ルネ
恋愛
出奔したサーシャのその後 元気かな~。だいじょうぶかな~。

処理中です...