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新しい人生
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「エリアナ、アレックスが探していたわよ。」
声をかけられて振り向いたのは、この辺りでは珍しい目を引く美人。数ヶ月前に突如現れた彼女は酷く怯えており、周囲はすぐに「訳アリ」だと、察した。曰く、暴力男から逃げて来たらしく、着の身着のままの姿に皆同情していた。
美人だが気取らないエリアナに、男性だけではなく、女性もすっかり骨抜きにされ、彼女はその場にすぐに溶け込んだ。
エリアナは街の中心部より少し外れた家に、身を潜めるように暮らしていた。エリアナを探していたアレックスは、この街を守る警備隊の隊長で、エリアナを娘のように可愛がっている。
警備隊隊長とは言っても、普段は別の仕事をしているため、エリアナは彼の勤務先に歩を進める。
「アレックス、私を探していたと聞いたのだけど。」
「ああ、エリアナ。今手紙が届いたところだ。君の家族からだろ?」
エリアナ宛に手紙が届くのは、兄からのものと、学生時代の友人からのものが一通ずつ。
その差出人に、エリアナは目を見張った。
「どうして……」
エリアナの顔色が青を通り越して白くなる。
「おい、大丈夫か。何があったんだ?」
アレックスに支えられて、椅子に座らせられると、エリアナは大粒の涙を溢した。
「ごめんなさい。昔の友人が亡くなったと聞いて、動揺してしまったの。」
エリアナは、祖国で伯爵夫人になったケイトに思いを馳せる。他にもたくさん友人はいたけれど、彼女だけが、本当の意味で優しくしてくれた。差出人の名前はないが、誰が教えてくれたのか想像はついた。
一歩間違えば彼方側にエリアナはいた。名前を変え、新しい人生を貰ったけれど、元々この人生は彼女に渡されるものだった。
だから、エリアナは運がいい。
対して、この新しい名前を貰えなかったエミリアは、今も自力で逃げ続けている。彼女はケイトが必死に守って来たというのに。結局、自分は何もできなくて逃げたのだ。
アレックスは涙が止まるまで、そこにいさせてくれた。
もう一通は兄からではなく、シルバからだった。彼も諸事情から、国を出るらしいが、どこに住むと言うのだろう。
彼の手紙にはエミリアとは別の人物のことが書かれていた。成る程、ケイトの旦那様である伯爵様が首を突っ込もうとしているとは。
エリアナは一度だけ、夜会でケイトの側に立つ伯爵様を見かけたことがある。美男美女でケイトと歳が離れていたが、お似合いの二人に暫し見惚れていた。
エリアナは元貴族だが、その時はこの名前ではなかった。サベス家から解放されるために、エミリアに渡されるはずの身分を一方的に奪ったのだ。エミリアはいつも通り譲ってくれた。そのおかげで呪いから逃れられているけれど、これはエミリア専用の鎧だから、いつまで私自身を守ってくれるかは、賭けでしかない。
気づかないうちに絡め取られていたでは遅いのだ。最後の悪あがきとしては、宝石をシルバに返して、慈悲を乞うしかない。
エリアナは自宅に戻りながら足元がふらつくのを抑えられなかった。
声をかけられて振り向いたのは、この辺りでは珍しい目を引く美人。数ヶ月前に突如現れた彼女は酷く怯えており、周囲はすぐに「訳アリ」だと、察した。曰く、暴力男から逃げて来たらしく、着の身着のままの姿に皆同情していた。
美人だが気取らないエリアナに、男性だけではなく、女性もすっかり骨抜きにされ、彼女はその場にすぐに溶け込んだ。
エリアナは街の中心部より少し外れた家に、身を潜めるように暮らしていた。エリアナを探していたアレックスは、この街を守る警備隊の隊長で、エリアナを娘のように可愛がっている。
警備隊隊長とは言っても、普段は別の仕事をしているため、エリアナは彼の勤務先に歩を進める。
「アレックス、私を探していたと聞いたのだけど。」
「ああ、エリアナ。今手紙が届いたところだ。君の家族からだろ?」
エリアナ宛に手紙が届くのは、兄からのものと、学生時代の友人からのものが一通ずつ。
その差出人に、エリアナは目を見張った。
「どうして……」
エリアナの顔色が青を通り越して白くなる。
「おい、大丈夫か。何があったんだ?」
アレックスに支えられて、椅子に座らせられると、エリアナは大粒の涙を溢した。
「ごめんなさい。昔の友人が亡くなったと聞いて、動揺してしまったの。」
エリアナは、祖国で伯爵夫人になったケイトに思いを馳せる。他にもたくさん友人はいたけれど、彼女だけが、本当の意味で優しくしてくれた。差出人の名前はないが、誰が教えてくれたのか想像はついた。
一歩間違えば彼方側にエリアナはいた。名前を変え、新しい人生を貰ったけれど、元々この人生は彼女に渡されるものだった。
だから、エリアナは運がいい。
対して、この新しい名前を貰えなかったエミリアは、今も自力で逃げ続けている。彼女はケイトが必死に守って来たというのに。結局、自分は何もできなくて逃げたのだ。
アレックスは涙が止まるまで、そこにいさせてくれた。
もう一通は兄からではなく、シルバからだった。彼も諸事情から、国を出るらしいが、どこに住むと言うのだろう。
彼の手紙にはエミリアとは別の人物のことが書かれていた。成る程、ケイトの旦那様である伯爵様が首を突っ込もうとしているとは。
エリアナは一度だけ、夜会でケイトの側に立つ伯爵様を見かけたことがある。美男美女でケイトと歳が離れていたが、お似合いの二人に暫し見惚れていた。
エリアナは元貴族だが、その時はこの名前ではなかった。サベス家から解放されるために、エミリアに渡されるはずの身分を一方的に奪ったのだ。エミリアはいつも通り譲ってくれた。そのおかげで呪いから逃れられているけれど、これはエミリア専用の鎧だから、いつまで私自身を守ってくれるかは、賭けでしかない。
気づかないうちに絡め取られていたでは遅いのだ。最後の悪あがきとしては、宝石をシルバに返して、慈悲を乞うしかない。
エリアナは自宅に戻りながら足元がふらつくのを抑えられなかった。
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