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王弟アントン①
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王弟アントンと兄である陛下の血が半分しか繋がっていないことは王宮内でも限られた人物しか知らない秘密である。よって王位に就くことは始めから諦めていたし、自分には王の素養がないことは百も承知だった。
この国には側妃はいない。王家には側妃を持つ為の資金が足りないせいだ。どうしてそんなにお金がないのかと言うと、何代かに一度の割合で、予想外の災害があるからだ。ここでいう災害とは嵐や大雨などの自然災害ではなく、老若男女問わずの人為的災害だ。
最近ではアントンがまだ学生だった頃に起きたある貴族令嬢による国家転覆を仕掛けたものがある。所謂、下位貴族の令嬢が学園でチヤホヤされ、調子に乗ってしまったことで王命の婚約を何件も台無しにしてしまったことにより王家だけでなく、国そのものを混乱に陥れたというものだ。
アレは今考えても、酷かった。精神支配、所謂洗脳を疑うほどに、一人の令嬢に皆が籠絡されていくのを見るのは、こう言っては何だが、笑いたくなるほどの滑稽な様子だった。
アントンも兄も、特に被害はなかったのだが、この国では珍しい「転生者」をみるのはアレが初めてだった。
驚いたことに、彼女が話した前世は、見てもいないのに、アントンには容易に想像できた。
彼女のことは、知らないけれど、彼女の記憶にある世界を見たことがあるように思えて、学生の時には一切話したことなどなかったのに、彼女の牢に何度も訪ねて、話を聞いたりしていた。
知らない者が見たら、王弟までもが彼女の毒牙にかかり、未だに正気を取り戻していないのだと、呆れられただろう。
彼女は稀有な「転生者」ではあったものの、その知識を役立てるような存在ではなかった。寧ろズルをして不正に高評価を受けるような真似をして、失敗した、愚かな存在だ。
それでも、彼女自身は「これから自らの記憶を元に王家を支えていく」と口にしたものの、夢みたいな装置の名を口にしては、具体的な指示は何一つ出せずに終わった。
目指すものはあっても、仕組みを知らなくてはものは作れない。社会制度や政策は口にしても、それを施行するには、何が足りなくて何が問題か、全くわからない。
「私は思い出せないけれど、他の転生者なら思いつくかもしれない。」
そう言って彼女は自分の存在価値を示そうと躍起になった。彼女が怪しい、と独自の判断で「彼女が転生者と思う人物」を挙げてもらうと、何人かの知り合いの名がそこにあった。
転生者の基準とやらはよくわからないが、彼女曰く「常識外の行動を取る」観点から、ケイト・ブラウン子爵令嬢の名前が挙がった。
そして、彼女の婚約者であるデイビス・モリスの名前も。
「デイビス・モリスは、一般的な貴族令息だと思うのだが。」
「だから、余計に怪しいのですよ。だってモブなのに、あんなに早く洗脳が解けたのですよ。あの早さは、攻略対象じゃなければ、シークレットぐらいで。でも、彼は多分そうじゃないと思うんですよね。特に王子の側近でもなかったし。」
話を聞く為とは言え、洗脳とハッキリ口にした以上は調書として残しておかねば。アントンは他にも何人かいた友人の中、何故かデイビス・モリスだけが異常に気になって、リストをじっと眺めていた。
この国には側妃はいない。王家には側妃を持つ為の資金が足りないせいだ。どうしてそんなにお金がないのかと言うと、何代かに一度の割合で、予想外の災害があるからだ。ここでいう災害とは嵐や大雨などの自然災害ではなく、老若男女問わずの人為的災害だ。
最近ではアントンがまだ学生だった頃に起きたある貴族令嬢による国家転覆を仕掛けたものがある。所謂、下位貴族の令嬢が学園でチヤホヤされ、調子に乗ってしまったことで王命の婚約を何件も台無しにしてしまったことにより王家だけでなく、国そのものを混乱に陥れたというものだ。
アレは今考えても、酷かった。精神支配、所謂洗脳を疑うほどに、一人の令嬢に皆が籠絡されていくのを見るのは、こう言っては何だが、笑いたくなるほどの滑稽な様子だった。
アントンも兄も、特に被害はなかったのだが、この国では珍しい「転生者」をみるのはアレが初めてだった。
驚いたことに、彼女が話した前世は、見てもいないのに、アントンには容易に想像できた。
彼女のことは、知らないけれど、彼女の記憶にある世界を見たことがあるように思えて、学生の時には一切話したことなどなかったのに、彼女の牢に何度も訪ねて、話を聞いたりしていた。
知らない者が見たら、王弟までもが彼女の毒牙にかかり、未だに正気を取り戻していないのだと、呆れられただろう。
彼女は稀有な「転生者」ではあったものの、その知識を役立てるような存在ではなかった。寧ろズルをして不正に高評価を受けるような真似をして、失敗した、愚かな存在だ。
それでも、彼女自身は「これから自らの記憶を元に王家を支えていく」と口にしたものの、夢みたいな装置の名を口にしては、具体的な指示は何一つ出せずに終わった。
目指すものはあっても、仕組みを知らなくてはものは作れない。社会制度や政策は口にしても、それを施行するには、何が足りなくて何が問題か、全くわからない。
「私は思い出せないけれど、他の転生者なら思いつくかもしれない。」
そう言って彼女は自分の存在価値を示そうと躍起になった。彼女が怪しい、と独自の判断で「彼女が転生者と思う人物」を挙げてもらうと、何人かの知り合いの名がそこにあった。
転生者の基準とやらはよくわからないが、彼女曰く「常識外の行動を取る」観点から、ケイト・ブラウン子爵令嬢の名前が挙がった。
そして、彼女の婚約者であるデイビス・モリスの名前も。
「デイビス・モリスは、一般的な貴族令息だと思うのだが。」
「だから、余計に怪しいのですよ。だってモブなのに、あんなに早く洗脳が解けたのですよ。あの早さは、攻略対象じゃなければ、シークレットぐらいで。でも、彼は多分そうじゃないと思うんですよね。特に王子の側近でもなかったし。」
話を聞く為とは言え、洗脳とハッキリ口にした以上は調書として残しておかねば。アントンは他にも何人かいた友人の中、何故かデイビス・モリスだけが異常に気になって、リストをじっと眺めていた。
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