伯爵夫人を殺したのは誰だ

mios

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狭い世界

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エリアナなんて名前はたくさんいるというのに、その中からたった一人を探し出す嗅覚は彼女自身の優秀さを物語る。性格を抜きにすれば、彼女自身に非の打ち所がないのは事実。

グリーン嬢が探し出した彼女は、デイビスが一度は調べた令嬢である故にすぐに正体を掴むことができた。

「サベス家がここでまた出てくるとは。」

アーサーは思わずというように独り言を呟いた。


「彼女がマリア・サベスなら呪いは効かなかったということか。」

「いえ、彼女は今ではエリアナという新しい人生を送っています。なら、マリア・サベスなる人物は既におらず、事実上は死んだことになるのでは?少なくとも本人はそうしたかったのではないでしょうか。だから、友人の隠れ蓑を奪ってまで生きようとした。」

二人の間でどのような取引が行われてそうなったかはいざ知らず、結果だけしか此方側にはわからないのだが、エリアナの人生を本来の持ち主からマリア・サベスが奪ったことだけは事実だ。

コンコンと、執務室がノックされ、返事をする。入って来たのは、母が貸してくれた使用人で、母が念の為に用意していた諜報員だと言う。元々、伯爵家に用意していた者達を母は信じられない、と友人の伝手を頼り、自ら育てた者だと言う。

デイビスも初耳だが、人を育てる能力が母にはあるようだ。

「実の息子と旦那にはその能力は発揮されなかったわ。」とは、母の言葉で、全く耳が痛い。

あまりにその通りでぐうの音も出ない。

男は、元騎士だと言っていたので体格の大きい強そうな姿を想像していたのだが、実際には全く違って、言われても騎士とは気付かないヒョロヒョロの弱そうな見た目をしていた。

ただギョロギョロと忙しなく動く目に気味の悪さを感じて、目を逸らす。デイビスは直視を諦めたものの、アーサーは全く異なり、彼を凝視している。知り合いかと声をかけると、自信なさそうに「多分違います。」と答えた。

「どこかで見たような気がするだけで、知り合いではない筈なんです。」
記憶力の良いアーサーが一回で答えられないと言うことは、怪しいと、感じられなかったのはデイビスのミスだ。彼は故意にアーサーの記憶に残らないように印象操作をしていたのだから、素人の自分達が気がつく訳がない。


「私のことはサムと。お呼び頂ければすぐに参ります。」

差し出された手をグッと握り、彼の協力を素直に喜んだ。実際サムの働きには随分と助けられた。

伯爵の仕事をしている為、どうしても何日も国を出ることは叶わない。そんな時、彼なら指示さえあれば、その通りに動いて貰えるのだ。彼はあっという間にマリア・サベスが逃げた原因と現状について調べていた。こちらすら把握していないことを知っているのは、情報元が母だからだろうか。

デイビスは母親について今まで敢えて考えなかったことを今になって後悔した。あの父よりも、母の方がより優秀ではないか。その才をちっとも引き継がなかった自分に呆れてため息が出た。
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