伯爵夫人を殺したのは誰だ

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嫌いだから

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「あの証言が嘘ならエミリア・エポックが妻の死に関しているのも嘘なのか。彼女は国中に指名手配までされている。身分の差がどうの、と言うレベルではなく、彼女の身を守らなくては。」

指名手配されていても未だに見つかっていないからと言って安心はできない。平民だからこそ、尚更攫われたり殺されたところで、簡単に罪ごと消してしまえる。

「すでに国を出ていると思いますよ。そして多分誰かの手引きがあるでしょうね。貴族、または商会など移送の伝手をお持ちの平民などが彼女の逃亡を助けていたなら、我々が今から動いたところで足跡さえ拾えないでしょうね。」

アーサーの言うことは最もだ。それに彼女はケイトと同じく劇を成功させた役者であり、その気になれば別の人物に成り変わることは可能だと思えた。エミリア・エポックとは真逆の人間に生まれ変わり、追跡の目を欺くことなど容易いかもしれない。

「なら、彼女に手を貸している相手から攻めるか。」

デイビスの言葉に、アーサーは不思議な顔をする。それがわかれば苦労はしないとでも言いたげだが、本当に彼女に手を貸しているかはどうでも良い。エミリア嬢を逃そうとしている者はいくら聞いたところで何も教えてはくれないだろう。彼女を守るために、何をされても口を噤む選択をするだろう。

だが彼女を嫌う人間なら?

彼女を逃さない為にあんな嘘までついて、あの商会に入り込んだ彼女なら、どんな手を使っても、彼女の行方を探す筈だ。

キンバリー・グリーンは一度目とは正反対の不機嫌な態度を隠しもせずにデイビスの前にいた。彼女の愛は、相手方に受け入れては貰えなかった。愛する相手を騙して自分と引き離し、辛い目に合わせた張本人を前に愛を囁くなんてことは、中々頭のおかしなシナリオである。

彼女はデイビスの読み通り、決して結ばれなかったとは言え、愛する男を失った後は、静かに暮らすのではなく、元の追っかけの立場に戻った。まさしく、ケイトの執着を、もう一度望んだ。

愛する男を得るために、ミラ・コーリン子爵令嬢を狙ったように、ケイトを得るために、エミリア嬢、もしくはデイビスにその矛先が向かうのは当然とも言える。

それだけの執念が彼女からは感じられたし、自分の熱量はこのままでは彼女の持つ熱意とは、釣り合わないことがわかった。


「エミリア・エポックの行方はわかりませんが彼女が逃げる際に用意していた身分は見つけました。エリアナという平民です。少し手違いがありまして、今はエミリア嬢ではなくて、別の人間がその身分を使っているみたいです。」

相手をグリーン嬢は言わなかったが、多分予想では全く知らない人間ではあるまい。

国を跨ぐとなれば、こちらからの追跡の目は小さくなれど、周辺国からの野次は酷くなる。

グリーン嬢は漸く血の気を取り戻し、彼女に唯一残された娯楽に目を向けた。生きがいとも言うべきなのか、彼女の笑顔に身慄いしたことには目を瞑り、欲しい情報だけを搾り取る。

彼女の様子に怯まないアーサーに、賞賛の目を向け、デイビスは悪寒をやり過ごした。


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