伯爵夫人を殺したのは誰だ

mios

文字の大きさ
50 / 53

気持ち悪い

しおりを挟む
わかると気持ち悪いとなるのは致し方ない。別邸にいた使用人達の中には伯爵夫人付きの侍女が数名いて、あの日に起こったことを証言していたが、それも全て真実ではなかった。

「あれは思い込みと言うより、もっと酷い状態と言いますか……伯爵夫人がケイト様ではなく、別の、あのベラとか言う女を指していたんでしょう?奥様、と言いながら、別の女に従っている侍女なんて、信用する筈ないですよ。」

アーサーもまさかそこまで浸透していたとは思わなくて頭を抱えた。お仕着せを着る奥様に不審感を抱かなかったのか、と問われれば、「奥様はいつも外に出られていましたので。」と、奥様が商会に出向いていない間に、若い経験の少ない子達を取り込んでいたことを認める。

侍女長からすれば、デイビスは義理の息子みたいなものだったらしい。そこまで思って働いてくれたことには感謝すれど、それと、母を蔑ろにし、伯爵家を乗っ取ろうとする話はまた別だ。

父には聞くまでもないと思ったが、やはり「彼女との間には何もなく」、だが、侍女長に任命され報告を受けている間に、彼女は父からの愛を確かに感じていたと、話している。

当然の話だが、その場には二人以外に人がいて、「何もなかった」と証言していることから、父の潔白は証明されている。

若い子達はベラを奥様だと思い込んでいたのなら、本物の奥様をどんな風に思っていたのだろうか。

「旦那様が面倒を見られている親戚の子だと聞いておりました。若いのに商会を経営していると聞いておりましたし、……とても働き者であると。彼女については、あまり近づかないようにと。癇癪持ちでクビにされてしまうからと。

……まさかあの方が本当の奥様なんて思いませんでした。私、実家にも友人にも恋人にも、奥様付きの侍女になったと言ってしまったのに、ただの使用人に付いていただけなんて、あんまりです。」

悲しげに瞳を揺らしながら興奮して話すのは嘘の証言をした若い侍女。彼女は騙されていた身であるから嘘をついた訳ではないのだが。彼女は「なら、あれも嘘なんですよね?」と、新たな情報を与えてくれた。

「奥様……いや、あのベラ様でしたっけ。あの方が実は王女であると言う話です。王弟の方と、兄妹の関係で仲が良いと言っていましたけど。」

「「は?」」

アーサーとデイビスの声が重なる。

「ベラの年齢から考えてもありえません。母親が同じでも父親が違えば、王家の血は引き継いでいないから、王女になどなりませんよ。」

「やっぱり、嘘だったんですね。そんな上手い話があるわけないですもの。」

若い侍女は「やっぱり」と何回も呟いて、納得していた。

「とりあえずこれで王弟殿下との繋がりはあったと結論づけられますね。」

アントンは彼女を騙したのか、勝手に騙されたのか。多分彼の性格上、相手をするのも面倒で放置したのだろう。

ベラは侍女としては、よく仕事のできる人物だと思い込んでいたが、実際にはそう見せられていたのだとわかる。

「それにしても、小説の読みすぎじゃないのか。」

若い女性に人気の恋愛小説には身分を乗り越えて結ばれるものや、メイドが実は高貴な血筋だった、なんてものが存在するが、まさかそれが実際にあることだと考える人間がいるとは思わないじゃないか。

「ベラも、夢みる少女だったのでしょうね。」

ただ夢を見るだけならまだしも、殺害を企てて、犯人をでっち上げるのはやり過ぎだ。

その小説には悪役は出てこなかったのだろうか。悪いことをすると、罰を受けると誰からも教えて貰わなかったのか。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

[きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと2

吉田ルネ
恋愛
出奔したサーシャのその後 元気かな~。だいじょうぶかな~。

処理中です...