伯爵夫人を殺したのは誰だ

mios

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考えるまでもなく

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ケイトのものだと渡された日記をもう一度見返すと、ところどころに不自然に書き直された後があった。彼だって最初からちゃんと示してくれていたのだと、自分の節穴加減に呆れてしまう。

あれからアントンに限っていえば、彼が示したケイトの実家の所業はまんま彼がやっていたことに置き換えられ、自分の罪をケイトの兄に押し付けた形だ。少し調べればすぐわかる嘘を彼が態々ついたのは、それだけ私が騙しやすかったから。妻の死の真相を確かめると銘打って結局全て誘導された誰かの思惑通りに動いている、と思われていたから。だから、母には情けないと呆れられたのだ。

「伯爵を騙そうとした意図はなかったかもしれません。ただ辻褄を合わせたら、そうなってしまったのかも。」

アーサーは、慰めてくれたが自分でも、うまくいき過ぎている感はあったので、これが誘導だったと聞いた今、納得している分もあった。


「いや、何かできすぎてる感じはしたんだよ。ケイトやアーサーならともかく、自分にそこまで円滑に物事を進める才はないから、普通ならそこで気づくべきだったんだ。」


昔から自分の能力は褒められることはあっても、それはこちらの機嫌を損ねない為の世辞であり、正当な評価ではなかった。

伯爵家の仕事だって、大変なところはケイトが半分以上引き受けてくれてうまくいっていたのだ。

母の言っていた内容を思い出して、資料を見ると、確かに倉庫の中の記述は全て別邸に書き換えられている。別邸にいた使用人の中には、宝を探して歩き回り、諦めて別のものを盗んだせいでケイトに解雇された者もいた。

本来なら妥当なこの処分も何故か使用人達からやり過ぎだと反発があったようで、ケイトの侍女、ココ・ジャレッドを除く者に、仕事を放棄されたこともあったようだ。

彼らが使用人と言う立場であるにもかかわらず何故そのように夫人に対して接したのかは、ある勘違いに基づいている。

まず一つ目としては、母の生んだデイビスを認めない者達。彼らはそもそも、伯爵家にいて、働きながら主人を主人と思っていない反乱分子だ。彼らはデイビスを認めていないから、その妻も認めない。

次に、ケイトが子爵家出身で、伯爵家の使用人より下だと思っている者達。何故そんな思考になるのか、身分について今一度勉強しなおした方が良いのは明らかだが、そんな思い違いをしている者が、伯爵家に存在していたのだ。

そして、ゾッとしたのが、自分こそが伯爵夫人に相応しいと、思い込んでいる者達。流石に数は少ないものの、父親の代から、この手の勘違いは多かった。母が把握しているだけでも、両手で足りないぐらいの量あるのだから、背筋が凍ってしまう。

一番恐ろしいのはそのことを父も自分も言われなければ気がつかなかったことだ。母とケイトが彼女達の対処を、秘密裏に行ってくれたおかげだ。

「それにしても酷いですね。なんと、まぁ……」

見た者が言葉をなくすほど当時の母やケイトによって隠された彼女達の奇行は多岐にわたる。自分の思い出と照らし合わせ、あの現象はあの為か、と思い当たるのがまた何とも言えない気持ちにさせた。

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