伯爵夫人を殺したのは誰だ

エミリア・エポック②

はっきり言って不気味だった。シルバに取り憑いている何者かはシルバとは全く別の生き物のようで、見ているのが耐えられなくなるぐらい、気持ち悪かった。

自分を可愛いと信じたまま亡くなった前世の無念をどうにか晴らしたいのだろうか？

「ねえ、アレはシルバの前世じゃなくて、悪霊か何かじゃないの？」

リディも、正直その可能性も考えてはいたらしい。ただ悪霊であったとしても、私達にはどうすることもできない。

出来ればあんなわけのわからない存在とは関わり合いになりたくないのだが、シルバの為ならそうとも言っていられない。何より、彼はケイトとも仲が良い。あの悪霊がケイトに対して嫌な気持ちを抱いていることは間違いないのだし、リディと一緒に何度もシルバとは二人きりで会わないように言い含めた。

彼女は勿論貴族令嬢でもあるから、元より婚約者以外の男性とは二人きりでは会わないし、その疑いをかけられることすらも回避する。

だというのに、あの何者かの策略か、エミリアと、リディの小言の隙間を縫うように、ケイトはシルバとよく会うようになっていった。


「前世の記憶って、良いものなのかな？」
シルバを見る限りはとてもそうは思えないが、巷では自分の前世を求める者と、誰かの記憶を自分のものだと錯覚させて悪事を働くものなどが現れていた。

所謂罪人の記憶を別人に植え付け、罪を擦り付けた上で、口を閉じることを条件にお金を巻き上げたり。元々は引っ込み思案な人に、明るく元気に話していた前世を植え付けるといった性格改善のような行いは前から少しずつは行われていたみたいだが。


こちらの心配とは裏腹に、ケイトと話している時のシルバは、ちゃんとシルバ本人だった。

シルバは彼女に体を奪われている間は記憶がないのか、ケイトに対してはずっと普通に楽しげに接していた。

だけど、ケイトに会わない時には、シルバではなく、彼女が現れる日が多くなっていた。

「多分この女は自分が僕の中にいることを知らないみたいなんだ。多分本人はケイトの侍女のつもりのようで、僕は彼女の前世の恋人だと思っているみたいなんだ。」

あれが恋人に見せる顔？と疑えば、シルバは、恋人って言っても多分下僕みたいなものだと思うよ、と疲れた顔をしていた。そう言われると何だか納得してしまう。

「ケイトの侍女ってことは、今はこの場にいないってこと？」

「いや、悪霊ではないから、一歩も自由には動けてないからね？あくまでも、思い込んでいるだけ。もしかしたら、前に似たような職に就いていたのかもしれないね。」

あの醜悪な彼女に世話を焼かれる人も可哀想だな、とエミリアは失礼にもそう思った。