馬鹿につける薬あります

mios

文字の大きさ
6 / 22

馬鹿は誰 サラ視点

「いらっしゃいませ。」
「……今日は女性の格好なんですね。」 

サラは店に入ってからずっと、違和感があった。何かが違うような違和感が。

店員は前は若い男性だったが、今は若い女性で、でも、別人だとは思えなかった。

「……何で解っちゃうかな。俺、そんなに変装下手かな?」
いや、可愛い女の子に上手く扮している。お嬢様なら完全に気づかない。

「気づかれたくないのであれば、声や雰囲気を変えなければ、すぐにわかりますよ。入ってから違和感凄かったですし。」
違和感の理由は多分それだけではないけれと。
「このお店、普段は開いてないのですよね。……そもそもここに店はない。」
「お姉さん、ただの侍女じゃないね。」
サラを見てクスクス笑う店員は指摘されても狼狽える様子はない。寧ろこの状況を楽しんでいるようで、サラは背中がヒヤッとする。

「そうか、何だ。同業者からしたら、まだまだってことか。」
「同業者なのですか?」
「多分ね。」

なら、彼の主人は誰だ。サラは今までの会話や行動からその真意を読み取ろうとする。


「その様子からしたら、あの薬、使ってないね。まあ、自分のことって、わからないものだしね。あの名前、良くなかったんだね。」

なんとなく感じていた違和感の最たるものは、あの薬が誰のためのものか、と言うことだ。

「アレはあんたのお嬢様にこそ、相応しいのに。ちゃんと、馬鹿につける薬、って書いておいたでしょ。」
「お嬢様が馬鹿だと?そう仰ってます?」

「うん。あれは救いようがないね。でも俺のネーミングセンスがないことが原因だったのなら、悪かったから、これあげるよ。新作クリームとでも言って早急に彼女につけてあげて。

使い方は前と同じだよ。少しずつ何度も使うこと。

お姉さんはさ、調べたんだよね?ヨハンとか言う男の周りにいた女性について。

彼女達の二の舞になるよ、今のままじゃ。あのお嬢様を愛しているなら早急に手を打つべきだ。」

サラはその言葉に違和感の理由を悟る。彼の主人に思い当たり、多分この勘は間違いないと考えると、居ても立っても居られなくなった。

「あの、もう一つ、『馬鹿につける薬』頂けませんか?」
「お嬢様用に?」
「いえ、自分用です。自分の目が曇っていた自覚がありますので、多分今の私には効くかと。」
「いいよ。あと一つと言わずにいくつでも。お代は、後でいくらでも請求できるんだし。」


彼の主人が、サラの考える人なら確かにお嬢様を助ける為なら何でもしそうだ。サラはずっと、潰れかけた公爵家の男よりも彼の方がよっぽどお嬢様に相応しいと思っていた。

何よりヨハンの前ではニコリともしないお嬢様が彼の前だとよく笑う。取り繕ったものではなく、心からの笑顔を彼には見せている。

「もし、薬がなくなれば、またここを開けねばなりませんよね。なら一つで十分です。」
「お姉さん、俺にまた会いたいってこと?」
「ええ、貴方から得るものはたくさんありそうですし。」

「なら、お姉さんにヒントをあげる。ヨハンの周りにいた女性三人のうち、一人だけ修道院に入れられた人がいる。彼女は何をして、俺のご主人を怒らせたのでしょうか。」

「……それがヒントなの?」
「多分それさえ分かれば、本来の貴女なら誰が馬鹿かはすぐにわかるよ。」

ヨハンに侍っていた下位貴族のご令嬢三人の中で修道院に入っていたのは、マリル子爵家のスザンヌ嬢。彼女の親は所謂毒親で、他の二人と違い、家に居場所がない為に修道院に身を寄せたと思っていた。

こんな初歩的なミスをするなんて。思い込みで、事実を捻じ曲げるなんて愚かなことを、自分がするなんて。

サラは自分の未熟さをヒシヒシと感じ、頭を垂れた。


感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

恋の終わりに

オオトリ
恋愛
「我々の婚約は、破棄された」 私達が生まれる前から決まっていた婚約者である、王太子殿下から告げられた言葉。 その時、私は 私に、できたことはーーー ※小説家になろうさんでも投稿。 ※一時間ごとに公開し、全3話で完結です。 タイトル及び、タグにご注意!不安のある方はお気をつけてください。