馬鹿につける薬あります

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前公爵の落とし物

シガニ卿とアレク兄様が到着されたのは、私がヨハンに抱えられ帰ってきた僅か数時間後のことだった。

ヨハンは心配そうにしながらも、混乱している状態で話は無理だろうと判断して話は後日と帰っていった。

落ち着いてくると、サラが調べてくれたこれまでのことを話してくれた。

「ヨハン様のお側にいらした下位貴族のご令嬢方、覚えてます?」

子爵家と、男爵家のご令嬢だったか。何となく家などは調べておいた。何かあった時に対処できるように。

「あの方達も、お嬢様と同じようにフリッツ先生に傾倒され、洗脳されかけたところをヨハン様に助けられたそうです。具体的には、まずマリル子爵令嬢が洗脳され、友人二人をフリッツ先生に宛てがったそうです。

マリル子爵令嬢は元々、ヨハン様に付き纏っていた方で、ヨハン様が不審に思い、調べたことで発覚したようです。

彼女達の行先を調べましたが、三名とも学園は退学されていました。

マリル子爵令嬢は修道院に。後のお二人は、それぞれ就職と婚姻が早まったそうです。」

マリル子爵令嬢は確かに、ヨハンをがっつり追いかけていた。ステラにも思い当たる節がある。

「フリッツ先生は、何故そんなことを……何をしようとしていたの?」

「あの男は、どうやら、ストラウス前公爵の子飼いだったようです。姿形を変えていたせいで、ヨハン様が気がつくのが遅れたそうですが。」

ステラは自分の愚かさが身に染みた。

「私、危ないところだったのね。」

サラは返事の代わりに、ステラを抱きしめた。ステラはその暖かさに子供のように泣いてしまった。

泣き止んだあと、眠ってしまったタイミングで、兄とシガニ卿が到着した。

サラから、事情を聞いたアレクは、何やら考え込んでいる。

「ヨハンの馬鹿を成敗するのは後回しだな。まずは、子飼いの分際で、弁えなかったアレからせねばなるまい。」

「あの、一つ質問を宜しいでしょうか。」

サラがシガニ卿に尋ねたいことはあの店の男との関係だ。

「あの店はシガニ卿の仕込みですか?」

シガニ卿は朗らかに笑って、サラの働きを褒めてくれた。

「あいつの未熟さを、明らかにしてくれてありがとう。アレは天才故に驕っていたからな。鼻っ柱が折れて、随分と扱い易くなった。」

シガニ卿は、アレクと同じ歳でありながら侯爵位を継いでいる男で、魔道具の専門家である。あの薬の作成者についても知っているのかと聞くと、今日連れてきていると言う。

現れたのはシガニ卿よりは少し小柄なまだ少年と呼んでも差し支えない男。

「兄がお世話になっています。ルイスと申します。」

少年の顔に見覚えがある。あの、不思議な店の店主だ。

「え、あの店の店主の弟さん?」
「ええ、そうです。あ、あの誤解のないように言いますが、あの薬の名前は兄が勝手につけたんです。兄は少しばかり、性格が、歪んでますから。」

サラは何となくそうじゃないかと思っていたので、大きく頷いておいた。

弟さんは兄に振り回されて気の毒に、と思っていた。

「ルイスは、一見頼りないが、案外頼りになる男だ。それは私が保証する。今後のステラの護衛にはこいつを付ける。これで少しはヨハンに嫌がらせできるぞ。」

シガニ卿が何やら不穏な言葉を吐いたが、彼を止められる者がいない中、サラの心に不安だけが残っていた。
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