馬鹿につける薬あります

mios

文字の大きさ
16 / 22

初仕事

「たのもー!」
「ふふ、何それ。」
「お姉ちゃん、知らないの?お願い事をする時に言う挨拶なんだよ。」
「まあ、そうなの。」

セドリック兄様の友人とやらに会いに孤児院に来ている。彼女は孤児院にいるが、ここで働いているわけではない。彼女がいるのは、役所で孤児院の地域を担当しているのだと言う。

彼女は貴族令嬢で、元は卒業後婚姻が決まっていたと言う。

「少し前に流行ったでしょう。真実の愛って名前で、浮気をしておいて、自分は堂々と開き直り、あまつさえ相手を非難して、悪役と宣う。あの詐欺に引っかかりまして。

セドリック様に力を借りて円満に解消とはなりましたが、男はもう信じられないから、と仕事に走りました。

うちは子爵家でしたので、働くことについては、高位貴族よりはまだ理解がありましたが、侍女とかではなく、男性と渡り合うような仕事は、中々理解して貰えず苦労しました。」

「男性と二人っきりになるのは、仕事でも非難されることですからね。」

「そうです。密談など、できやしない。女性らしさをなるべく消して見ても、会う人会う人、貴族の気紛れにしか思いませんから、大変でした。

けれど、セドリック様は変わらず、他の方と同じように接してくださって、そこから徐々に意識が変わってきた、というところです。」

「お兄様はあまり、忖度できないといいますか、あのあまり何も考えてないと言いますか。」

「だけど、それがよかったのです。女性だから、とか男性だからとかではなくて、普通に戦力として認識している姿に、ずっと拘っている必要はないと、思われたようで。」

セドリックのことを思い浮かべて恥じらう彼女を見て、兄の思いが一方通行ではなさそうなことに安堵する。

でもそのおかげで、仕事をしたい欲よりも、恋愛についての悩みが再燃してしまった。
「あの、私も卒業後は婚姻する予定で、でもそれがなくなって、何をしたら良いのかまだ決めきれていなくて。

シェイラ様はどうやって、一歩踏み出すことが出来たのですか。恋愛も、怖くはありませんでしたか?」

「私も元婚約者の浮かれた様子を見て、忌々しいと思う反面羨ましいと感じたこともありましたよ。あの人だってあそこまで愚かではなかったはずなのに、恋は人を変えるのだとつくづく思い知りました。

でも、今はやっぱり人によると思うのです。彼は浮かれてああなりましたけど、私は浮かれたとしても、唆されたとしても、その誘いに乗らないだろう、と。

そう思えば、楽になりました。恋することを特に恐れなくていいのだと、気がつくことができましたから。だから、それを考えるための仕事でも良いと思うんです。仕事って深いんです。いろんな気づきがあって。色々な取り組み方があって。

何をやるかは要相談ですが、お家の方が許されているのなら、興味のあることはやって見れば良いんです。どんな突飛なことでも、周りは勝手に気紛れだと考えてくれますし、利用してしまえばいいんですよ。自分の人生ですし、体当たりするしかないじゃないですか。」

「恋愛については、私は偉そうなことを言えませんが、平民の間では形式ばったことは何もないんです。気がついたら、好きになった、ってそれでいいのだと思いますよ。」


話を聞いた後、子供達と散々遊んだ後、ステラは屋敷に戻る前にある場所に向かう。店はまだ開いていたが、客はいなかった。

「たのもー!」
「何だ、誰かと思えば……何だ、その挨拶。」

「子供達に教えてもらったの。お願いごとをする時にいう言葉らしいわ。」
「お願い事……まあ、間違ってはいない、か?」

「ここで少しの間、働かせて貰えない?」
「はぁ?何で?」

「今色々悩んでいて、働かないのなら、結婚するべきだとは思うのだけれど、まだ決心がつかないの。これからのことを決める間だけで良いの。お金もいらないわ。働かせてくれるだけで良いの。」

「時間稼ぎってことか、まあ、それは良いけど。あんまり仕事っていうほどのものはないんだけどな。重労働でもないし。給料はちゃんと払うよ。タダ働きなんてさせたと知られたらそれこそ俺の命が危ないからな。

まあよくわからんが、あまりにも暇ですぐに嫌になると思うぞ。」

ディオは戸惑いながらも、とりあえず了承してくれた。

私が働きたいと思った理由は楽しそうだから。あとは単純に防犯の都合上だ。ここなら知り合いの店だから、危ないことはあまり無いだろう、と安易に考えた結果だ。

反対されるかな、と少し覚悟していたので許されたことに拍子抜けしてしまった。

ディオはいつもの口の悪さはなく、静かに何かを読んでいた。

ふと、顔を上げてこちらに笑いかける。

「お前の仕事あったわ。この部屋掃除してくれ。」

資料が所狭しと散らばっているこの部屋を綺麗にする役目を仰せつかい、少しだけ後悔する。

これで居座る理由ができたのだから、喜ぶべきだろうか。




感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

婿入り条件はちゃんと確認してください。

もふっとしたクリームパン
恋愛
<あらすじ>ある高位貴族の婚約関係に問題が起きた。両家の話し合いの場で、貴族令嬢は選択を迫ることになり、貴族令息は愛と未来を天秤に懸けられ悩む。答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく……そんな話です。*令嬢視点で始まります。*すっきりざまぁではないです。ざまぁになるかは相手の選択次第なのでそこまで話はいきません。その手前で終わります。*突発的に思いついたのを書いたので設定はふんわりです。*カクヨム様にも投稿しています。*本編二話+登場人物紹介+おまけ、で完結。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

恋の終わりに

オオトリ
恋愛
「我々の婚約は、破棄された」 私達が生まれる前から決まっていた婚約者である、王太子殿下から告げられた言葉。 その時、私は 私に、できたことはーーー ※小説家になろうさんでも投稿。 ※一時間ごとに公開し、全3話で完結です。 タイトル及び、タグにご注意!不安のある方はお気をつけてください。