馬鹿につける薬あります

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新しい生活

店で働き始めたステラを家族は受け止めて見守ってくれた。ステラが自分なりに考えて動き始めたことに一定の時間を与えてくれることにしたみたいだ。

かと言ってこれは一時的に問題を先延ばしにしただけに過ぎないとは理解している。

貴族の気紛れとして、言い訳をのこしているのだから。

これからも自由に生きたいのなら、いっそ平民になって仕舞えば自由になれる。何の準備もせずに平民になることは、自殺行為になるから、ある程度の準備は必要だけれど。

ただそうなると、今後自分を守ってくれる人がいなくなる。前のようなことが起きた時に伯爵家の力は使えなくなる。

貴族の義務を果たせないので有れば、修道院に行く手もある。それなら寄付金でどうにかなりそうな気もするし。

修道院に向かうための金額を貯めることを頭に置いて仕事するのもアリかも、と愚考していると、ディオが着替えていた。

いつもの自由気儘な格好ではなく、それなりに見える格好だ。

「どうしたの、それ。」
「ああ、商談用のスーツを貰ったんだ。シガニ卿が、わざわざ作ってくれたんだけど、平民には過分な待遇だ……似合わないか?」
「ううん。意外……だけど似合ってるよ。髪もいつもと違うから別の人みたい。」

いつもは長い髪を垂らしているけれど今は上に上げているせいか、すっきりとした印象を与えている。その顔は確かにルイスには似ているが、爽やかな好青年に映った。

「詐欺師になれるわよ。すごく好青年みたい。」

「お前もだんだん言うようになったな。詐欺師か。胡散臭くみえる?」

「ううん。貴方の素を知らなければ、好青年に見えるってこと。商談上手く行くと良いわね。」
「ルイスの作ったものだからな。誰がやっても上手く行くさ。物は絶対良いんだから。」

物がどれだけ良くても売れない、なんて事例はいくらでもある。だから、やっぱり彼は遣り手なのだろう。懐に入り込み、この人から買いたいと言う何かを持っている。

彼が出かけている間に掃除や在庫の整理、帳簿などを眺めて過ごした。ディオはあんなに適当そうなのに、中々几帳面なところがあるようで、経営に関する資料には全く穴がない。

ひとりでこなす量ではないと思うが本人は他に人がいなかったのだから、仕方ないと言いつつ、従業員を入れてもこの類は見せなかったらしい。

慎重なことは良い事だ。

「あまり人を信じすぎないようにしろ。本人は良いやつでも、環境の違いはあるし、魔が差すことは誰にでも起こり得る。」

それには、人を信じないことだけでなく、その人を守ろうとする意思すら感じる。

「それは経験談?」
「歳上の言う有難い教訓は聞いておけ。聞くのはタダだし、役に立たないってことは、自分が幸せってことだ。」

ルイスがまっすぐに育った分だけ、彼が肩代わりしていた経験ってものがあるのだろうか。たまに、意味深なことを言うディオはステラを多少困惑させた。

「ディオ、私は裏切らないからね!」
「また、馬鹿に戻ってるぞ。」

彼は商品の棚から、『馬鹿につける薬』を取り出しこちらに投げた。

前科があるため、素直に受け取る。憎まれ口ばかり、上達したように感じる。もう少しマシな物が上達すれば良いのに。
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