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婚約破棄?  ローズ視点

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「ローズ・マリーゴールド公爵令嬢!」

突如叫ばれた聞き覚えのある名前に私は壇上に目を向けます。今世では避けに避けたこの国の王太子殿下が、国内の貴族のみならず、諸外国の国賓の前で何か話があるようです。

私の前世の記憶では、確か婚約者の悪行を捏造し、断罪する流れでした。勿論、罪などありません。冤罪です。

ただこれはヒロインにとって一番大切なイベントであり、これをこなさないと、大好きな相手と結ばれません。

二人の間にいる邪魔な障害物を取り去り、悪役とした人物の立場にヒロインがなりかわる、非常に大切なイベントです。

ただ、壇上の王太子殿下は、自分達で決めた悪役の公爵令嬢とやらをご存知ではないようです。キョロキョロと不安気に目を泳がせていらっしゃいます。

それもそのはず、ローズ・マリーゴールド公爵令嬢と言う人はこの国にはいません。この国より数倍広い国土を持ち、技術力も秀でたリザリン王国に渡り、第一王子と結婚したローズは、既にリザリン王妃として、招かれています。

私がリザリン王国の第一王子と結婚したことは周知の事実で号外が出た程だったのに、知らなかったのでしょうか。

「マリーゴールド家って……」
「……今もまだありました?」

聡い貴族達は王太子の言葉に顔色をなくしています。王太子殿下は国外だけでなく国内の貴族すら把握できていない、と言うことを大勢の前で晒したのですから。

マリーゴールド公爵家は私の父の代で爵位を返上しています。理由は私の父が祖父の能力を引き継がなかったせいです。母が生きていた頃はそれでも何とかなりましたが、私がリザリン王国に行く際に父の爵位を返上させ、領民を解放しました。

父には公爵領を治める能力はありませんでした。

リザリン王国では、父の得意なことをしてもらいました。元々研究者肌な父は公爵でなくなったことにほっとしておられました。

私は公爵令嬢と言う地位を盾に悪さをすることは無くなりました。とは言え、今までも何もしてませんでしたけれど。

壇上では王太子が諦めて、自らの主張を示す選択をなされました。誰もが訳がわからない、と顔を顰める中、まだご自分の主張を突き通そうとするとは、良い度胸です。

彼の言葉を借りると、マリーゴールド公爵令嬢は王太子殿下の友人を虐め、殺そうとし、怪我を負わせたそうです。友人だと言うには距離の近い女性を抱きしめていますが、彼女のことなのでしょうか?

三日前に階段から落とされたにしては、身体のどこにも不自由はないように見受けられますが。いよいよ、訳がわかりません。

不意に隣の夫から腕が伸びてきました。腰を抱かれ、身体ごと引き寄せられます。

「余興に締まりがないな。つまらん。あちらで休もう。」

「そうですわね。あれが王太子殿下なら、この国も先が知れておりますわね。」

私は夫と一緒にバルコニーへ出ました。

私が退出する際に何人かの貴族がこちらを見ていましたが、止められることはありません。彼らは、王太子殿下が仰っている、ローズ・マリーゴールド公爵令嬢が私の過去の名前であることに気がついてはいるのでしょう。

だけど、この国のために、口をつぐんでいるのです。私自身、祖国にそこまでの思い入れはありません。彼らはリザリン王の気性の荒さと、唯一無二の王妃を溺愛しているのを知っています。

夫は二人きりになると、人が変わります。普段は威厳のある王を演じているので恐ろしく見えるのですが、私と一緒にいる間は恐ろしさなど感じられないただの優しい男になるのです。

「半信半疑でこの日を迎えたが、ローズの言う通りになったな。あれはあの女の入れ知恵か。」

「彼女が疑い深い性格でなくて良かったですわ。」

「それでも、あの男から君の名前が告げられた時は、不安で仕方がなかった。何が起きるか分からなかったからね。既に君はあの名を捨てているが、強制力とやらが働く場合もあるのだろう?」

「ええ。でも、ヒロインとやらとは面識もありませんでしたし、目が合っても何も言われなかったので、私を認識していなかったようです。」


私は幼い頃、自分がローズ・マリーゴールドであると気づいた瞬間からずっと自分を消すことを目標にしてきました。

私の知るローズ・マリーゴールド公爵令嬢と言うものを消して、ただのローズとして、生きていくつもりでした。

一番手っ取り早いのは、公爵令嬢ではなくなることでした。そう言う意味では父に領主の才能がなくて助かったのです。


私は国内に私の味方を見つけることよりも、国外に居場所を見つけることを最優先としました。リザリン王子と出会えたのは偶々です。今まさに攫われようとしている高貴そうな少年をならず者達から庇い、逃がしたのが、現在の夫との馴れ初めです。

このおかげで、リザリン王子から婚約の申し入れがあり、第二王子との縁談を一蹴できたので、夫には感謝しかありません。


夫はリザリン王から受け継いだ真っ赤な髪と、王妃様から受け継いだ深い緑の瞳を持つ、誰もが認める時期国王でしたが、第二王子の母である側妃に命を狙われておりました。

確か、私が助けなければ、リザリン王は第二王子が継ぐはずでした。そして、彼は最後の攻略対象として、ヒロインの目の前に現れるのです。

けれど、現実には私が第一王子を助けたことでシナリオは変わりました。側妃と連座で第二王子は処刑され、既にこの世にいません。幼い第二王子を連座させるのは、あまりにも可哀想だと一部声が上がりかけましたが、ある証拠映像からその声は消えて無くなりました。

第二王子は最後まで関与を否定しましたが、証拠があるのですから、仕方がないのです。リザリン王国では大々的な粛清が行われ、第一王子殿下であるダリオ様が陛下に即位なされました。




今更会場に戻る気もないので、余興がその後どうなっているかは全くわかりませんが、前世の記憶どおりに、もしヒロインがリザリン王子を待っているのでしたら、不憫なことです。

物語では、公爵令嬢は罪を認めず、ヒロインに襲いかかり、その場をリザリン王子が助けて、大団円なのですが。

役者が既に二人も欠けている状態で物語が続くなんてことがあるのでしょうか?

それはそれで見てみたいものです。
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