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後始末 ダリオ視点
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ここだけの話をしよう。
この世界は乙女ゲームの世界である。妻は小説の世界だと勘違いをしていたが、リザリン王子として、私が生きている所からも、これは乙女ゲームの世界で、間違いない。
乙女ゲーム上では、端役だった第二王子を幸せにしたくて、どっかのオタクが、2次創作として、小説にしたものを、妻は前世で見たのだろう。
妻は自分が悪役令嬢であることに恐れをなして様々な改変を行い、確かに小説からは随分と遠いところにきた。
妻は前世では乙女ゲームをする年齢ではなかったと言う。だから、乙女ゲームの中で、夫ダリオが最後の攻略対象だったことも知らないし、乙女ゲームのヒロインがローズ自身だったことも知らないでいる。
ただ、ローズを思う気持ちは強制力などとは関係ないと言える。
だってゲームの中のダリオと今のダリオは別物だ。男なのに乙女ゲームにどハマりした俺がダリオに転生したのはある意味、神に感謝した。
しかも、一番の推しであるローズを間近で見られるなんて、どんなご褒美だよ。
乙女ゲームの中にはこの国の王太子も今の人物ではなく、第二王子がなっているし、小説のヒロインはそもそもゲームには無関係だ。
会場には側近を一人残してはいるが、何の報告もないのでこちらに被害が及ぶことはないのだろう。
さて、妻が言うところの一大イベントは去った。正直国に早く帰ってしまいたいところであるが、そうは簡単にはいかないだろう。
あの無知な王太子殿下の後始末をしなくてはならない。本来なら自国でどうにかすべきことではある。ただこれは妻とこれからも幸せに暮らすためには必要なことだ。
恥知らずなモブの下位貴族と、廃太子されるアホな王子をリザリンに関わらせないようにするぐらい、容易いことだ。
会場からようやく出てきた側近が、茶番の終わりを告げた。マリーゴールドの名を聞いた国王陛下が我らに謝罪をしたいらしい。
彼らを同席させないなら、と謝罪を受け入れるが、妻に会わせるとは言っていない。
この国の国王陛下は妻に昔のよしみで口添えをしてもらう魂胆だったようで、妻の不在を見てとると、明らかにがっかりした。
謁見の間には、同席を認めていない者達がいた。国王陛下の命令を無視し、突撃したようだ。
「これは、切り捨てても構わないと言うことか?」
私の他所行きの顔は、自分が思う以上に怖いらしい。陛下の前でふんぞりかえっていた元王太子がブルブルと震えて、小さくなっている。
その男の側にいる小柄な女は、失礼なほどこちらを凝視し、譫言を呟いている。
「第一王子のダリオが何で……ミハイルは?」
彼女の呟きを聞いたのは、この中では私と側近だけ。不敬だが、まあ良いだろう。これで彼女も転生者であることが確定した。
なら、勘違いは正してやらなくてはならない。
「残念ながらミハイルも君も、この世界ではただのモブだよ、お嬢さん。ああ、まあ、この男もそうか。攻略対象は第二王子だからね。」
震えてばかりの情けない元王太子も、一応はゲームに登場する。ただダリオルートでは、何者かに暗殺されてしまうけれど。
「君は乙女ゲームはしたことがないらしいね。」
真っ青な顔をした女は、そのまま腰を抜かした。電波系の話が通じないタイプではないらしい。良かった、良かった。私は安心してリザリンに帰れることを喜んだ。
「この国の国王はこちらが何もしなかったことを許されたと思うだろうか。」
「……まさか。」
「念の為、廃太子して、放逐、なんてことがないようにしてくれ。」
側近は、そんなことある訳がない、と思い込んでいるが、凶悪犯を国外追放するような国は、それのどこが問題かに気づかない。後始末をしようとはしないことを悪と思わない。追放された先で罪を重ねても我関せずを貫けば良いと思い込んでいる。そんな訳あるか。
リザリンには国外追放という罰は存在しない。監獄の中で一生働かせるだけだ。生きる為に働き方を教えて、更生の道を示す。
捨てて、終わりというのは裏を返せば、その者がどうなっても構わないということだ。
「まだ幽閉なら期待は持てるが。」
ダリオルートで何者かに暗殺された第一王子。当時は第二王子側に暗殺されたのかと思っていたが、多分違う。
ダリオはそれを実行した犯人に目星を付けている。
「十中八九、私だろうな。」
ゲームの中の第一王子は、第二王子に王太子の座を奪われ、それでも腐らずにローズを愛する。攻略対象にならなかったのは、初めから攻略されていたからだろう。それをダリオの性格上、良しとしないのは今の自分でもわかる。
側近に訝しがられないように小さく笑うと、物騒なことを考えていた頭を切り替えた。愛しの妻の笑顔が見えたからだ。
自分とローズの周りには何も割り込ませるつもりはない。
それが羽虫であっても、我慢がならないのは性分だ。それはゲームのダリオでも今のダリオでも変わらない。
この世界は乙女ゲームの世界である。妻は小説の世界だと勘違いをしていたが、リザリン王子として、私が生きている所からも、これは乙女ゲームの世界で、間違いない。
乙女ゲーム上では、端役だった第二王子を幸せにしたくて、どっかのオタクが、2次創作として、小説にしたものを、妻は前世で見たのだろう。
妻は自分が悪役令嬢であることに恐れをなして様々な改変を行い、確かに小説からは随分と遠いところにきた。
妻は前世では乙女ゲームをする年齢ではなかったと言う。だから、乙女ゲームの中で、夫ダリオが最後の攻略対象だったことも知らないし、乙女ゲームのヒロインがローズ自身だったことも知らないでいる。
ただ、ローズを思う気持ちは強制力などとは関係ないと言える。
だってゲームの中のダリオと今のダリオは別物だ。男なのに乙女ゲームにどハマりした俺がダリオに転生したのはある意味、神に感謝した。
しかも、一番の推しであるローズを間近で見られるなんて、どんなご褒美だよ。
乙女ゲームの中にはこの国の王太子も今の人物ではなく、第二王子がなっているし、小説のヒロインはそもそもゲームには無関係だ。
会場には側近を一人残してはいるが、何の報告もないのでこちらに被害が及ぶことはないのだろう。
さて、妻が言うところの一大イベントは去った。正直国に早く帰ってしまいたいところであるが、そうは簡単にはいかないだろう。
あの無知な王太子殿下の後始末をしなくてはならない。本来なら自国でどうにかすべきことではある。ただこれは妻とこれからも幸せに暮らすためには必要なことだ。
恥知らずなモブの下位貴族と、廃太子されるアホな王子をリザリンに関わらせないようにするぐらい、容易いことだ。
会場からようやく出てきた側近が、茶番の終わりを告げた。マリーゴールドの名を聞いた国王陛下が我らに謝罪をしたいらしい。
彼らを同席させないなら、と謝罪を受け入れるが、妻に会わせるとは言っていない。
この国の国王陛下は妻に昔のよしみで口添えをしてもらう魂胆だったようで、妻の不在を見てとると、明らかにがっかりした。
謁見の間には、同席を認めていない者達がいた。国王陛下の命令を無視し、突撃したようだ。
「これは、切り捨てても構わないと言うことか?」
私の他所行きの顔は、自分が思う以上に怖いらしい。陛下の前でふんぞりかえっていた元王太子がブルブルと震えて、小さくなっている。
その男の側にいる小柄な女は、失礼なほどこちらを凝視し、譫言を呟いている。
「第一王子のダリオが何で……ミハイルは?」
彼女の呟きを聞いたのは、この中では私と側近だけ。不敬だが、まあ良いだろう。これで彼女も転生者であることが確定した。
なら、勘違いは正してやらなくてはならない。
「残念ながらミハイルも君も、この世界ではただのモブだよ、お嬢さん。ああ、まあ、この男もそうか。攻略対象は第二王子だからね。」
震えてばかりの情けない元王太子も、一応はゲームに登場する。ただダリオルートでは、何者かに暗殺されてしまうけれど。
「君は乙女ゲームはしたことがないらしいね。」
真っ青な顔をした女は、そのまま腰を抜かした。電波系の話が通じないタイプではないらしい。良かった、良かった。私は安心してリザリンに帰れることを喜んだ。
「この国の国王はこちらが何もしなかったことを許されたと思うだろうか。」
「……まさか。」
「念の為、廃太子して、放逐、なんてことがないようにしてくれ。」
側近は、そんなことある訳がない、と思い込んでいるが、凶悪犯を国外追放するような国は、それのどこが問題かに気づかない。後始末をしようとはしないことを悪と思わない。追放された先で罪を重ねても我関せずを貫けば良いと思い込んでいる。そんな訳あるか。
リザリンには国外追放という罰は存在しない。監獄の中で一生働かせるだけだ。生きる為に働き方を教えて、更生の道を示す。
捨てて、終わりというのは裏を返せば、その者がどうなっても構わないということだ。
「まだ幽閉なら期待は持てるが。」
ダリオルートで何者かに暗殺された第一王子。当時は第二王子側に暗殺されたのかと思っていたが、多分違う。
ダリオはそれを実行した犯人に目星を付けている。
「十中八九、私だろうな。」
ゲームの中の第一王子は、第二王子に王太子の座を奪われ、それでも腐らずにローズを愛する。攻略対象にならなかったのは、初めから攻略されていたからだろう。それをダリオの性格上、良しとしないのは今の自分でもわかる。
側近に訝しがられないように小さく笑うと、物騒なことを考えていた頭を切り替えた。愛しの妻の笑顔が見えたからだ。
自分とローズの周りには何も割り込ませるつもりはない。
それが羽虫であっても、我慢がならないのは性分だ。それはゲームのダリオでも今のダリオでも変わらない。
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