初恋は叶わないと知っている

mios

文字の大きさ
6 / 33
エミリー

人生初のデート

しおりを挟む
デートの間中、手を繋ぎたい、と提案した時、ルカは一瞬変な顔をした。

途端にニヤニヤして、「しょうがないなぁ。」と言い、「まだまだお子様だな。」と馬鹿にした。

「デートの時は世の恋人達は手を繋ぐらしいわよ。」
「まあ、それはうちの両親もそうだけど。俺らは小さい時を思い出すよな。」
ルカはエミリーの手を取ると、意外そうにしている。

「こう見ると小さくて、やっぱり女の子なんだな。可愛いよ。」

手を取った時のドキドキ感を少し返してほしい。本当にこの人は私を愛そうと思っているのか?エミリーはルカに対して認識を改める必要がありそうだと考えていた。

体格は良いし、顔だって綺麗。気心は知れているし、まあ、楽は楽。だけれど。

友人としては良いけれど、恋愛には向かないって人はいるんじゃないかな。

それはでも、自分もそうかもしれない、と思い始めたのは、最初こそドキドキしたものの、すぐ慣れてしまったこと。それに、せっかく教えてもらった恋人繋ぎと言うのも、手汗が凄くてすぐにやめてしまった。

結局、二人の距離はあまり変化は感じなかった。

お芝居は純愛物だときいていたのに、蓋を開けると喜劇色が強めで、笑いを抑えきれなかった。ただ、二人して、馬鹿みたいに笑って楽しい時間だったのは言うまでもない。食事は新しい店を探そうと言って、貴族より平民がたくさん来る街の食堂みたいなところで食べたのだけれど、チラチラ見られていたみたいだから、やっぱり貴族ってバレたのかと思ったら、女性はルカの顔ばかり見ているようだった。

ある一人の派手な子が、エミリーが近くにいるのに、エミリーと繋いでいる手とは、反対の手を勝手に繋いで口説いてきたけれど、ルカは適当にあしらっていた。こちらをチラッと見て、笑いを含んだ表情で帰っていく女性にちょっと腹が立ったけれど、こちらからは何も言わなかった。

ああいう態度は貴族でも、平民でも同じらしい。それからは平民の生活圏に足を踏み入れたことが原因かはわからないけれど、何度となく彼に擦り寄ってくる女性が現れて、その度に疎外感を味わい、つまらなくなってしまった。

最初の何人かは断固として断る姿勢を見せていたルカも、途中で知り合いがいたらしく、自分から楽しそうに声をかけたりしている。それなのに、なぜかエミリーを紹介してくれる訳でもないらしい。

エミリーは退屈で手持ち無沙汰だった。話は終わりそうにないし、帰ろうと思い立つ。

「私、帰るわ。今日はありがとう。楽しかった。」
まだ時間が早かったけれど、平民女性に話しかけられて、楽しそうな彼はエミリーの方を見てもいない。

聞こえたのは、ルカの気をつけてな、と言う一言だけ。まあ、友人の時からたしかにそんな感じだったけど!そのことで抗議でもしようものなら、「だって護衛がいるじゃないか。」とか言いそう。

エミリーは色々と諦めて、遠くに離れて控えていた護衛を呼び、ルカを待たずに帰った。護衛が言うにはルカは鍛えているし、一人でも帰って来られるだろう、とのこと。

帰ってから、自室でまったりと侍女が入れてくれたお茶を飲みながら、デートって難しい、と思った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

【完結】どくはく

春風由実
恋愛
捨てたつもりが捨てられてしまった家族たちは語る。 あなたのためだったの。 そんなつもりはなかった。 だってみんながそう言うから。 言ってくれたら良かったのに。 話せば分かる。 あなたも覚えているでしょう? 好き勝手なことを言うのね。 それなら私も語るわ。 私も語っていいだろうか? 君が大好きだ。 ※2025.09.22完結 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

貴方の知る私はもういない

藍田ひびき
恋愛
「ローゼマリー。婚約を解消して欲しい」 ファインベルグ公爵令嬢ローゼマリーは、婚約者のヘンリック王子から婚約解消を言い渡される。 表向きはエルヴィラ・ボーデ子爵令嬢を愛してしまったからという理由だが、彼には別の目的があった。 ローゼマリーが承諾したことで速やかに婚約は解消されたが、事態はヘンリック王子の想定しない方向へと進んでいく――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

処理中です...