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エミリー
ルカ③
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ルカの護衛を必要としている第一王子の婚約者が日頃何をしているかと言うと、何もしていない。のんびりとお茶を飲んだり、本を読んだりして、過ごしている。侍女はすぐ近くにいるが、親しげに話をしたりはせず、気が向いた時にルカと話すだけ。
友人がいないのか、手紙や訪問なども何もない。毎日をとても退屈そうに過ごしている。
「ここには、私の味方はいないわ。貴方と同じ。雇い主は別にいるのだもの。」
ルカの疑問に答えた彼女は、淡々と少しの不満もその言葉にのせずにそう話す。
「私は監視されているの。ここに私の自由はないのよ。」
ドキッとした。ルカが自分がここに送り込まれた経緯を思い出す。彼は雇い主である第一王子に、自分の婚約者の様子を報告する様に言われていた。それは正しく監視に他ならない。
それはこの屋敷に働く者達全てに共通する任務だとしたら。彼女の休まる時は、全くないのだろう。
「どうして、そんなことに。」
「私が信用ならないのでしょう。私は運命の瞳を信じていないから。私は自分の運命は自分の手で手に入れたいの。不確かなものに、勝手に自分の運命を決められたくはないのよ。」
ルカはふと、今までうっすらと感じていた彼女の思いにたどり着く。
彼女は、既にご自身で運命を見つけているのかもしれない。
流石に口にすることは躊躇ったが、こう言うことに鈍い自分でも気がつくのだから、他の使用人には既に知られていることだろう。そして、おそらく雇い主である第一王子にも、知られている。
ルカは漸く、今のこの状況に納得がいった。
第一王子の婚約者だからといって、警備が厳重過ぎないか、と疑問に思っていた。これは外からの侵入を防ぐ為だけではなく、内側からの逃亡を防ぐ為のものだった。
監視と彼女は言ったが、王子は自分の運命を逃がさない為に、屋敷に閉じ込めることにしたのだろう。
ルカは昔なら感じた違和感に、鈍くなっているのを感じていた。前ならもっと、第一王子のしていることに、気持ち悪さを感じていただろうが、今はそれが全く感じないどころか、彼に同情まで覚えてしまう。
自分の目は、彼女しか映せないと言うのに、どんな裏切りだと彼女を責めてしまう気持ちがある。
だけど、この感情もおかしい。元々のルカの思考とは違う。運命の目には、思考を変えるような効果があるのだろうか。まるで自分を侵食されるかのような違和感に、ルカは体を震わせた。
「違和感に馴れてはいけないわ。それだけを胸に留めて置けば、侵食されずに、自我を保って居られる。私は一部の可能性に賭けているの。いつかこの悪夢から私を解き放ってくれる何かが現れるのを待っているの。」
ルカはエミリーの存在さえなければ、今すぐ彼女の手を取り、一緒に逃げたかった。もしかしたら、第一王子が自分に課した裏の任務はそうだったのかもしれない。
だけど、運命の目を持つ以前から、エミリーが側にいたルカにとって、エミリーから永遠に離れることは耐え難かった。
「そのように、なれると良いですね。」
白昼夢を無理矢理終わらせて、護衛の任に戻る。
彼女は、苦笑いを浮かべて、「残念。」と一言呟いた。
その後、新しい使用人の男に彼女の話し相手の任は引き継がれた。ルカは少し離れた場所でその姿を監視する。
彼は彼女の望みを叶えてくれる人ならいいな、と思うのと同時に一人残された方の姿を想像してしまう。
それはできない。雇い主であることもそうだが、同じ立場にいるものとして、それが何より辛いと言うことを、既に知っているから。
「心配しなくても、彼は絆されませんよ。私達と同じで彼の運命もあの方ではないからです。」
気がつけば、他の使用人がルカを優しい眼差しで見つめている。
彼女の誘いに同じように乗らなかった人達。彼らの目には、少しの申し訳なさと、やるせなさが浮かんでいて、まるで鏡を見ている様だった。
友人がいないのか、手紙や訪問なども何もない。毎日をとても退屈そうに過ごしている。
「ここには、私の味方はいないわ。貴方と同じ。雇い主は別にいるのだもの。」
ルカの疑問に答えた彼女は、淡々と少しの不満もその言葉にのせずにそう話す。
「私は監視されているの。ここに私の自由はないのよ。」
ドキッとした。ルカが自分がここに送り込まれた経緯を思い出す。彼は雇い主である第一王子に、自分の婚約者の様子を報告する様に言われていた。それは正しく監視に他ならない。
それはこの屋敷に働く者達全てに共通する任務だとしたら。彼女の休まる時は、全くないのだろう。
「どうして、そんなことに。」
「私が信用ならないのでしょう。私は運命の瞳を信じていないから。私は自分の運命は自分の手で手に入れたいの。不確かなものに、勝手に自分の運命を決められたくはないのよ。」
ルカはふと、今までうっすらと感じていた彼女の思いにたどり着く。
彼女は、既にご自身で運命を見つけているのかもしれない。
流石に口にすることは躊躇ったが、こう言うことに鈍い自分でも気がつくのだから、他の使用人には既に知られていることだろう。そして、おそらく雇い主である第一王子にも、知られている。
ルカは漸く、今のこの状況に納得がいった。
第一王子の婚約者だからといって、警備が厳重過ぎないか、と疑問に思っていた。これは外からの侵入を防ぐ為だけではなく、内側からの逃亡を防ぐ為のものだった。
監視と彼女は言ったが、王子は自分の運命を逃がさない為に、屋敷に閉じ込めることにしたのだろう。
ルカは昔なら感じた違和感に、鈍くなっているのを感じていた。前ならもっと、第一王子のしていることに、気持ち悪さを感じていただろうが、今はそれが全く感じないどころか、彼に同情まで覚えてしまう。
自分の目は、彼女しか映せないと言うのに、どんな裏切りだと彼女を責めてしまう気持ちがある。
だけど、この感情もおかしい。元々のルカの思考とは違う。運命の目には、思考を変えるような効果があるのだろうか。まるで自分を侵食されるかのような違和感に、ルカは体を震わせた。
「違和感に馴れてはいけないわ。それだけを胸に留めて置けば、侵食されずに、自我を保って居られる。私は一部の可能性に賭けているの。いつかこの悪夢から私を解き放ってくれる何かが現れるのを待っているの。」
ルカはエミリーの存在さえなければ、今すぐ彼女の手を取り、一緒に逃げたかった。もしかしたら、第一王子が自分に課した裏の任務はそうだったのかもしれない。
だけど、運命の目を持つ以前から、エミリーが側にいたルカにとって、エミリーから永遠に離れることは耐え難かった。
「そのように、なれると良いですね。」
白昼夢を無理矢理終わらせて、護衛の任に戻る。
彼女は、苦笑いを浮かべて、「残念。」と一言呟いた。
その後、新しい使用人の男に彼女の話し相手の任は引き継がれた。ルカは少し離れた場所でその姿を監視する。
彼は彼女の望みを叶えてくれる人ならいいな、と思うのと同時に一人残された方の姿を想像してしまう。
それはできない。雇い主であることもそうだが、同じ立場にいるものとして、それが何より辛いと言うことを、既に知っているから。
「心配しなくても、彼は絆されませんよ。私達と同じで彼の運命もあの方ではないからです。」
気がつけば、他の使用人がルカを優しい眼差しで見つめている。
彼女の誘いに同じように乗らなかった人達。彼らの目には、少しの申し訳なさと、やるせなさが浮かんでいて、まるで鏡を見ている様だった。
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