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エミリー
好奇心
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第一王子の婚約披露パーティーには、国内の貴族達の他に、国賓として諸外国からの招待客が来訪する。
その中に、エミリーのエスコート役を務める者も含まれていた。彼はエミリーの身を守る為にうってつけの人物で、どこかの公爵令息よりも身分は上だ。
彼は柔らかな雰囲気を身に纏っているが、その身分故かおいそれと近づける訳もなく、虫除けと言う意味でエミリーの役に立っていた。
「お兄様が他の方に、彼女を預けるなんて意外だと思っていたけれど、彼なら安心ね。」
とは言え、誰かと話す会話の合間に、チラチラと落ち着きなく、エミリー嬢を気にしている兄の様子を見ると、我慢せずに行けば良いのに、と背中を叩いて急かしたくなる。
ジョージア・ルーミスは、いつものように、妹をエスコートしていた。妹ジュリアには婚約者がいたが諸々の事情によって今回は参加できなかったからだ。
妹との参加は最後かもしれないが、次からはきっとエミリーをエスコートしてみせる、と気持ちを切り替え、ジョージアはこれでもエミリーを気にしていないつもりだった。
エミリー自身は、慣れないパーティーや、エスコート役の身分に気を取られ、ジョージアがこちらを見ていることに気づきもしなかったが、周りからはバレバレだった。
そしてそれは謹慎中にも関わらず、密かに参加していたリリアンヌ・ミロードにもきちんと伝わっていた。
リリアンヌはあれから、この婚約披露パーティーに出るための協力者を探した。学園内にも探せば、エミリー・トラッドの分不相応な状況を妬んでいる者は少なからずいて、彼らはリリアンヌの誘いに二つ返事で了承した。
リリアンヌは兄エリクや父侯爵の目を盗む為に給仕役として潜入していた。
本人は嫌がったのだが、協力者が、謹慎中にパーティーに来たのがバレたら、最悪退学になりかねない、と脅すものだから怖くなってこんな装いになっていた。
ご令嬢が地味な格好をしても、似合わないようにリリアンヌもまるっきり給仕役としては浮いていた。
リリアンヌはエミリーの側に行き、身の程をわからせようとしたが、そうは出来なかった。エミリーのエスコート役は常に彼女の側にいたし、リリアンヌも高位貴族であるからには彼の正体について知らない訳でもなかったからだ。
「せっかくここまで来たのに、何もできないなんて。」
リリアンヌが悔しさで身を震わせていると、意外な人物が彼女の目の前に現れた。
「ジョージア様!」
男はリリアンヌを上から下まで見て、いつもの笑みを浮かべた。
「ここで何をしている?給仕係は皆いそがしそうだよ?それに、君は今謹慎中ではなかったか?また性懲りも無く、彼女を害そうとした訳じゃないだろうね。」
ジョージアの笑みが深くなる。けれど、その笑みは楽しくて浮かべているものではない。
「あの、私は……」
「ミロード侯爵家にはエリクがいたな。彼以外は特に気にする必要はないと思っていたが。君、あまり勝手なことをしない方が良い。私達ルーミス公爵家の立場を知らないなら尚のこと、ね。」
「どうして、あのトラッド伯爵令嬢に構われるのですか?彼女はローエル公爵家と婚約していたのは、知っておりますが、それだけではございませんか。平民に婚約者を奪われた哀れな女性でしかありません。」
「エミリーが特別な人だと、どうして君が納得しなければならない。私は決して寛容な人間ではない。彼女にこれ以上付き纏うなら、侯爵家ごと潰して差し上げようか。それか君から令嬢としての身分を奪っても良いね。……学園を卒業したいかい?」
ジョージアの顔は相変わらず笑っている。なのに、リリアンヌは冷や汗が止まらない。不安を受け止めたくなくて、口を開こうとするが、何も言葉を続けることができなかった。
「過剰な好奇心は身を滅ぼすよ。」
最後にジョージアが残した言葉に、リリアンヌはそれ以上何かを言うことは諦めた。
その中に、エミリーのエスコート役を務める者も含まれていた。彼はエミリーの身を守る為にうってつけの人物で、どこかの公爵令息よりも身分は上だ。
彼は柔らかな雰囲気を身に纏っているが、その身分故かおいそれと近づける訳もなく、虫除けと言う意味でエミリーの役に立っていた。
「お兄様が他の方に、彼女を預けるなんて意外だと思っていたけれど、彼なら安心ね。」
とは言え、誰かと話す会話の合間に、チラチラと落ち着きなく、エミリー嬢を気にしている兄の様子を見ると、我慢せずに行けば良いのに、と背中を叩いて急かしたくなる。
ジョージア・ルーミスは、いつものように、妹をエスコートしていた。妹ジュリアには婚約者がいたが諸々の事情によって今回は参加できなかったからだ。
妹との参加は最後かもしれないが、次からはきっとエミリーをエスコートしてみせる、と気持ちを切り替え、ジョージアはこれでもエミリーを気にしていないつもりだった。
エミリー自身は、慣れないパーティーや、エスコート役の身分に気を取られ、ジョージアがこちらを見ていることに気づきもしなかったが、周りからはバレバレだった。
そしてそれは謹慎中にも関わらず、密かに参加していたリリアンヌ・ミロードにもきちんと伝わっていた。
リリアンヌはあれから、この婚約披露パーティーに出るための協力者を探した。学園内にも探せば、エミリー・トラッドの分不相応な状況を妬んでいる者は少なからずいて、彼らはリリアンヌの誘いに二つ返事で了承した。
リリアンヌは兄エリクや父侯爵の目を盗む為に給仕役として潜入していた。
本人は嫌がったのだが、協力者が、謹慎中にパーティーに来たのがバレたら、最悪退学になりかねない、と脅すものだから怖くなってこんな装いになっていた。
ご令嬢が地味な格好をしても、似合わないようにリリアンヌもまるっきり給仕役としては浮いていた。
リリアンヌはエミリーの側に行き、身の程をわからせようとしたが、そうは出来なかった。エミリーのエスコート役は常に彼女の側にいたし、リリアンヌも高位貴族であるからには彼の正体について知らない訳でもなかったからだ。
「せっかくここまで来たのに、何もできないなんて。」
リリアンヌが悔しさで身を震わせていると、意外な人物が彼女の目の前に現れた。
「ジョージア様!」
男はリリアンヌを上から下まで見て、いつもの笑みを浮かべた。
「ここで何をしている?給仕係は皆いそがしそうだよ?それに、君は今謹慎中ではなかったか?また性懲りも無く、彼女を害そうとした訳じゃないだろうね。」
ジョージアの笑みが深くなる。けれど、その笑みは楽しくて浮かべているものではない。
「あの、私は……」
「ミロード侯爵家にはエリクがいたな。彼以外は特に気にする必要はないと思っていたが。君、あまり勝手なことをしない方が良い。私達ルーミス公爵家の立場を知らないなら尚のこと、ね。」
「どうして、あのトラッド伯爵令嬢に構われるのですか?彼女はローエル公爵家と婚約していたのは、知っておりますが、それだけではございませんか。平民に婚約者を奪われた哀れな女性でしかありません。」
「エミリーが特別な人だと、どうして君が納得しなければならない。私は決して寛容な人間ではない。彼女にこれ以上付き纏うなら、侯爵家ごと潰して差し上げようか。それか君から令嬢としての身分を奪っても良いね。……学園を卒業したいかい?」
ジョージアの顔は相変わらず笑っている。なのに、リリアンヌは冷や汗が止まらない。不安を受け止めたくなくて、口を開こうとするが、何も言葉を続けることができなかった。
「過剰な好奇心は身を滅ぼすよ。」
最後にジョージアが残した言葉に、リリアンヌはそれ以上何かを言うことは諦めた。
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