初恋は叶わないと知っている

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エミリー

貧乏くじ

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リリアンヌの元へ暇そうな兄を行かせたのはジュリアだ。本人から言われないと気づかない程に彼女は鈍い。鈍いくせに自分は空気が読めていると思うから見当違いのことをする。そんな人達が多いことがルーミス公爵家を忙しくしている。

エミリー嬢に危害を加えようとした中で唯一反省の色が見えなかったのがリリアンヌだ。生徒会の手伝いをしているシャロンからの情報で、婚約披露パーティーでエミリー嬢に何かをする気だと聞いていなかったら対応は遅れたかもしれない。

そんなことになれば、兄が本気になって、会場が血の海になるところだ。さすがに本人に言われて落ち込んだのかリリアンヌ嬢から魂が抜け落ちている。

兄の笑顔で怒る、って言うの怖いのよね。

ジュリアは戻ってきたジョージアが普段通りであったことに安堵した。怒りを持続させるタイプではないが、最近の兄はエミリー嬢に関することだと、いつもの兄に戻れないようで、どこかおかしい。

これが恋、なのだろうか。

ジュリアは他人事だからか、興味が湧いて、兄を観察する。兄が知れば何か言われるかも知れないが、彼の関心は今はここにはない。

意識だけずっとエミリー嬢に向かって飛んでいる。



残念なことに兄の秋波は、ムルムン国第三王位継承者のボリス王子によって全て弾き返されていた。

エミリー嬢のエスコート役は、彼女を心配する心強い友人がつけたものだ。その判断は正しいと思う。身分の差がどうこう、と言う輩は放っておけば良い。彼と恋愛するわけではないし、単なるエスコート役でしかないのだから。まあ、恋愛すると言うなら、応援はするけれど。

彼女を取り巻く状況を考えると、理屈抜きで黙らされるぐらいの相手じゃないと、無理だ。運命の相手なら良いわけでもない。相手を見つけたとして、その相手と生きていく決心をしなければ、同じことだ。

彼女の様子を見ていると、未だにそこまでの気持ちの整理はついていないように見える。だからこそ、あの兄のように、叶わない希望を抱く人間が出てくる。

気持ちなんて、中々思い通りにはいかないのだから、焦らなくても良い、とジュリアは思っているが、そうは言っていられないのが現状だ。


ジュリアは、会場の隅で機会を窺う一団を目の端にとらえる。彼らはおそらく、リリアンヌ嬢の仲間だろう。そんなに、死にたいのだろうか。周辺各国の代表が揃う夜会で何かをしようなんて、考える者達の気が知れない。

ルーミス公爵家の調べでは、既に彼らの面と手の内はバレている。彼らの目的は、リリアンヌ嬢とは違い、エミリー嬢ではなく、夜会を混乱させることだ。

全く余計なことをしてくれる。

恋に溺れる彼女はよりにもよって、国家反逆罪を引き当ててしまった。彼女に思い入れはないが、流石に可哀想だ。

まさか、自分がリリアンヌ嬢のために働くことになるなんて、とジュリアは苦笑した。

ひいては兄のためになるなら、妹としては、これぐらいこなさなければならない。
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