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エミリー
もう一つの運命
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(ああ、遅かったか……)
ムルムン国からの賓客にはエミリーのエスコートの他にやることがあった。運命の目に関して彼らムルムン国王家は代々重大な使命を担っている。
運命の相手を無くした不幸な者達に対する救済の力。ムルムン国王家の中でも限られた人間にしか発現しないその能力は、今ではボリスと、その弟シリルのみに与えられた力だ。
運命の目については、ボリス自身は興味はない。不幸な人間を増やすぐらいならば、そんなものはない方が良いと思うぐらいだ。
エミリーを運命の相手に任せて、彼はもう一人のターゲットに近づく。ボリスはある依頼を受けて、この国の第一王子を探していた。
第一王子は、運命の目の持ち主からその相手を奪った人間で、本来なら目の強制力はない筈だが、強制力でもない限り説明がつかないような執着を相手に向けている。
その原因を探り、状態を緩和すること。ボリスはこれまでの調査で、大まかな状況把握が完了していた。
彼が大変なことをしでかす前に、力を使ってどうにか回避を、と思ったが。
ボリスは目の前に倒れている男の脈を確認するが既に事切れていた。昔、彼の顔をどこかの小国の王家の庭で見た気がする。
小国の姫が何度も第一王子の監視をどうにか掻い潜り逃げ出そうとしていたのは、大切な幼馴染の彼がこうやって死ぬことを阻止したかったのではないか。
結局は無駄に終わったが。
ボリスは彼をこのままに、今一度急いだ。今のままなら不幸な終わりしか想像できない。
死んだように生きることが、幸せかは甚だか疑問だが生きてさえいれば、希望が生まれ、これから活路を見出せることもあるかもしれない。
最悪は無理心中か、はたまた姫が殺害されるか。姫が彼の復讐の為に、第一王子を殺すこともふと考えたがそれはないだろう。彼女は昔から暴力的な解決は望まない。自分がどれほど理不尽な目に遭おうとも。皮肉にも、彼女の周りには獰猛な獣ばかりが溢れてはいたけれど。
運命の目の不幸なところは、男性には様々な制約があるにもかかわらず、女性にはあまり制約がないところだ。ずっと監視される、という目の気持ち悪さはあるが、その目自体に殺傷能力はなく、小国といえども王家に生まれた姫には護衛に監視されている日常と大して違いはなかっただろう。
小国は吹けば飛ぶようなそんなちっぽけな国で、姫を大国に嫁がせるのは王家の悲願だった。元よりこの結婚は逃れられるものではなかったが。
それでも、彼女の唯一の味方である幼馴染の彼は彼女の一大事に駆けつけた。
一つの疑問はこれだけ厳重な警備の中、彼がこの場に入り込めたということだ。彼の味方と言えば一人しか手伝えるものはいない。
彼を生かしたくて何度も逃亡しようとした女性は、死ぬとわかっていて、彼をこの場に引き入れている。
ボリスは残酷な思考に辿り着く。
(いや、そんな筈は……)
色眼鏡で見てしまった自分を情けなく思う。だとすれば、やはりボリスは向かわなくてはならない。彼女の思う壺であることには嫌悪感すら抱いてしまうけれど。
ムルムン国からの賓客にはエミリーのエスコートの他にやることがあった。運命の目に関して彼らムルムン国王家は代々重大な使命を担っている。
運命の相手を無くした不幸な者達に対する救済の力。ムルムン国王家の中でも限られた人間にしか発現しないその能力は、今ではボリスと、その弟シリルのみに与えられた力だ。
運命の目については、ボリス自身は興味はない。不幸な人間を増やすぐらいならば、そんなものはない方が良いと思うぐらいだ。
エミリーを運命の相手に任せて、彼はもう一人のターゲットに近づく。ボリスはある依頼を受けて、この国の第一王子を探していた。
第一王子は、運命の目の持ち主からその相手を奪った人間で、本来なら目の強制力はない筈だが、強制力でもない限り説明がつかないような執着を相手に向けている。
その原因を探り、状態を緩和すること。ボリスはこれまでの調査で、大まかな状況把握が完了していた。
彼が大変なことをしでかす前に、力を使ってどうにか回避を、と思ったが。
ボリスは目の前に倒れている男の脈を確認するが既に事切れていた。昔、彼の顔をどこかの小国の王家の庭で見た気がする。
小国の姫が何度も第一王子の監視をどうにか掻い潜り逃げ出そうとしていたのは、大切な幼馴染の彼がこうやって死ぬことを阻止したかったのではないか。
結局は無駄に終わったが。
ボリスは彼をこのままに、今一度急いだ。今のままなら不幸な終わりしか想像できない。
死んだように生きることが、幸せかは甚だか疑問だが生きてさえいれば、希望が生まれ、これから活路を見出せることもあるかもしれない。
最悪は無理心中か、はたまた姫が殺害されるか。姫が彼の復讐の為に、第一王子を殺すこともふと考えたがそれはないだろう。彼女は昔から暴力的な解決は望まない。自分がどれほど理不尽な目に遭おうとも。皮肉にも、彼女の周りには獰猛な獣ばかりが溢れてはいたけれど。
運命の目の不幸なところは、男性には様々な制約があるにもかかわらず、女性にはあまり制約がないところだ。ずっと監視される、という目の気持ち悪さはあるが、その目自体に殺傷能力はなく、小国といえども王家に生まれた姫には護衛に監視されている日常と大して違いはなかっただろう。
小国は吹けば飛ぶようなそんなちっぽけな国で、姫を大国に嫁がせるのは王家の悲願だった。元よりこの結婚は逃れられるものではなかったが。
それでも、彼女の唯一の味方である幼馴染の彼は彼女の一大事に駆けつけた。
一つの疑問はこれだけ厳重な警備の中、彼がこの場に入り込めたということだ。彼の味方と言えば一人しか手伝えるものはいない。
彼を生かしたくて何度も逃亡しようとした女性は、死ぬとわかっていて、彼をこの場に引き入れている。
ボリスは残酷な思考に辿り着く。
(いや、そんな筈は……)
色眼鏡で見てしまった自分を情けなく思う。だとすれば、やはりボリスは向かわなくてはならない。彼女の思う壺であることには嫌悪感すら抱いてしまうけれど。
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