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エミリー
強すぎる憎しみ
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ボリスは結果、間に合わなかった。
運命の目が、互いの負担になる場合、それを解除はできないが、少しは改善するように働きかける、という意味では。
扉を開いた向こうには、今夜の主役の一人である姫が倒れていた。血はでていない。眠っているようだ。
第一王子はボリスを一瞥すると、歪んだ笑みを見せた。
「私を御しても意味はない。愛情が歪んでいるのは、どちらかというとあちらだ。今は眠らせているが、死にたいから殺してくれと言っていた。貴方が触れてくれれば彼女の被虐思考もマシになるのではないか?」
ボリスは自分の能力すら気づかれていることに苦笑した。一応隠して来たつもりなので、あまりいい気はしないが、その情報を盾に脅したりはしてこなさそうな様子に、一旦問題はない、と踏んだ。
彼の言うように、確かに歪んだ感情は彼女の方からも感じていた。
ボリスは能力を二人に使い、部屋を出る。部屋を出たが最後、もうこの二人に対する仕事は完了する。とはいえ、何かしたくとも、もう出来ない。
倒れているままの姫を、ソファに移動させるが、微動だにしない様子に死んでいるのかと焦るが、ちゃんと息はあるようだ。
ボリスは冷や汗が止まらない。元は彼女が先導して行き過ぎた彼の愛を止めようと思っていたのに、蓋を開ければ彼の愛は愛よりも憎しみが強くなっているように見える。
強すぎる愛情は、ボリスの能力が効くのだが、強すぎる憎しみは管轄外だ。
「正常な目を取り戻すには、心を通わせる必要が?」
「ええ、その筈です。」
未だにその表情からは愛情の一欠片も窺い知れないが、彼は彼女をじっと見つめている。
ボリスはこれ以上この場にいる必要を感じずに、彼に断り、部屋を出た。彼女の未来がどうあれ、これ以上立ち入ることはボリスは望まない。
第一王子は、ボリスが居なくなった後もその場に居続けた。主役の出番は既に終わっている為、会場にはもう戻らなくても問題ないが、彼女を今後どうするかを考えなくてはならない。
第一王子は自分の運命の目に関しての認識が甘かったことを痛感していた。羨ましくて奪った目を手に入れたというのに、ちっとも幸せではない。
まず、目が見えない。
聞いていた話とは違わない。違うと言いたいところだが、違わない。違うとすれば相手のことを見るときだけは、愛しいと思うフィルターがかかると聞いていたが、そんなことはなかった。
傲慢で愚鈍な小国の姫。魅力など一ミリも感じない。コレを愛し続けるなど出来るのか。
答えは、しなくてはいけない、だ。
じゃないと、目は一生見えない。
「お前を殺すと約束すれば、私の目を受け入れると?」
「今も、受け入れているわ。私には貴方しかいないの。」
「なら、何故まだ目が見えない?お前は何故私を受け入れない?他の男に目移りしているからだ。何人をたらし込んだ?あの護衛か、それとも、あの鼠か?」
「私達が真に信頼し合わなければ、目が見えることはないわ。愛し合う必要はなかったと思う。」
「なら、いつか殺してやる、と言えば良いのか。」
「そうね、出来れば早いうちにお願い。」
気がつけば、彼女は倒れていた。いや、第一王子である自分が眠らせたのだ。仮にも王族に生まれた身でありながら、警戒心が一つもない。婚約者に睡眠薬を盛る自分を棚に上げ、王子は深い呼吸と共にソファに沈み込んだ。
心を通わせる以外の解除方法を確認するのは躊躇われた。奴ではダメだ。犯行予告と取られかねない。
一説によると、相手を永遠に失った時に解除されることもある、らしいが、本当かどうかはわからない。ただ眉唾ではあるため、検証は必要だ。もしそんなことが可能なら無法地帯になってしまう。
第一目標の心を通わせるは壊滅的だが、上手く行けば皆が幸せになる。
死にたがっている姫と、目が見えるようになりたい自分。
ただ懸念があるとすれば、解除できない場合、彼女が死んでしまえば後戻りはできない。
だから、検証が必要だ。
幸運にも運命の目は、この国に、もう一組存在する。彼女達は貴族だから、王族のために喜んで犠牲になるに違いない。
もし抵抗するなら、仕方がないが、その時は自ら手を下すまでだ。
運命の目が、互いの負担になる場合、それを解除はできないが、少しは改善するように働きかける、という意味では。
扉を開いた向こうには、今夜の主役の一人である姫が倒れていた。血はでていない。眠っているようだ。
第一王子はボリスを一瞥すると、歪んだ笑みを見せた。
「私を御しても意味はない。愛情が歪んでいるのは、どちらかというとあちらだ。今は眠らせているが、死にたいから殺してくれと言っていた。貴方が触れてくれれば彼女の被虐思考もマシになるのではないか?」
ボリスは自分の能力すら気づかれていることに苦笑した。一応隠して来たつもりなので、あまりいい気はしないが、その情報を盾に脅したりはしてこなさそうな様子に、一旦問題はない、と踏んだ。
彼の言うように、確かに歪んだ感情は彼女の方からも感じていた。
ボリスは能力を二人に使い、部屋を出る。部屋を出たが最後、もうこの二人に対する仕事は完了する。とはいえ、何かしたくとも、もう出来ない。
倒れているままの姫を、ソファに移動させるが、微動だにしない様子に死んでいるのかと焦るが、ちゃんと息はあるようだ。
ボリスは冷や汗が止まらない。元は彼女が先導して行き過ぎた彼の愛を止めようと思っていたのに、蓋を開ければ彼の愛は愛よりも憎しみが強くなっているように見える。
強すぎる愛情は、ボリスの能力が効くのだが、強すぎる憎しみは管轄外だ。
「正常な目を取り戻すには、心を通わせる必要が?」
「ええ、その筈です。」
未だにその表情からは愛情の一欠片も窺い知れないが、彼は彼女をじっと見つめている。
ボリスはこれ以上この場にいる必要を感じずに、彼に断り、部屋を出た。彼女の未来がどうあれ、これ以上立ち入ることはボリスは望まない。
第一王子は、ボリスが居なくなった後もその場に居続けた。主役の出番は既に終わっている為、会場にはもう戻らなくても問題ないが、彼女を今後どうするかを考えなくてはならない。
第一王子は自分の運命の目に関しての認識が甘かったことを痛感していた。羨ましくて奪った目を手に入れたというのに、ちっとも幸せではない。
まず、目が見えない。
聞いていた話とは違わない。違うと言いたいところだが、違わない。違うとすれば相手のことを見るときだけは、愛しいと思うフィルターがかかると聞いていたが、そんなことはなかった。
傲慢で愚鈍な小国の姫。魅力など一ミリも感じない。コレを愛し続けるなど出来るのか。
答えは、しなくてはいけない、だ。
じゃないと、目は一生見えない。
「お前を殺すと約束すれば、私の目を受け入れると?」
「今も、受け入れているわ。私には貴方しかいないの。」
「なら、何故まだ目が見えない?お前は何故私を受け入れない?他の男に目移りしているからだ。何人をたらし込んだ?あの護衛か、それとも、あの鼠か?」
「私達が真に信頼し合わなければ、目が見えることはないわ。愛し合う必要はなかったと思う。」
「なら、いつか殺してやる、と言えば良いのか。」
「そうね、出来れば早いうちにお願い。」
気がつけば、彼女は倒れていた。いや、第一王子である自分が眠らせたのだ。仮にも王族に生まれた身でありながら、警戒心が一つもない。婚約者に睡眠薬を盛る自分を棚に上げ、王子は深い呼吸と共にソファに沈み込んだ。
心を通わせる以外の解除方法を確認するのは躊躇われた。奴ではダメだ。犯行予告と取られかねない。
一説によると、相手を永遠に失った時に解除されることもある、らしいが、本当かどうかはわからない。ただ眉唾ではあるため、検証は必要だ。もしそんなことが可能なら無法地帯になってしまう。
第一目標の心を通わせるは壊滅的だが、上手く行けば皆が幸せになる。
死にたがっている姫と、目が見えるようになりたい自分。
ただ懸念があるとすれば、解除できない場合、彼女が死んでしまえば後戻りはできない。
だから、検証が必要だ。
幸運にも運命の目は、この国に、もう一組存在する。彼女達は貴族だから、王族のために喜んで犠牲になるに違いない。
もし抵抗するなら、仕方がないが、その時は自ら手を下すまでだ。
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