踏み台(王女)にも事情はある

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王女の幸せ

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デリクにはああいったものの、イザベラがしたことはあまり多くはない。彼は自分を買い被りすぎだと思う。イザベラがしたことは、たくさんの人に助けを求めたことだけ。兄が殺されて、自分を守る為、義姉になるはずだった人が身代わりになってくれた。彼女とはあまり仲が良くなかったにも関わらず。彼女は自分を守ろうとしてくれた。

全てを自分で背負うことは、楽だけど現実的ではない。場合によっては多くを傷つけ、誰も救えない。

だから、皆に助けを求め、代わりにできることをした。

ビアンカを初めて見た時は、守らなきゃ、と思った。彼女は傷つき、壊れそうな状態に見えたからだ。だけど、彼女はとても強く、反対にイザベラを守ってくれた。

彼女が肌身離さず持っていた青い魔石を見た時は、それが自分が兄に渡したものだとは初めはわからなかった。

よく似た物があるのだな、としか思っていなかった。だけど、魔物と対峙したあの日に彼女と周りの者全てを守ろうとしたあの魔石の光を見て、あれが兄から彼女に渡されたものだと気づけた。

あれは、ユラーデンに向かう兄に、彼方側にバレないように渡した御守りで兄の魔力を通して完成する。兄が以前に作ってくれた物を参考に改良を施したものだった。兄はそれを自分の命を守る為ではなく、彼女に渡したのかと思うと、兄らしいというか、何というか。自分の命を大切にして欲しかった思いと、ビアンカを守ってくれてありがとう、という思いとがごちゃ混ぜになる。

ビアンカは言えば取り上げられる、と思ったのか、そのお守りのことも兄とのことも話してはくれなかった。だけどとても大切にしてくれているのがわかっていたから、此方も何も言わなかった。

ビアンカは聖女と言う名に相応しい振る舞いをしてくれた。神殿内部が腐っていたせいで、たくさん無理をさせていたが、頑張ろうとしてくれた。

王女と言う肩書きがあったから、悪役にされそうになったけれど、その肩書きがあったから、奴等から彼女を守れたと自負している。彼らはわかりやすく権力に弱い。相手がどれだけ憎くても、その相手が王女なら、手出しはできない。だから、元王女になった時に身を隠す為、「孤島の監獄」を選んだのだ。彼らが万が一にも手出しができないように。

監獄の居心地は良かった。自分が一般的な貴族令嬢なら確かに監獄なのだが、今までの仕事量に比べると、ゆっくりする時間もあって、学びの時間も取れて、好きなことができる。天国のような場所。

シスターフローレンスに心配されるほどの染まり具合に、随分と自分が浮いた存在だったことは、自覚していた。

面会はできない「監獄」だが、手紙は検閲付きで、許されていた。トビアスとは、ラブレターを送り合った。最初に決めていた暗号化が全て愛の言葉で決められていたのは、トビアスの遊び心だったのかもしれない。

トビアスには随分と無理をさせていた。自分が彼を伴侶に選んだばっかりに大変な目に遭わせてしまった。

だけど。

彼の手を離すつもりはもうない。これからは彼と大手を振って愛し合えるのだから遠慮なんてしない。周りがどう思おうと、イザベラは単に我儘なだけなのだ。最初に望んだ我儘を突き通そうとしているだけ。我儘だから、王位も聖女の地位も手に入れる。我儘だから、民の幸せも、魔物の幸せも全てを手にしたい。

デリクの誤解を解かないのは、ただの意趣返しだ。彼は大人だから、多分許してくれるだろう。
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