踏み台(王女)にも事情はある

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シスターフローレンス

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イザベラが最初に入って来た時はまるで昔の自分を見ているかのようだった。

「救国の聖女」と呼ばれ、讃えられた自分が、今「監獄」でシスターフローレンスとして働いているのだから、経緯は察せられるものだ。

どうしてこうなったかと言えば、今回のイザベラと全く同じ。力を持ちすぎたからである。一人に持てる量以上のものをどうにか持ち続けようと足掻いた結果、あるものは簡単に奪われ、あるものは取り上げられ、あるものは壊され、根こそぎ荷物らしい荷物を減らされたのだ。

自分もこの場所に入った時は皆が敵で頼れる人はいないと思い込んでいた。彼女は自分なりに戦う意思があったけれど、昔の自分にはそんなものはなかった。

ただ閉ざされた場所で自分を慰めていただけ。

長く生きているおかげで、昔の自分の敵だった人達はすでに亡くなっている。外へ出ようとするなら、それも可能だ。もう口封じに殺されることはないだろう。

イザベラと入れ替わりに入ってきたビアンカと言う少女は、フローレンスのことを「おばあちゃん」と呼ぶ。家族とは縁が薄かった自分にも、子を通り越して孫ができたようで、何だかこそばゆい。

イザベラとは手紙のやり取りをして、会えなくなっても縁は繋がっていく。今思えば、昔の自分は、目の前の仕事に没頭することで、人との関係を疎かにしていたみたいだ。

だから、突然の出来事に、味方になってくれる人も見つけられず、自分だけでどうにかしないといけない、と思い込んでしまった。

人の行動を見ていると、どうしてか自分の失敗が先に見えてくることがある。イザベラの姿を追いながら、昔の自分を追体験してわかることもある。

イザベラには頼りになる旦那様ができた。昔からの恋が実って幸せいっぱいの彼女の様子に自分の心まで温かくなっていく。


幸せは人それぞれである。人それぞれの物語があって、人それぞれの価値観の元に、人生が成り立っている。

昔のフローレンスの幸せを、今のフローレンスが叶えられないように、今のフローレンスの幸せを昔のフローレンスは理解できないだろう。

シスターフローレンスは以前の婚約者を思い出すことはもうない。生きる道が違うと理解してからは追いかけることもなかった。あの時諦めなかったら違う人生が待っていただろうか?


とはいえ、彼と自分の昔の姿すら、想像もできないのだから、そんな未来は起こり得ないことだったのだと納得している。






「監獄」での生活は過酷だ。慣れるとそうでもないが、自分と向き合う時間が多いことは、人によってはとにかく退屈で厳しい罰になるらしい。ビアンカが来てからは元気な彼女の笑い声が、他の人間の元気の源になっている。



「私、大きくなったら神様と結婚する。そしてね、ここにいる皆を幸せにするの。」

可愛い笑顔に釣られて、笑みを返すと、シスターフローレンスはここに来て初めて長生きを神に願った。




終わり

読んでいただきありがとうございました。      mios
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