大恋愛の後始末

mios

文字の大きさ
6 / 18

情報交換

しおりを挟む
「あの、まさか……ジュリエットが逃げるのを前もってご存知だったわけではないですよね?」

おそらく、というより確実にジュリエットの駆け落ちの相手は、公爵の回し者だと思うのだけど、この人はどこまで把握しているのだろうか。

「いやいやいや、もし知っていたら全力で止めてますよ。だって最初は喜んでいたんですよ。ライアンとも良い関係を築いている、と思っていたら、まさか使用人と逃げるなんて。何か悩みがあるなら、私に相談して欲しかったですが。」


「その、庭師とは面識はあるんですか?」

「いえ、最近雇われたとかで、面識はないですね。それに使用人なんて、わざわざ覚えないでしょう?」

シェイラはこれ以上彼と話していても何の情報も得られないことを把握した。彼はそう言う人なのだ。自分に与えられた情報を全て使って、物事を自分の目で判断することができない。

そんなだから、ジュリエットに簡単に騙されるのよ。

シェイラはそれ以降上辺の笑みで会話を終わらせて、彼を見送り、もうこれ以上彼と会うことはないな、と思った。



その後、何度か釣り書きは届いて、全員ではないにしろ、会って話をするに、やはり大公子息ほどに良い条件はない。

マートンとの間に愛情はなく、向こうに明らかな不貞行為があったことも、知られていたからか、恋人と一緒に伯爵家に婿入りしたい、とか言う者もいて、その方には丁重にお断り申し上げた。



ライアン・スペード大公子息とは、その後何度か会い、交流を重ねるに連れて、初対面の胡散臭さは徐々に薄れ、中々に個性的な面白い人物であることがわかってきた。

「それはお互い様でしょう。貴女も中々に個性的な素敵な方じゃないですか。」

いつもニコニコと貼り付けた笑顔を浮かべている彼の表情はわかりにくい。でも、じっくりと時間をかけて注意深く見ていると、少しずつ感情が伝わってくる。向こうも慣れて来て警戒心を解いてくれるようになってきたせいかもしれない。

「貴女の負担にならないように、養子は探すつもりですが、ご自身の産む可能性も前向きに考えていただけると、有り難いです。」

そんな台詞すら、揶揄うわけでもなく、彼の口から飛び出してくる辺り、向こうも少しはシェイラのことを思ってくれているのが、少しこそばゆい。

「今の私達は大恋愛の末に結ばれる筈だった女性に逃げられた男と、その余波で婚約解消された、元の婚約者には愛されなかった女、と言ったところです。

最初のうちは、社交界でおもちゃにされるでしょうが、元々グレイズ家の評判は悪い。同情してくれる家が殆どでしょう。

侮ってくる家はそれはそれで、楽しめると思いますよ。」

大公子息を表立って侮る家はないのでは?侮られるとすれば、わがブラウン伯爵家では?

「貴女は要らぬお世話だと思いますが、ユリウスも、貴女との会話で目が覚めたらしいので、私達の為に役立ってくれるらしいですよ。」

公爵に見捨てられた男、ユリウス。余計なことをしてくれるな。

シェイラの感情がわかったのか、ライアンは小さく笑い声をあげた。

「貴女が彼のような男を選ばなくて良かったです。」

シェイラの手を握り、自然な笑みを浮かべるライアンは、初対面とは全く別人の好青年に見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

似合わない2人が見つけた幸せ

木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。 *1日1話、18時更新です。

妖精の愛し子は真実の愛を知る

よーこ
恋愛
伯爵令嬢レイチェルは婚約者であるエックハルトから婚約解消を突きつけられる。 相思相愛だと思っていたレイチェルは衝撃を受ける。 理由を聞くとレイチェルが美しくならなかったからだという。 え? どういうこと?! よくある婚約解消もの。ハッピーエンドです。

あなたとの縁を切らせてもらいます

しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。 彼と私はどうなるべきか。 彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。 「あなたとの縁を切らせてください」 あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。 新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。 さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ ) 小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

政略で婚約した二人は果たして幸せになれるのか

よーこ
恋愛
公爵令嬢アンジェリカには七才の時からの婚約者がいる。 その婚約者に突然呼び出され、婚約の白紙撤回を提案されてしまう。 婚約者を愛しているアンジェリカは婚約を白紙にはしたくない。 けれど相手の幸せを考えれば、婚約は撤回すべきなのかもしれない。 そう思ったアンジェリカは、本当は嫌だったけど婚約撤回に承諾した。

あなたが望むなら

月樹《つき》
恋愛
あなたにお願いされると断れないのはどうしてかしら? 幼い頃から、ずっと一緒に育ったあなた。 ずっとずっと好きだった。 あなたが妹の事を好きだと知るまでは…。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

処理中です...