大恋愛の後始末

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「あの、まさか……ジュリエットが逃げるのを前もってご存知だったわけではないですよね?」

おそらく、というより確実にジュリエットの駆け落ちの相手は、公爵の回し者だと思うのだけど、この人はどこまで把握しているのだろうか。

「いやいやいや、もし知っていたら全力で止めてますよ。だって最初は喜んでいたんですよ。ライアンとも良い関係を築いている、と思っていたら、まさか使用人と逃げるなんて。何か悩みがあるなら、私に相談して欲しかったですが。」


「その、庭師とは面識はあるんですか?」

「いえ、最近雇われたとかで、面識はないですね。それに使用人なんて、わざわざ覚えないでしょう?」

シェイラはこれ以上彼と話していても何の情報も得られないことを把握した。彼はそう言う人なのだ。自分に与えられた情報を全て使って、物事を自分の目で判断することができない。

そんなだから、ジュリエットに簡単に騙されるのよ。

シェイラはそれ以降上辺の笑みで会話を終わらせて、彼を見送り、もうこれ以上彼と会うことはないな、と思った。



その後、何度か釣り書きは届いて、全員ではないにしろ、会って話をするに、やはり大公子息ほどに良い条件はない。

マートンとの間に愛情はなく、向こうに明らかな不貞行為があったことも、知られていたからか、恋人と一緒に伯爵家に婿入りしたい、とか言う者もいて、その方には丁重にお断り申し上げた。



ライアン・スペード大公子息とは、その後何度か会い、交流を重ねるに連れて、初対面の胡散臭さは徐々に薄れ、中々に個性的な面白い人物であることがわかってきた。

「それはお互い様でしょう。貴女も中々に個性的な素敵な方じゃないですか。」

いつもニコニコと貼り付けた笑顔を浮かべている彼の表情はわかりにくい。でも、じっくりと時間をかけて注意深く見ていると、少しずつ感情が伝わってくる。向こうも慣れて来て警戒心を解いてくれるようになってきたせいかもしれない。

「貴女の負担にならないように、養子は探すつもりですが、ご自身の産む可能性も前向きに考えていただけると、有り難いです。」

そんな台詞すら、揶揄うわけでもなく、彼の口から飛び出してくる辺り、向こうも少しはシェイラのことを思ってくれているのが、少しこそばゆい。

「今の私達は大恋愛の末に結ばれる筈だった女性に逃げられた男と、その余波で婚約解消された、元の婚約者には愛されなかった女、と言ったところです。

最初のうちは、社交界でおもちゃにされるでしょうが、元々グレイズ家の評判は悪い。同情してくれる家が殆どでしょう。

侮ってくる家はそれはそれで、楽しめると思いますよ。」

大公子息を表立って侮る家はないのでは?侮られるとすれば、わがブラウン伯爵家では?

「貴女は要らぬお世話だと思いますが、ユリウスも、貴女との会話で目が覚めたらしいので、私達の為に役立ってくれるらしいですよ。」

公爵に見捨てられた男、ユリウス。余計なことをしてくれるな。

シェイラの感情がわかったのか、ライアンは小さく笑い声をあげた。

「貴女が彼のような男を選ばなくて良かったです。」

シェイラの手を握り、自然な笑みを浮かべるライアンは、初対面とは全く別人の好青年に見えた。

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