大恋愛の後始末

mios

文字の大きさ
8 / 18

変な人

しおりを挟む
「私のことは気安くライアンと。いつまでも大公子息様、なんて呼び方はおかしいだろう。」

契約結婚の話は、前向きにじっくり考えるつもりでいたのだが、何処からか父に漏れ(多分伯爵家の侍女辺りが漏らしたのだろう)、あっという間に整ってしまった。

公表時期は要相談とのことで、世間には知られていないが、少しずつ、本当に少しずつ、シェイラとライアンの仲は近づいていった。

「では私のこともシェイラと。」
ライアンはシェイラを見る時、眩しそうに目を細めることがある。

顔が良いだけに、不意にドキッとするのは致し方ないことだ。

社交界では逃げたジュリエットの話題は未だに挙がっていたものの、逃げられた大公子息やら、ブラウン伯爵家については徐々に忘れられた存在になっていった。

ジュリエットに婚約を邪魔されたご令嬢達も新たな縁や、婚約者との和解も進み、落ち着いて来ている。ここに来て平和な日々に、すっかり弛んでいたことは否めない。だが、平和な日はあっさりと終わりを迎えることになる。

グレイズ家の醜聞が話題にならなくなったある日、ライアンと視察という名の街歩きに出たところ、ある一人の平民に服を掴まれたのだ。

ライアンの護衛が、直ぐにその手を捻り上げるも、彼女は怯まなかった。

痛い痛い、と悲壮感漂う泣き真似を披露した挙句、大騒ぎした為に、ギャラリーが増え、場所の変更を余儀なくされた。


彼女はシェイラを知っているらしく、馴れ馴れしく話しかけてきた。

「あんた、漸く会えたわ。ずっとブラウン家には行ってたのよ。あんたに会わせてもらおうと思ったのに、いつも『そんな女性はここにいません。』っていわれるんだもの。だから、名前が間違ってるのかと思って焦ったわよ。シェリー・ブラウンよね、貴女。私、覚えてるでしょう。クララ・メイズよ。久しぶりね。」

名前が間違っているのだから、ブラウン家の対応は正しい。でも、この人は誰だろう。平民の知り合いはいるにはいるが、皆シェイラをあんた呼ばわりはしないし、名前を間違えたりしない。


メイズ家を名乗ったことで、彼女が少し前に潰れた男爵家の縁者であることはわかったが、そちらはシェイラよりもライアンの方が関係してくる問題だ。

ライアンの表情から、彼も無関係らしいことがわかる。

彼女の話に耳を傾けると、彼女はよくわからない理論を展開し、二人を混乱させた。

「マートンが平民になったから、私の嫁入り先がなくなったのよ。おかげ様で貴族夫人になる夢がパァになって、もう最悪なの。でもね、今更別の貴族を狙うのは大変でしょ。だから、あんたに養って貰おうかと思って。

だって元は、あんたに働いてもらって、私と彼は後継を産む仕事をする筈だったじゃない?

だから、私をあんたの侍女として一旦雇ってみない?」

うーん、どこから突っ込めば良いのか。シェイラの困惑を他所に、ライアンは身も蓋もない言い方をする。

「コレ、必要ないのであれば、切り捨てますよ?」

ついうっかり、で頷きたくなるが、やめた。寝覚めの悪いことはしたくない。


彼女はマートンの連れて来た愛人の一人だった。シェイラは彼女の間違いをどこまで指摘するべきか迷ったが、まずは根底から正すことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

似合わない2人が見つけた幸せ

木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。 *1日1話、18時更新です。

妖精の愛し子は真実の愛を知る

よーこ
恋愛
伯爵令嬢レイチェルは婚約者であるエックハルトから婚約解消を突きつけられる。 相思相愛だと思っていたレイチェルは衝撃を受ける。 理由を聞くとレイチェルが美しくならなかったからだという。 え? どういうこと?! よくある婚約解消もの。ハッピーエンドです。

あなたとの縁を切らせてもらいます

しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。 彼と私はどうなるべきか。 彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。 「あなたとの縁を切らせてください」 あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。 新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。 さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ ) 小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

政略で婚約した二人は果たして幸せになれるのか

よーこ
恋愛
公爵令嬢アンジェリカには七才の時からの婚約者がいる。 その婚約者に突然呼び出され、婚約の白紙撤回を提案されてしまう。 婚約者を愛しているアンジェリカは婚約を白紙にはしたくない。 けれど相手の幸せを考えれば、婚約は撤回すべきなのかもしれない。 そう思ったアンジェリカは、本当は嫌だったけど婚約撤回に承諾した。

あなたが望むなら

月樹《つき》
恋愛
あなたにお願いされると断れないのはどうしてかしら? 幼い頃から、ずっと一緒に育ったあなた。 ずっとずっと好きだった。 あなたが妹の事を好きだと知るまでは…。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

処理中です...