それは私の仕事ではありません

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灯祭りに潜入した側も、順調な滑り出しを見せていた。グリドは見た目は可愛い女の子で、ドレスを着ているというのに大股でドカドカ歩き、護衛に嗜められていた。その様子がまるで、地方のご令嬢が慣れないドレスに苦心しているように見えて、案外上手に化けているなと、アネットは感心した。

グリドと組まされて最初は怯えていたエリーも、顔は怖いものの、まっすぐなグリドに心を開いてきて、微笑ましい関係を築いている。

グリドもエミリアとのことでアネットを下に見てから、今までで何か思うことがあったのか、少しアネットに対しての態度が緩やかになってきている。

野生の動物を手懐けている途中のような、あまり達成感はまだないものの、アネットは、互いに成長の余地があるような気になっていた。

今回、任せた新人達に関しては特に心配はしていない。心配なのは、寧ろアネットの方だ。自分が彼らをちゃんと導いていけるのか、不安で、それでも仕事をするしかないのだと気を引き締めた。

灯祭りはこの辺りに昔から伝わる伝統行事で、ランタンの灯りを頼りに行われるため、少し薄暗い。祭りを使って行われる悪事は、騎士団に寄せられる相談でも割と多い。どれも若い女性が拐かされたり、ある特定の人物が攫われたり、子供が居なくなったり。人を攫うには絶好の機会が祭りなのだ。

グリドがエリーと逸れた辺りで、エリーと合流する。グリドを見ていると、知らない男性から声をかけられている。グリドは話したら男だとバレる為、声をかけられたら恥ずかしがるように伝えているが、見た目が美少女だからかうまくいったようだ。

グリドが入って行った先を追いかけると、だだっ広い場所で、そこにはさっきよりたくさんの男性が並んでいる。

「これは客ね。」

グリドがその広場を歩く姿をじっと見つめる男達。まるで品定めをしているかのように見える。異様な空気に警戒を強めるアネットだが、ここで予想外のことが起きる。

グリドが連れていかれる部屋から、出てきた女がいた。

「エミリア?」

彼女は見知らぬ男性にしなだれかかるようにして、アネットとエリーの前に現れた。グリドを追わなければいけないのに、エミリアの浮かれた様子に意識を取られてしまったのである。

「エリー、エミリアを追って。」

エリーはさっと踵を返し、エミリアを尾行する。エリーがエミリアを見張っているからには、もう一方のリオン達とすぐに合流できるはず。アネットは、周りを気にしながら、グリドのあとを追った。


部屋には誰も居ない。通路を歩いてくとどこからか人の話し声が聞こえてきて、アネットは耳を澄ました。

「あのご令嬢は?」
「ああ、期待ハズレだわ。騎士を辞めて、結婚したいとか言うから、紹介したのに、アレは嫌、これも嫌、で。子供みたい。その癖、獣相手に命乞いするのよ。酷いものだわ。泣いて誰彼構わず抱きつくなんてまだ令嬢の方が毅然としているわよ。」
「所詮騎士団をクビになるような落ちこぼれという訳ね。」

「あれだと、貞淑な妻というよりも娼婦じゃない?客を選ぶわよ。」
「男を誑かすのは得意みたいだから、どうとでもなるんじゃないかしら。」

クスクスと、誰かの悪口を話す女達の声。 

アネットは彼女達に見つからないようにその場を離れた。


ズンズンと歩みを進める中、ポンと肩に置かれた手に、悲鳴を上げそうになる。

「見つけた。」
アネットは彼に見覚えはなかったが、彼はアネットを知っているみたいだった。馴れ馴れしい様子で、アネットの肩を掴むと、有無を言わさず、アネットをどこかへ連れていく。

「君、理想的な女騎士だね?王都から来たの?」

アネットは焦った。彼はマルク夫人が言っていた騎士ではない気がする。何となく逃げるべきだと思ったが、体はガッチリ押さえつけられていて、身動きが取れなくなっていた。



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