それは私の仕事ではありません

mios

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前の妻

アネットとニコルが来て女騎士達は、皆浮き足立った。この領内では、普通のご令嬢にはお目にかかれない。

マリアなどは何となく違う世界の住人だと見た目で理解するぐらいだが、アネットとニコルは良い意味で、ここにいる騎士と違うようには見えなかった。

アネット達からすれば、そちらこそ、と言いたくなるが、自分のことが客観的に見られないのは、自分も同じこと。反対しても意味がないのだから、そのまま善意として受け取ることにする。

歓迎会はいつも、そんなにかしこまった場ではなく、皆いつもよりはいい服を着て、楽しむといった夜会よりはカジュアルな会だった。

だから、元はエスコートなんて、一部の婚約者達や、新婚家庭ぐらいしかやらないものだ。

アネットは新人の為にグレイがしてくれることだと、エスコートを受けたが、それが周りにどんな影響を齎すかについてはちゃんと考えていなかった。

アネットが新人達の為に用意した余分なスーツは、今回は使わなくて済んだ。というより、女性用のスーツが新人とはいえ、男性の肉体には合わなかったので、グレイのスーツが貸し出されたのである。

「ありがとう。スーツ、貸してくれて。」
「いやいや、俺みたいな子をこれ以上出してはいけない。」

その昔、新人時代のグレイ君は、この地の貸出用を借りて歓迎会に出たことがある。彼の端正な顔にはその格好は似合いすぎて、その場にいた皆を笑いの渦に巻き込んでいったのである。

「ふふ。あの時は可愛かったわね。」
「俺の人生の汚点だよ。」

彼曰く「あれを経験したらちょっとやそっとのことではめげたりしなくなる」らしい。だから、もうあの「貸出用」は、表に出してはならぬと心に決めたそうな。

「そういえば、先生は?お仕事?」
先程からグレイには会うが、先生には全く会えずにいた。どうせ歓迎会には出るだろうから良いか、と思えたが、グレイと話していると懐かしい思い出話ばかりがあふれて、先生に会いたくなってしまった。

「先生は、っていつまで先生なんだよ。」
「だって先生は先生よ。」
グレイは、先生ことフランクがどこにいるかは見当がついていたが、アネットには言わないでいた。

グレイの予想では、フランクは、元奥様の墓の前にいる。アネットが来たことを伝えているのか、許しを乞うているかはわからない。

妻を一生愛する、と誓い、その誓いを破ることを墓の中にいる人はどう思うのだろう。自分がもう死んでいるから良いと思えるのだろうか。

フランクの前の奥様は、グレイはあまり覚えていない。あまり、印象に残らない人だった。儚げでか弱そうな人。アネットとは真逆で、少なくともグレイの好みのタイプではなかった。

か弱い、儚げな騎士の妻。フランクもグレイと同じタイプが好きってことは、少なくともフランクの方はある程度の我慢を強いられていた、ということだ。

「政略結婚はそんなもんだ。」

フランクならきっとそういうだろう。

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