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婚約破棄からの幸せ
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婚約破棄を言い渡されたルーシーは、家に戻り、公爵に報告した。
公爵家には、実は今日の騒動が前もって伝えられていた。学園に入った辺りから何度となく疑われた禁忌魔法の使用が散見されたからだ。
禁忌魔法とは、闇魔法の一種で人心を操る魅了魔法。王子妃教育で知識のあったルーシーはすぐにその使用を見破った。だが、誰が使用したかについてははっきりとはわからなかった。
卒業パーティーのあの日、ようやく使用者が判明したので、その報告を公爵にしたのだが……
「認めたくはなかったが、やはりか。」
「ええ、陛下によりますと、能力を封じ、平民に落とすとのことですわ。愛する人と一緒にいられるのですから、感謝していただかないと。」
公爵は静かに怒れる我が娘を一瞥し、溜息をつく。厳しい王子妃教育に、弱音も吐かずやり遂げた娘は身に纏う鎧をさらに強くして、どんどん強くなっていく。
禁忌である魅了魔法は代々王家に関係がある。魅了魔法を扱う者には、王族の血が流れているとされ、男爵令嬢であるエリカに疑いの目が向いたのだが、結果は言うまでもなく白。
「念の為、六代先まで追ってみましたが、王族との関わりは出ませんでした。」
それなら、と、彼女の脇を男女で囲って、そのかけられた程度の差を確認したところで、その力の全貌がわかった。
魅了魔法は禁忌魔法であるが故に、使用者は独学で学ぶ。ルーシーは、魔法に秀でているため、多くの微力な魔法は跳ね返してしまうため、効かない。
レナードをはじめとするエリカの周りで魅了にかけられたのは、たった一人だった。ほぼ毎日一緒にいたのだから、それだけ多く浴びてしまっても仕方ないのかもしれない。
危険性は薄々感じていたルーシーが二人に注意を促した時に、嫉妬だと喚き、話を聞かなかったのは当人達だ。だから、こちらが悪いわけではない。
そうは言っても、罪悪感は少し残る。ルーシーの身につけていた魔道具を使えば、魅了魔法は回避できていたのだから。
国外追放になり、平民になることもなかっただろう。
「お前が罪悪感を感じる必要はない。アレは引き返すチャンスはいくらでもあったのに、そうしなかった。お前は被害者なのだから、気に病むことはないよ。」
公爵は、愛娘にそう言って、報告書に目を通した。
二人を降ろし、帰りを急ぐ騎士は、後ろを振り返ることはしない。この辺りは治安が悪く、武装した騎士でも、襲われることがある。彼らをここに放置したことは、ルーシーには伝えない。ただ任務を遂行したと言うだけだ。
アレックスはルーシーの幼馴染だ。昔から可愛い妹のように感じていた。行く行くは一緒に家を盛り立てていけば良いと思っていたのだが、ある日急に第一王子と、ルーシーの婚約が決まってしまった。
ルーシーの男性のタイプは知っている。筋肉隆々の騎士が好みだ。公爵位を継がない代わりに騎士団に入り、彼女の望むような男になろうと思っていたのに、王子なんかに取られるなんて。
王子とルーシーを未練がましく見ていると、わかったことがある。ルーシーの目が魔法にかけられたように虚になることがある。
魅了魔法を使うのは王族だけだ。それも最近は王族の中でも見ない魔法であることから、教師も、魅了魔法の対処が不十分であったことは予想できた。
アレックスはお小遣いでルーシーに婚約祝いと称し、魔道具を渡すことに成功した。
王子は一度、魅了に成功した筈のルーシーが急に冷たくなって焦ったことだろう。それから何度となく、使用された形跡は見つかったが、ルーシーは無事だった。
アレックスは、二度とルーシーが危険に晒されない様に、身代わりを用意することにした。マロワ男爵家のエリカ嬢は、王子様のレナードに恋をしていた。彼女は夢見る少女であって、男爵令嬢ながら、公爵令嬢のルーシーを悪と決めつけ、レナードに媚びた。
レナードは、いくら頑張っても手に入らないルーシーよりも安易に魔法にかかったエリカに狙いを定めた。
彼らの誤算と言えば、レナードの操る魅了魔法が思いの外、弱かったことと、国王夫妻がレナードを簡単に切り捨てたことだろう。
魅了魔法を使い、努力に下駄を履かせる第一王子と、魅了魔法を使わずに努力して、多くの者に受け入れられた第二王子。
魅了魔法がなくなった今、今後の二人には、困難が付き纏う。
魅了魔法もなく、王子という肩書きをも失ったレナードは、エリカ嬢の目にはどう映るのか。
アレックスはニヤリと笑うと、後は早く帰ることに集中した。
自分ものんびりしている暇はない。今度こそ大切な人を手に入れるのだ。
「結局、あの魔道具はどうなったかしら。」
アレックスの隣にはあの婚約破棄から更に美しくなったルーシーの姿。
「ああ、魅了魔法の対象者を一人に契約する、アレね。」
「そう、アレを使えば、王子でなくなったとしても、まだ夢は見られるのでしょう?ただのレナードを彼女が受け入れるならば。」
「どうかな?彼女は、王子様のレナードに心酔していたからね。それに、あの様子じゃあ、彼が本物のレナードか全くわからない様子だったよ?」
魅了魔法は、自身の魅力を最大限に強力にし、相手の好意につけ込む魔法。少しでも好意のある相手にしか反応しないシビアな魔法。
だから、王子に全く思い入れのない、他の女生徒には効果を発揮しなかった。
エリカとて、王子と言うフィルターがあったからこそ、魅了にかかったのだ。
そのフィルターがない今魅了魔法をかけたところで効果があるかどうかは、神のみぞ知る。
公爵家には、実は今日の騒動が前もって伝えられていた。学園に入った辺りから何度となく疑われた禁忌魔法の使用が散見されたからだ。
禁忌魔法とは、闇魔法の一種で人心を操る魅了魔法。王子妃教育で知識のあったルーシーはすぐにその使用を見破った。だが、誰が使用したかについてははっきりとはわからなかった。
卒業パーティーのあの日、ようやく使用者が判明したので、その報告を公爵にしたのだが……
「認めたくはなかったが、やはりか。」
「ええ、陛下によりますと、能力を封じ、平民に落とすとのことですわ。愛する人と一緒にいられるのですから、感謝していただかないと。」
公爵は静かに怒れる我が娘を一瞥し、溜息をつく。厳しい王子妃教育に、弱音も吐かずやり遂げた娘は身に纏う鎧をさらに強くして、どんどん強くなっていく。
禁忌である魅了魔法は代々王家に関係がある。魅了魔法を扱う者には、王族の血が流れているとされ、男爵令嬢であるエリカに疑いの目が向いたのだが、結果は言うまでもなく白。
「念の為、六代先まで追ってみましたが、王族との関わりは出ませんでした。」
それなら、と、彼女の脇を男女で囲って、そのかけられた程度の差を確認したところで、その力の全貌がわかった。
魅了魔法は禁忌魔法であるが故に、使用者は独学で学ぶ。ルーシーは、魔法に秀でているため、多くの微力な魔法は跳ね返してしまうため、効かない。
レナードをはじめとするエリカの周りで魅了にかけられたのは、たった一人だった。ほぼ毎日一緒にいたのだから、それだけ多く浴びてしまっても仕方ないのかもしれない。
危険性は薄々感じていたルーシーが二人に注意を促した時に、嫉妬だと喚き、話を聞かなかったのは当人達だ。だから、こちらが悪いわけではない。
そうは言っても、罪悪感は少し残る。ルーシーの身につけていた魔道具を使えば、魅了魔法は回避できていたのだから。
国外追放になり、平民になることもなかっただろう。
「お前が罪悪感を感じる必要はない。アレは引き返すチャンスはいくらでもあったのに、そうしなかった。お前は被害者なのだから、気に病むことはないよ。」
公爵は、愛娘にそう言って、報告書に目を通した。
二人を降ろし、帰りを急ぐ騎士は、後ろを振り返ることはしない。この辺りは治安が悪く、武装した騎士でも、襲われることがある。彼らをここに放置したことは、ルーシーには伝えない。ただ任務を遂行したと言うだけだ。
アレックスはルーシーの幼馴染だ。昔から可愛い妹のように感じていた。行く行くは一緒に家を盛り立てていけば良いと思っていたのだが、ある日急に第一王子と、ルーシーの婚約が決まってしまった。
ルーシーの男性のタイプは知っている。筋肉隆々の騎士が好みだ。公爵位を継がない代わりに騎士団に入り、彼女の望むような男になろうと思っていたのに、王子なんかに取られるなんて。
王子とルーシーを未練がましく見ていると、わかったことがある。ルーシーの目が魔法にかけられたように虚になることがある。
魅了魔法を使うのは王族だけだ。それも最近は王族の中でも見ない魔法であることから、教師も、魅了魔法の対処が不十分であったことは予想できた。
アレックスはお小遣いでルーシーに婚約祝いと称し、魔道具を渡すことに成功した。
王子は一度、魅了に成功した筈のルーシーが急に冷たくなって焦ったことだろう。それから何度となく、使用された形跡は見つかったが、ルーシーは無事だった。
アレックスは、二度とルーシーが危険に晒されない様に、身代わりを用意することにした。マロワ男爵家のエリカ嬢は、王子様のレナードに恋をしていた。彼女は夢見る少女であって、男爵令嬢ながら、公爵令嬢のルーシーを悪と決めつけ、レナードに媚びた。
レナードは、いくら頑張っても手に入らないルーシーよりも安易に魔法にかかったエリカに狙いを定めた。
彼らの誤算と言えば、レナードの操る魅了魔法が思いの外、弱かったことと、国王夫妻がレナードを簡単に切り捨てたことだろう。
魅了魔法を使い、努力に下駄を履かせる第一王子と、魅了魔法を使わずに努力して、多くの者に受け入れられた第二王子。
魅了魔法がなくなった今、今後の二人には、困難が付き纏う。
魅了魔法もなく、王子という肩書きをも失ったレナードは、エリカ嬢の目にはどう映るのか。
アレックスはニヤリと笑うと、後は早く帰ることに集中した。
自分ものんびりしている暇はない。今度こそ大切な人を手に入れるのだ。
「結局、あの魔道具はどうなったかしら。」
アレックスの隣にはあの婚約破棄から更に美しくなったルーシーの姿。
「ああ、魅了魔法の対象者を一人に契約する、アレね。」
「そう、アレを使えば、王子でなくなったとしても、まだ夢は見られるのでしょう?ただのレナードを彼女が受け入れるならば。」
「どうかな?彼女は、王子様のレナードに心酔していたからね。それに、あの様子じゃあ、彼が本物のレナードか全くわからない様子だったよ?」
魅了魔法は、自身の魅力を最大限に強力にし、相手の好意につけ込む魔法。少しでも好意のある相手にしか反応しないシビアな魔法。
だから、王子に全く思い入れのない、他の女生徒には効果を発揮しなかった。
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