中学生捜査

杉下右京

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第8話 幻のUFO

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そのUFは山奥にあった。それを所有していたのは佐々木太郎という人物である。
しかしUFは廃墟化していた。かつては居住できるようになっていたようだが、中は朽ち果ててみるに堪えない状態となっている。そんなUFを佐々木は管理することができず、ほぼ放置状態だった。
そんな佐々木が殺されたのは寒波が流れ込む2月3日の愛知県豊田市の山奥だった。
「異世界から飛んで来た物の中で殺されたってことか。」
そう言って遺体に合掌をしていたのは愛知県警捜査一課の北野だった。
「UFと言っても人工物ですからね。昔は流行ったらしいですけど今はほとんどが廃墟化しているそうです。」
「しかし、UFの家に住めるなんてなかなか良いよな。」
「先輩マンション住まいですからね。結婚もせずに。」
「結婚していないのはお前もじゃねえかよ。自分だけ結婚してるつもりかよ。」
「すみません。」
愛知県警捜査一課の沢村はにやりと笑いながらそう言った。
「にやにや笑ってんじゃねえよ。」
北野はそう言って沢村を叩いた。
「お楽しみのところ申し訳ありません。」
そう言って2人の間に入って来たのは愛知県警鑑識課の沼田だった。
「おお、遺体はどうだ。」
「腹部を鋭利な刃物で刺された失血死ですな。UF内に争った形跡はありませんので別の場所で殺害されてこのUFに運び込まれたのでしょうな。」
「死亡推定時刻は?」
「昨日の午後と考えられます。」
「犯人はこのUFについて被害者と揉めたのかもしれねえな。」
「とすると怨恨の線ですかね。」
沢村が北野に尋ねた。
「俺はそう思うが、被害者には身寄りもいないみたいだからな。聞き込みをして情報を得るのは難しいだろうな。」

その後廃墟化UF殺人事件の捜査会議が行われた。会議には猪俣が出席していた。
「怨恨の線だとは思いますが、被害者の事をよく知っている人物は見つけられていなくて、捜査は難航しています。」
「被害者だけじゃなくて被害者が所有していたUFについても調べればいいだけの話じゃないのかね?」
猪俣は北野たちを叱責した。
「申し訳ありません。」
だが警察の捜査は一向に進まなかった。というより進められなかった。情報が少なすぎたからだ。

「UFで殺人事件ですか。」
そう言って沼田の話を聞いているのは今まで数々の難事件を解決してきた久野隆だ。
「私もUFには興味がありまして。子供のころはよく、UFを探していたものです。」
「へー沼田さんってUFとかそういうの好きなんだ。」
そう言ったのは隆と行動を共にする加納マリアという。
「ええ、なんかそういうものには私の心をひきつける何かがあるような気がいたします。」
沼田のセリフを聞いてマリアは笑ってみせた。
「ところで沼田さん、事件について警察はどこまでの情報をつかんでいるのでしょうか?」
「ああ、殺されたのは佐々木太郎という人物です。殺害された場所は佐々木が所有していたUFですね。」
「それは先程聞きました。そのUFの画像を見せていただけませんか?」
「ええ、ころです。」
沼田はそう言ってUFの画像を隆に差し出した。
「おや、これはレア物ですねぇ。」
「レア物って?」
マリアが隆に尋ねた。
「これは1960年代に日本で開発されたUFの形をした家ですねぇ。」
「そうなんですか!」
マリアはそんな家があったのかと驚いている。
「さすがは隆さん、よくご存じですね。生活にも使えたといいます。」
「たしかそのUFは1960年代に製造のピークを迎えましたが70年代に入ると製造台数は激減してしまいました。日本では現存しているのは3つと言われています。」
「ええ、しかし、3つとも行方が分かっていませんでした。」
沼田は隆の発言にそう付け足した。
「しかし今回の殺人事件でその1つが発見されたということですね。」
隆はそう言って思い出したように沼田に尋ねた。
「第一発見者はどなたですか?」
「それがとても不審な110番通報がありまして。」
「不審な通報?」
マリアは尋ねた。
「これを聞いてください。」
沼田はそう言って不審だという通報を隆とマリアに聞かせた。
「では再生いたします。」
沼田はそう言って再生ボタンを押した。着信は公衆電話からのようだ。遺体が発見された現場の最寄りの公衆電話だった。

「もしもし。事件ですか?事故ですか?」
電話を受けた係員がそう尋ねた。
「近くの廃墟化したUFの中で男が倒れていた。」
「場所はどこですか?」
「逆探知で調べればいいだろ。」
電話はそこで終わった。
「これが電話の音声です。」
「なるほど。そのような通報があったので警察が電話を掛けた公衆電話周辺を調べて遺体を発見したんですね。」
「そういうことですな。」
「ところで、沼田さん、佐々木さんの自宅は現在どうなっているのでしょう。」
「住む人がいなくて放置されている状況です。捜査も終わったみたいですから廃墟化ですね。」
マリアは隆が何を考えているのか察したらしく、上着を着た。
「行くんですよね。佐々木さんの自宅に。」
「ええ、行きますか。」

佐々木の自宅は豊田の山奥にあった。
「まずは大曽根駅まで行って名鉄瀬戸線に乗って瀬戸市まで行きましょう。」
名鉄瀬戸線とは栄町駅から尾張瀬戸駅までを結ぶ名古屋鉄道の路線である。
隆とマリアは5分程電車を待って尾張瀬戸行きの電車に乗り込んだ。
「君、瀬戸線に乗ったのは初めてですか?」
「初めてです。」
「なるほど。」
隆がそう言うと電車は走り始めた。始めは高架の上を走っていたがそのうち地上を走り始めた。
電車は新瀬戸駅という駅で停車した。
「マリアさん、降りますよ。」
名鉄瀬戸線新瀬戸駅で隆とマリアは降りた。そしてそこから歩いて数分の瀬戸市駅で愛知環状鉄道線に乗り換えた。
「遠いですね。」
マリアは眠たそうにしている。
「ええ。」
電車に乗ってからかなり時間が過ぎたころ、新豊田駅というところに着いた。
「やっと着きましたね。」
「ええ。」
隆も少々疲れ気味だ。
駅前は結構栄えていて、人もまあまあいる。
「結構栄えてますね。」
「ええ、海外の人には名古屋市よりも豊田市の方が有名らしいですよ。」
「そうなんですか?」
マリアがそう問うと。
「何しろ世界的に有名なトヨタという自動車会社がありますからねぇ。」
と隆は答えた。
「ああ、確かにそうでしたね。」
マリアは納得した。
駅から佐々木の自宅まではタクシーに乗った。

隆とマリアがタクシーを降りたのは聞いていた通り、山奥だった。
その山奥から地図にピンを打ってある佐々木の自宅に歩いて向かった。
傾斜や勾配がきつくて2人して息を切らしながら佐々木の自宅にたどり着いた。
「これはこれは、隆さんとマリア殿。何か御用でしょうっか?」
家の前には北野と沢村がいた。
「おや、捜査は終わったのではありませんでしたか。」
2人は答えなかったので
「猪俣刑事部長ですね。」
と隆は言った。
「まあご想像にお任せします。」
「まあそれはともかく、佐々木さんの自宅の中を見せていただけないでしょうか。」
隆に代わってマリアがそう言った。
「そういう命令を受けているものですから。大変口惜しいですが、どうぞおあがりください。」
「どうもありがとう。」
「どうも。」
隆とマリアは佐々木の家に上がった。
家は意外と片付けられていた。
「おや、これは何でしょうねぇ。」
ここで隆が何かに気が付いたようだ。隆が見つけたのはカレンダーだった。
「ただのカレンダーじゃないですか?」
マリアがそう言った。
「このカレンダー、写真が付いているのですがすべてUFの写真のようですねえ。」
どうやら隆はカレンダーに興味を持ったようだ。
「つまり佐々木さんもUFが好きだったということですかね。」
「ええ、このカレンダーを作成しているのはUFを愛する会というところのようですねえ。」
隆はカレンダーの右下に書かれている会の名前を読み上げた。
「気になりました?」
マリアが隆に尋ねた。
「そうやって僕の心理を推し量るような態度がどうも癪に障りますねえ。」
隆は不愉快そうに言う。
「す、すみません。」
「まあ気になったのは事実ですが。山田君の家に戻ってこのUFを愛する会について調べてみましょう。」
隆はそう言って佐々木の家から出ていった。
マリアは内心落胆していた。わざわざこんな山奥まで来て、カレンダーを見て帰るだなんて。交通費は隆が支払ってくれてはいるが、マリアは不満だった。だが隆と事件の操作をするのは楽しい。隆がどのように犯人を追い詰めていくのか、マリアの中では一種の芸のように感じていた。

山田の家に戻ると山田が気前良く二人を出迎えた。
「おかえり!」
「どうも。」
隆はそう言って頭を下げる。部屋に入るとコートを脱いでハンガーにかけた。いつものサスペンダー姿である。そんな姿で椅子に腰掛けた隆は早速パソコンを起動させた。隆は一度気になると止まらない人種だった。マリアにとっては厄介な人種である。
隆はその数分後に調べた結果を言い始めた。その間、マリアは隆のサイダーをこっそり喉に通し始めた。
「殺された佐々木さんはUFを愛する会の副会長でしたか。」
「そうなんですか!」
マリアは驚いている風に装ってみた。
「しかし、妙ですねえ。」
隆は何か引っかかったみたいだったが、マリアには隆の頭の中など分からなかった。仕方がなく自分の頭を使ってみるも、何一つとして思い浮かんでくるものはなかった。
「なにがです?」
マリアはそう尋ねるしかなかった。
「考えてもみてください。UFを愛する会の副会長ともあろう人間がUFを朽ち果てるまで放置しますかね。」
「確かに。佐々木さんが会の名前通りUFを愛していたならば放置なんかしませんよね。」
マリアは心の底から納得した。しかし隆の着眼点には毎回驚かされる。

UFを愛する会は会長の灰谷健次郎の自宅を拠点としていた。活動内容は主に、UFの形をした住居を守るということだ。
灰谷の自宅は愛知県名古屋市中区にあった。ごく普通の家庭ではとても購入できないような一等地にある。ついでに豪邸ときた。マリアは自分の家よりも大きい家に呆気に取られていた。
「随分立派な家ですね。」
「ええ、この家を会の活動拠点としているそうです。行きましょう。」
隆はそう言って家のインターホンを押した。
「私たち中学生なんだから怪しまれて追い返されると思いますよ。」
マリアは諦めるような口調でそう言ったが隆の耳にはあまり入ってこなかった。どうやら隆には灰谷に怪しまれないための秘策があるらしい。
「はい。」
インターホンから男の声が聞こえてきた。灰谷健次郎だろうか。
「どちら様でしょうか?」
灰谷は不審感の滲み出た声でそう言った。
失礼ですが灰谷健次郎様でいらっしゃいますか?」
「そうですけど。」
「実は我々、UFを愛する会に入会したいなと考えておりましてね。少しお話を伺えればと、アポも入れずに押しかけた次第なんですが。」
「そうですか。全然時間あるんで大丈夫ですよ。他の会員もいますし。」
どうやら今現在UFを愛する会の集まりが行われているらしい。
家に入ると灰谷が歓迎してくれた。どうやら灰谷は心の底からUFを愛しているらしい。
「どうぞ。」
隆とマリアは広間のようなところに案内された。そこには灰谷の他に二人の男がいた。
二人は不審者でも見るような目でこちらを見つめていた。
「ふたりともそんな顔しないでよ。こちらUFに興味があるという中学生です。」
「はじめまして。中学生の久野隆と申します。」
「同じく、中学生の加納マリアです。」
これまで隆たちを見つめていた目が変わったのが読み取れた。
「君、UFに興味があるの?珍しいね。私は林正武と言います。」
そのうちの一人がそう言った。その男は白髪交じりで初老だった。
「いや、来客とは嬉しいね。今日はUFについて語り合いましょう。私は上杉貴樹と言います。」
もうひとりが挨拶した。こちらも初老の男だった。
「早速ですがこの会を立ち上げたきっかけというのは何だったのでしょう?」
会話を切り出したのは隆だった。この質問には会長の灰谷が答えた。
「1960年代にアメリカなどの国ではなく日本で開発されたUF型の住居に一目惚れしてね。だが時代が進んでいくにつれて劣化していった。そんなUFを守ろうとこの会を立ち上げたんだ。」
灰谷は夢中そうにそう語った。
「ご立派な志の元、設立された会なのですね。感服いたしました。では、林さんと上杉さんはいつからこの会に?」
隆はそう質問した。この質問には林が答えた。
「設立当時からですよ。もともと灰谷とは仲が良かったものですから。」
「なるほど。そうでしたか。」
ここで隆は事件についての質問をした。
「実はこの会について調べたんですがね。副会長の佐々木太郎さんは今日はいらっしゃらないのでしょうか?」
マリアは内心、いやらしい質問だなと思った。隆は佐々木がもうこの世にいないことを知りつつ、このような質問をして事件について話させようとしているのだ。捜査のためとはいえ、中々むごいことをする。
「彼は少し前に亡くなりました。何者かに殺されたそうです。」
灰谷が残念そうに言った。
「UFへの熱情は彼もすごかったのに。」
「心中お察しします。」
マリアはそう言った。
「ああ、その事件、ニュースで見ました。確か、UFの中で遺体が発見されたそうですねぇ。」
「ええ、うちの会では日本にある3つのUFの居場所をすべて把握しております。」
「おや、そうなんですか。」
隆は少々驚いた。
「ということはそのうちの1つを亡くなった佐々木さんは所有していたんですね。」
隆はそのような仮説を立てた。
「残りの2つはどうされたんです?」
隆が言わんとしていることを察したマリアは隆に代わってそう質問した。
「1つは私が。もう1つは林が所有しております。」
と、灰谷が説明した。
「ということは、日本にあるUFは全て会の誰かが所有しているということですね。」
「まあ、そういうことですね。」
「なるほど。」
隆はそう言って灰谷たちと話し込み始めた。マリアも次第に灰谷らと話し始めて話は盛り上がりを見せた。

「どうやら、灰谷、林、上杉の三人のUFへの熱情は嘘偽りのないものだったようですねぇ。」
隆は帰りに歩きながらそう言った。
「そうですね。彼らの思いがひしひしと伝わってきました。」
マリアもそう言って今までの事を振り返った。
「では、佐々木さんはどうだったのでしょう?」
「え?」
マリアは隆の質問の意図が分からなかった。
「僕は佐々木さんはUFにさほどの思いがあったわけではないと考えています。」
「え?なんでですか?」
マリアは頭の上にハテナマークを浮かべた。
「考えても見てください。佐々木さんがUFに情熱があったのであればあそこまで朽ち果てるほど放置しますかねぇ。」
「確かに。でもだったら、なぜ佐々木さんはUFを愛する会に入会したのですか?UFを愛していないのなら入会する意味がないと思うのですが。」
マリアは自分の考えを隆にぶつけてみた。
「ええ、その通りです。では佐々木さんがUFを愛していたとしたら、どうでしょう?」
「は?」
マリアは隆が何を言っているのか全く分からなかった。
「今佐々木さんはさほどUFに興味がなかったのではないかという仮説を立てたのは隆さんですよ。」
「さすがの君もそこには気が付きましたか。」
「は?」
「失礼。今のはちょっとした思考実験です。佐々木さんもUFに対して熱い思いがあったということは確かです。」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「佐々木さんの家にはUFの置物やカレンダーがたくさん置いてありました。」
確かに佐々木の家にはUF関連の物が多かったような気がする。
「そういえばそうでしたね。」
マリアはそう答えた。
「しかし、それは佐々木さんの自宅の内部を知らなければいえないことではありませんか?」
「まあ、そりゃそうですよね。」
「つまり、佐々木さんのUFの管理状態のみを見た場合には先程の僕のように佐々木さんはさほどUFに興味がないと考えられるわけです。」
マリアはピンときた。隆の言っていた思考実験とはそういうことだったのか。
「ということは。犯人は。」
「ええ。UFを愛する会の会員のだれか、ということになりますねぇ。」

山田の家に戻った隆とマリアは北野に電話をしていた。
「なんですか。隆さん。我々も忙しいんですがねぇ。」
「申し訳ない。1つだけ。」
「なんです?」
「佐々木の金周りについて教えていただけませんか?」
隆のこの質問に北野はしぶしぶ答えてくれた。


「やはりそうでしたか。」
電話を終えた隆はそうつぶやいた。
「何がです?」
「佐々木は金に困っていたそうです。」
「なるほど。それがUFを管理できなかった理由、というわけですね。」
「そういうことです。」
隆は強く頷いた。
「僕としたことが。」
「どうしました?」
「北野さんにもう1つ調べてもらいたいことがあるんでした。」

翌日、隆とマリアは再び灰谷の家を訪れていた。
「毎日毎日申し訳ありませんね。林さんや上杉さんまで呼び出してしまって。」
隆は前回灰谷の家に訪問した際に灰谷、林、上杉の連絡先を聞いていたのだ。
「いえいえ、で、今日は何用ですか?」
灰谷が隆にそう尋ねた。
「今日は佐々木さんが殺害された事件についての話をしようと思いまして。」
マリアが隆に代わってそう説明した。
「なにかあったんですか?」
上杉が尋ねる。
「単刀直入に申し上げます。佐々木さんを殺害したのはあなた方3人ですね。」
隆がそう言った瞬間、3人の顔が一瞬にして曇った。
「いきなりどうしたんですか。探偵ごっこでも始めました?」
林がそう言った。
「まあ確かに我々のしていることは探偵ごっこかもしれませんねぇ。」
隆はそう言って笑って見せた。隆はさらに続ける。
「その探偵ごっこに随分はまってしまいまして。」
「その探偵ごっこに付き合わされる身にもなってくださいよ。」
林が嫌みったらしくそう言った。
「申し訳ありません。よろしければ最後まで探偵ごっこにお付き合い願いたいと思います。」
隆の言葉に林はため息をついて沈黙した。
「では話を始めます。佐々木さんが殺害されたのはUFの中ででした。」
「ちょっとすみません。」
ここで林が口を挟んだ。林は続ける。
「UFを心の底から愛している我々がUFを死体で汚すようなことをするわけがないじゃないですか?」
「まあとりあえず、話を聞いてください。」
隆は続ける。
「佐々木さんはこの会の幹部の人間でありながらUFを放置していました。その事を知った人物が怒って彼を殺害したと我々は考えています。つまり、犯人はUFをとてつもなく愛している人物ということになります。そうやって考えると真っ先に思い当たる人物がいました。ええ。あなた方です。」
「ではなぜ我々がUFに死体を置くようなことをするというんですか?」
「おや、佐々木さんがUFで殺されたのではなく別の場所で殺害されて遺体がUFに運ばれたということはマスコミでも報道されていません。なぜその事を知っているのですか?」
林は黙り込んだ。
「もうくだらない言い訳はやめませんか。あなた方が佐々木さんを殺した。違いますか!」
隆は平然と言ったがその言葉は重たく鋭いものだった。
「じゃあ、、、じゃあ、我々はなぜUFに死体を運んだのかを説明してくださいよ!」
林は力ずよくその言葉を放ったつもりだったがそれは灰谷の耳に届くのがやっとだった。
「もう、やめよう。林君。」
灰谷が林に言った。その言葉に林は涙を流した。
「犯行をお認めになるんですね。」
「はい。我々が佐々木を殺したんです。」
灰谷は涙声で言った。
マリアは切ない気持ちになる。
「しかし、まだお若いのにすごいですね。我々が犯人だとわかるなんて。」
「犯罪とは必ず暴かれる日が来ます。それが今日という日で、暴いたのが中学生というだけです。」
「でも最後に聞かせてください!我々がなぜ死体をUFに運んだのか!あなたの推理を、聞かせてください!」
黙り込んでいた林が最後に力を振り絞るかのように言った。
「そうですねぇ。佐々木さんを自宅か何かで殺害した後、あなた方は自宅に死体を遺棄するつもりだったのでしょう。それで佐々木さんの自宅を訪ねた。そこにはUFの置物やグッズ、そして佐々木さんが金に困っていたことも自宅で知ったのでしょう。あなた方は自分たちの勘違いで佐々木さんを殺してしまった。そう思ったのではありませんか?そしてせめて佐々木さんをUFで死なせてあげようと考えたあなた達は遺体をUFに遺棄した。どうでしょう?」
隆は自分の推理を披露した。
「大当たりです。よくわかりましたね。」
上杉がそう言った。
「お褒めにあずかり光栄です。」
「しかし、こうも早く佐々木の遺体が発見されるとは思いませんでした。」
「ええ、それがあなた方の誤算でした。しかし、遺体が早く発見されたのにもきちんとした理由があるんですよ。」
その瞬間、家の中に男2人が入ってきた。
「失礼しますよー」
北野と沢村だ。
「久野隆に代わって私から説明しましょう。」
北野はそう言った。
「まずはこれを聞いてください。」
沢村がそう言って佐々木の遺体があるという不審な通報を灰谷たちに聞かせた。隆たちが沼田から聞いた物である。
「なんですかこれは。」
上杉が頭の上にハテナマークを浮かびあげた。そんな上杉に隆が説明した。
「これは佐々木さんの遺体が見つかったUFの最寄りの公衆電話からの通報です。」
「ちょっと待て。」
ここで北野が割り込んできた。
「なんであなた方がこの不審な通報の事を知っているのでしょうか?」
「さあ、風の噂でしょうか。」
隆はそうごまかしたが、北野には1人思い当たる人物がいた。
「沼田の野郎。」
悔しそうにそうつぶやいた。
「まあ、それはともかく。」
隆はそう言って説明を続けた。北野の悔しさは倍増した。本来自分が手柄のように説明するはずが隆に仕事を奪われてしまったからである。そんな北野など気にしていないかのように隆は説明を続けた。
「この不審な通報をした人物が特定できました。」
灰谷たちは言葉には表さなかったものの、通報者が誰か気になるそぶりを見せた。
「通報者はこの会の会員でした。」
「あなた達と同じように純粋にUFを愛していた人物でした。UFを見に行った時に佐々木さんの遺体をUFに運ぶのを目撃したそうです。」
隆に次いで口を開いたのはマリアだった。
「その方は気づいたのでしょうねぇ。犯人はあなた方3人であることを。そしてあなた方をかばうためにあのような通報をしたんです。」
「そうだったんですか。」
灰谷はそう言った。
「隆さん、今日も必要ない捜査の協力を頂きありがとうございました。」
北野はそう嫌味を言うと灰谷たちを連行した。

そんな灰谷たちの前に1人の男が現れた。UFを愛する会の会員である。
「今までお疲れさまでした。」
彼はそう言って頭を下げた。その瞬間、灰谷は唐突に理解した。この男は先程聞いた不審な通報をした人物だと。
灰谷は返事をする余裕もなく連行された。

隆とマリアは山田の家に戻った。その頃にはもうすっかり夕方になっていて山田は隆の椅子に座って昼寝をしていた。
「山田君?」
隆はそう言って山田を起こした。
「なんだ。帰ってきてたのか。いや、昼寝しちまってさあ。」
「それはいつものことじゃないですか。」
とマリアは言った。
「で、事件はどうだった?また活躍したみたいじゃないの。犯人、捕まったらしいね。」
「おや、山田君、ご存じなんですか?」
隆が不思議そうに聞いた。
「テレビでやってたよ。」
山田がそう言ってテレビをつけるとニュース番組でちょうど灰谷たちが連行されていく映像が映っていた。
「この事件で今まで幻と言われてきたUF型の住居が存在することが明らかになったし、その場所も分かった。SNSではかなり拡散されてるらしいぞ。」
山田は相当暇なのだろう。かなり詳しい。
隆は大好きなサイダーのふたを開けて飲み始めた。
「しかし、思わぬ形で発見され、注目されることになりましたね。UF。」
マリアはしみじみと言った。
「正確にはUFの形をした住居ですがね。」
隆はそう訂正した。
「結局のところ、この事件が引き金となってUFを荒らしたりする人が増えてくるんでしょうねぇ。」
マリアはそう危惧した。
「一時はそうかもしれません。」
隆はマリアに同意した。だが続ける。
「しかし、この事件をもとに新たにUFに興味を持つ人が出てくるかもしれませんよ。灰谷さんたちは逮捕されてしまいましたから、直接的にUFを管理することは難しいでしょう。そんな時に同志の方々が管理して引き継いでいく。そんな風になっていくことを願いましょう。」
隆はそう言ってサイダーをごくごく飲み始めた。
「そういえばあの人が引き継ぐかもしれませんね。灰谷さんが連行されるときに挨拶してた人。」
「かもしれませんねぇ。」
隆はそういうとにこりと笑った。
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